SaaSとSIerの違いとは? 〜営業スタイル・業界について解説〜

SaaSとSIerの違いとは? 〜営業スタイル・業界について解説〜

目次

近年、世界全体でSaaS市場が目覚ましい成長を遂げています。日本でも数々のSaaS企業がIT業界の顔として台頭してきていますが、大手SIerもそれに負けじと売上高を伸ばしている傾向にあり、両者競合しながらも成長を続けている状況です。

当記事では、SaaS/IT業界への転職を考えている方に向けて、SaaSとSIerの違いについて、ビジネスモデルや営業スタイル、業界の将来性などを交えて分かりやすく解説していきます。

1. SaaSのビジネスモデル

SaaSは「Software as a Service」の略で、その名の通りクラウドサーバーにあるソフトウェアをサービスとして提供するビジネスです。

多くのSaaS企業では、定額課金制となるサブスクリプションモデルのサービス形態を取っています。サブスクリプションモデルは、継続的に収入が入る積み上げ式のストック型ビジネスとなるため、売上の予測が立てやすく安定性に優れているのが特徴です。

SaaSでは、サービスの開発費用として初期投資が必要になりますが、サービス提供開始後は顧客の増加に伴って着々と利益を積み上げられるため、利益率の高いビジネスとなります。

2. SIerのビジネスモデル

SIerとはシステムインテグレーターの通称で、クライアントの要望に応じて、システム/ソフトウェアの開発や運用、ITコンサルティングなどを請け負うビジネスです。

スキルを持った人材のスキル・労働力そのものをサービスとして提供することから、フロー型(労働集約型)のビジネスに分類されます。SaaSと違い、案件が増えるとその分だけサービスを提供するためのコスト(人件費)がかかるため、従業員1人当たりの利益率は低くなります。

SIerでは顧客のニーズに沿って開発を行うため、パッケージサービスを提供するSaaSよりも、独自性の高い大規模案件を受けやすいのが特徴です。

3. SaaS営業の特徴

SaaS営業のイメージ

SaaSの営業は、他の業界の一般的な営業職と比べて、あらゆる面で独自性を持っています

顧客との向き合い方、営業プロセスや1人あたりの対応範囲まで、SaaSならではの特徴が色濃く反映されているため、SaaSの営業として働くのであれば、事前にどのような特徴があるのか理解しておく必要があります。

3-1. 特徴1 カスタマーサクセス文化

SaaSには、従業員が一体となって顧客の成功に寄り添うカスタマーサクセスの文化があります。

サブスクリプションモデルのビジネスを行っているSaaSでは、一定のフェーズを超えると新規顧客の獲得よりも解約率を抑えて既存顧客をキープする方が収益面でプラスになります。

自社サービスを顧客自ら使えるようになるまで支援し、ロイヤリティを上げ、深い関係を築き上げることで、継続的にサービスを利用してもらえるようになるため、SaaSでは部署や役割に関係なく、顧客にとっての成功を意識して働くことが文化として根付いているのです

3-2. 特徴2 The Model/分業制

多くのSaaS企業では、セールスフォース社で活用されてきた営業プロセス「The Model」に基づいた分業制度が導入されています

これは営業プロセスを「マーケティング」、「インサイドセールス」、「フィールドセールス」 、「カスタマーサクセス」という4つの段階に分け、それぞれが決まった業務範囲に従事することで、専門性が上がり、全体の生産性が向上するというものです

実際、SaaS営業の求人では、ほぼ必ずと言っていいほど営業プロセスごