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カスタマーサクセスはSaaS業界の仕事として定着し、注目を集めるようになりました。訪問営業から転職を考える人も増加しています。しかし、「自分に向いている仕事なのか」「未経験でも転職できるのか」「どのような面接対策をすればいいのか」という不安を抱くことが多いのではないでしょうか。
ここでは、経験者から未経験者まで、カスタマーサクセスの転職に関連して知っておきたい情報を取り上げます。
1. カスタマーサクセスに転職する魅力とは?
業務効率化や生産性向上は、さまざまな企業のあらゆる部門で重視されています。こうした課題を解決するために、クラウド上のサービスであるSaaSが積極的に導入されるようになりました。しかし、SaaSは導入すれば必ず効果があるとはいえません。現場の業務に合わせて活用することにより、はじめてSaaSを導入した価値が生まれます。
SaaSの迅速かつスムーズな導入を促進し、最大限に活用するために必要な支援を行う職種がカスタマーサクセスです。
カスタマーサクセスについてはインフォグラフィックでも解説していますので、下記のリンク先もぜひ見てみてください。
1-1. カスタマーサクセスは将来性、市場価値のある仕事
IT業界には技術動向や最新のマーケティングに合わせたトレンドがあります。このような流行には一過性のものがあり、「カスタマーサクセスも同様ではないか?」と疑問を感じるかもしれません。しかし、カスタマーサクセスはSaaS業界に必要不可欠なサービスとして将来性があります。
カスタマーサクセスが注目されている背景には、SaaSの浸透とサブスクリプションの採用があります。定額制でサービスが提供されることから、解約を避けること、継続的な利用が重視されるようになったからです。
SaaS市場の成長とカスタマーサクセスは密接な関係にあります。富士キメラ総研の『ソフトウェアビジネス新市場 2022年版』によると、2022年度のSaaS市場は1兆891億円で対前年度比が117.5%、2026年度予測は1兆6,681億円とレポートしています。
SaaS市場は右肩上がりの成長にあり、今後もSaaS市場の拡大とともにカスタマーサクセスの需要は高まるといえるでしょう。
1-2. カスタマーサクセスの年収
カスタマーサクセスの職種の年収は、およそ400万円~800万円が相場です。即戦力を求められるため、経験者は高い年収が期待できます。SaaS系の営業職には、ほかに対面もしくは非対面で営業を行うフィールドセールス、電話やメールなどを使ったアプローチによるインサイドセールスがありますが、ほぼ同等程度の年収といえます。
年収では、大企業とスタートアップによって異なることを考慮すべきです。スタートアップや新規サービスの場合には、PMF(プロダクトマーケットフィット)の段階で、プロダクトが市場に受け入れられる状態を目指していくため、目まぐるしく変化する環境です。仕事の幅も広い可能性もありますので、年収と仕事内容のバランスを検討する必要があります。
SaaS営業の年収に関しては、下記の記事で詳しく解説しています。
2. カスタマーサクセスの役割と業務内容
転職にあたって将来性や年収、職種や勤務場所、社風などは重要な検討項目です。しかし、企業に選ばれる人材になるためには、企業側そして経営者の目線からカスタマーサクセスのミッションを考えておくことが大切です。
30代であれば、リーダーや幹部の候補として入社を期待されている場合があります。20代であっても、少し先のキャリアを見据えておくことが転職を成功に導くためのポイントです。こうした企業側の視点から、カスタマーサクセスの役割をまとめます。
2-1. 営業の業務を担うプロフィットセンター
まず、カスタマーサクセスは、企業において営業的な役割を担うことを意識する必要があります。
コストセンターとプロフィットセンターという言葉をご存知でしょうか。コストセンターは企業内で収益を生みださない部門を指します。経理や総務のほか、カスタマーサポート、ヘルプデスクもコストセンターです。社員を支援したり、品質を管理したり重要な役割を担います。
一方で、収益を生み出す部門がプロフィットセンターです。営業や販売の部門、あるいはマーケティング部門も含めることがあります。カスタマーサクセスは、営業の機能の一部を担い、企業の利益(プロフィット)を生み出すことがミッションといえます。
では、実際にどのように収益を生み出すのでしょうか?
2-2. 顧客体験の3つの流れ、導入・活用・拡大
カスタマーサクセスでは、顧客体験にしたがって3つの段階で成功に導きます。分かりやすく漢字2文字でまとめると「導入」「活用」「拡大」になります。3つの段階が業務としても重要であり、それぞれカスタマーサクセス用語として「オンボーディング」「アダプション」「エクスパンション」と呼ばれます。
・【導入段階】オンボーディング
・【活用段階】アダプション
・【拡大段階】エクスパンション
上記について、それぞれの概要を解説します。
2-3. 重要な業務1:オンボーディング
顧客を成功体験に導く最初に重要な業務が、サービスの導入段階における「オンボーディング(on-boarding)」です。この言葉は乗り物に乗る「on-board」に由来しています。快適な乗り心地になるように新しいツールを定着させるために、説明会やトレーニングを実施します。
導入段階で求められるのはスピードです。顧客側では、SaaSを実践的な業務に使い始めるまでの時間を短縮することはすなわち負荷軽減になります。一方で、サービス提供側としては、企業やユーザーあたりの導入時間を短縮することで、より多くの顧客を獲得できます。ユーザーのライセンスを単位として販売しているサービスの場合、収益に直結します。
2-4. 重要な業務2:アダプション
導入段階が終わり、問題なく使いこなせるようになったら、次に活用できる状態に導きます。このとき必要になるのが、顧客の求めるゴールを達成するための仮説を立て、結果をフィードバックしてPDCAのループを回す活動です。このことを「アダプション(Adoption)」といいます。
SaaSのサブスクリプションのビジネスモデルでは、継続的に使い続けてもらうことが盤石な収益基盤になります。カスタマーサクセス用語では解約のことを「チャーン(churn)」と呼びますが、解約率を下げることが大きなミッションです。
顧客に寄り添いながら、ひとつひとつ課題を解決していくことで、顧客との信頼関係を構築します。信頼関係のことを「顧客ロイヤルティ」と呼び、長期的に使い続けることによって生まれる「LTV(Life Time Value、顧客生涯価値)」が重視されます。
2-5. 重要な業務3:エクスパンション
業務でフル活用できるようなった後には、さらなるサービスに拡販を促します。これを「エクスパンション(Expansion)」と呼びます。上位の機能やアップデートを勧めるアップセル、ほかの関連サービスを勧めるクロスセルがあります。
営業活動には、顧客獲得に関する「1:5」の法則があります。新規顧客の獲得は、既存顧客の5倍のコストがかかるといわれています。したがって成功体験を得た顧客を増やすことは、営業の効率化につながります。
また、顧客ロイヤルティが高まると口コミ効果が生まれます。カスタマーサクセスの部門は、既存顧客の成功事例をコミュニティなどによって波及させる役割も担います。
2-6. ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチの顧客対応
カスタマーサポートの業務はオンラインと、実際にお客様の企業に訪問するオフラインの手段を活用します。コミュニケーションのチャネルは顧客の規模や契約状況に合わせて使い分け、「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」の3つの対応があります。
ハイタッチは、1対1で専門的な対応をする場合です。コンサルタントの役割といえるでしょう。定例会やミーティングなどオフライン、Web会議などオンラインの場を活用します。顧客ロイヤルティの高い企業、高額契約の法人が対象になります。
ロータッチは、1対多の集合的なトレーニングやセミナーを行います。契約した企業の社内で実施する研修のほか、一般向けにオープンな説明会を行う場合もあります。ハイタッチに次いで優先度の高い対応であり、その場で対話して解決に導く密接なコミュニケーションが求められます。
テックタッチは、デジタルツールを使った1対多のアプローチです。Webサイトのコンテンツ、FAQ、動画によるウェビナー、メールマガジンなどを活用します。いつでも利用できることから、時間の制限がなく、多くの顧客に向けてコミュニケーションが可能です。
タッチモデルのどの担当かによって業務内容が異なるため、転職にあたっては確認するとよいでしょう。
2-7. チームワークが求められる仕事
SaaS業界における営業は分業化が進み、フィールドセールス、インサイドセールスとの連携が求められます。当然のことながら、カスタマーサクセスのチームにおける協力体制も重要です。成功はもちろん失敗の事例を共有することにより、新たな仮説検証に役立ちます。
業界を横断したホリゾンタルSaaSを提供している企業の場合は、異なる企業や業界のサクセスストーリーが、別の企業や別の業界に応用できる場合があります。
顧客の声を開発部門に伝えるプロダクトフィードバックも意義があります。成功体験に導くプロセスから得た疑問や改善点は、開発部門にとって価値のある情報です。不具合の解消はもちろん技術的に解決できる課題をフィードバックすることにより、顧客の満足度を向上させ、企業価値をさらに高めることになります。マーケティングや広報との連携も考えられます。
3. カスタマーサクセスへの転職に向いている人
企業側の目線からカスタマーサクセスの部門や職種の役割を解説しました。次に、前職の経験や適性をもとに「どのような人がカスタマーサクセスへの転職に向いているのか?」を解説します。
基本的にカスタマーサクセスは営業としての機能を果たすことから、営業、コンサルタント、あるいはインサイドセールス経験者は有望です。まずカスタマーサポートや営業の経験者を想定して詳しくみていきましょう。
3-1. カスタマーサクセスへの転職、応募するときの必須条件
カスタマーサクセスの求人で、中途採用の必須条件としては一般的に次の2つが多く挙げられています。
- カスタマーサクセスの経験者
- 同じ業界の法人営業の経験2~3年以上
そもそも中途採用では即戦力を問われますが、当然のことながらカスタマーサクセスに関しても既に経験済みであれば有利になります。あるいは法人営業2年以上の経験です。忍耐力が求められる仕事であり、何度も転職を繰り返している場合は注意が必要です。
営業職ではなかったとしても、次のような職種で課題解決のために顧客と折衝や交渉を行ってきた人は歓迎されます。
- 代理店における渉外担当者
- 流通業界や小売業界のスーパーバイザー(SV)
- インターネット広告の営業、ディレクター
3-2. こんな能力や経験が転職先のカスタマーサクセスに活かせる
前職で培った能力やスキル、経験として、次の3つの能力はカスタマーサクセスの仕事に活用できます。
- 【提案力】業界知識や技術理解にもとづいた課題解決
- 【分析力】予実管理、数値(KPI)による分析、ロジカルシンキング
- 【折衝力】ヒアリング(傾聴)、言語化する能力、ロジカルライティング
顧客の成功体験は数値的な指標で管理されるため、分業組織におけるKPIマネジメントに適応できる人が内定しやすくなります。経験の面からいえば、自分自身の成功体験が大きな強みになります。たとえば、次のような実績は積極的にアピールすべきです。
- 訪問営業として、3年間ひとつのお客様を担当して売上を維持した
- 業務改善プロジェクトのリーダーとして高速なPDCAサイクルで課題解決を実現
- 成功法則やノウハウをブログで言語化、新人教育に活用
- 個人営業の成果を社内で表彰されたことがある
3-3. カスタマーサクセスの求人で求められる人物像
カスタマーサクセスの職種に求められる人物像は、まず「高い顧客志向を持つ人物」です。
新規開拓の営業には、ときに自社の製品やサービスを売り込み、クロージングを達成する押しの強さが求められます。しかしカスタマーサクセスは、顧客が目指している理想や成功を達成するためにはどうすべき考える姿勢が必要です。
また、「顧客の成長を支援することに対する強い意欲のある人物」が理想といえます。
定量的と定性的の側面から成長を的確に把握し、持続的に意欲を注げるクール&ホットな人物像になります。成長には「踊り場」つまり大きく成長するための停滞期があります。停滞期にも焦らず、顧客を見守りながら継続的な関係を維持できるタイプとも言えます。
3-4. 内定しやすい人が持つ「4つの能力」
最後に、カスタマーサクセスの転職で内定しやすい人について解説します。
IT業界の営業経験があり、リテラシーや知見がある上で、特にソフトウェアのセールス経験がある場合は前提条件をクリアしています。次の4つの能力をバランスよく持っていれば、内定に一歩近づけます。
- 【目標志向力】数値目標に対して意欲的に取り組む
- 【論理的思考力】物事を論理立てて考えることができ、言語化力に富んでいる
- 【自律駆動・スピード力】セルフスターター型で自分を律して駆け出すことができる。さらに思考や行動の回転が素早く適切
- 【チーム意識】チームで業務を進めることに抵抗がなく、協働意識が高い
3-5. カスタマーサクセスに必要な「耐性」
マーキャリでSaaS企業で働く方にインタビューした際には「耐性」という言葉をよく耳にしますので、こちらも企業によっては必要となってきます。
カスタマーサクセスとしては、顧客のサポート時には予期せぬ課題が発生します。無理難題を解決しなければならないときもあります。したがって、ベンチャー企業のカオス状態や曖昧な指示に耐性があれば有望です。
4. 未経験者でもOK? カスタマーサクセスの転職
カスタマーサクセスそして営業の経験者の転職に触れてきました。それでは営業が未経験であっても応募は可能でしょうか?
前職が営業以外の部門であっても、課題解決型や需要創造型の仕事に携わってきた人には可能性があります。たとえば新人教育やオンラインセミナーの講師は、教育という側面から顧客の育成に通じます。カスタマーサポート部門のオペレーターからの転職も考えられます。応募先の求人にもよりますが、簡単に諦めないようにしましょう。
colong株式会社の代表取締役、岡田奈津子さんは、新卒からウエディングプランナーを3年経験し、IT企業に4年半勤めた後でSaaS企業のカスタマーサクセスに転職しました。その後はフリーランスに転身して法人を立ち上げました。こうした記事を参考にしながら、これからの自分のキャリアを描くことが大切です。
5. カスタマーサクセスの転職、書類選考と面接の対策は?

カスタマーサクセスの転職において、実際の求人などの状況から書類選考と面接のチェックポイントをまとめます。
5-1. 書類選考では、SaaS業界以外の経歴、短期的な離職はマイナス
面接を受けるには書類選考を通過しなければなりませんが、次のような経歴の場合は、書類選考で見送りになってしまうことが多いようです。
・短期的に離職を何度も繰り返している経歴
・SaaSと無関係の商品やサービスに関する営業の経歴
短期的に離職を繰り返した経歴は他の転職でも不利になりますが、成功するまで顧客体験に寄り添うカスタマーサクセスと正反対の顧客の信頼を損なった印象ともなり、不利だと言えます。また、クラウド上のサービスであるSaaSは物理的な実態のある製品とは異なった特性があります。営業であればOKというわけではありません。
5-2. 面接では成果を定量的と定性的にアピール、自己管理能力も重要
書類選考で見送りになってしまう応募者は次のような傾向があります。
- キャリアから生み出した成果を定量的と定性的の両面から論理的に語れない
- 自己管理能力に欠ける
- 秩序のない環境に対する許容力がない
カスタマーサクセスの業務では、数値的な指標で顧客体験の進捗を測定します。ただし、数字オンリーになってしまっても、課題解決の過程や問題意識が伝わりません。また、プロジェクト管理が求められることから、自己管理ができないことは大きなマイナスです。健康の維持や時間厳守などを見直すようにしましょう。
正解のない混沌とした状況の中から仮説を立てて解決に導くため、自ら問題を発見し、ルールを見出す姿勢も重要です。秩序のない状況を楽しむぐらいの余裕がある人が面接で評価されます。
5-3. 自己アピールはAs is/To beで
自己アピールを定量的に語るヒントとしては「As is/To be」を使うとよいでしょう。「As is/To be」はIT業界のコンサルタントがよく使うフレームワークで「現状(As is)」と「理想(To be)」を明確にすることにより、そのギャップからアクションを定めます。キャリア、業務経験や能力などについて実際のデータを使って検討したり、あるいは評点を付けたりして差分を出します。
チェックすべきポイントは以下になります。
- 将来設計ができているか?
- 今までの経験をどう活かせるのか
- 志望理由に根拠、納得感があるか?
「As is/To be」による自己アピールは、以下の記事を参考にしてください。
まとめ
カスタマーサクセスの転職について、企業における組織の役割、業務、そして面接時のポイントまで取り上げてきました。しかし、求人によって条件や業務内容が異なります。SaaS業界の中でも特にカスタマーサクセスの転職に興味のある方は、ぜひ転職エージェント「マーキャリNEXT CAREER」にご相談ください。
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執筆者
マーキャリ 編集部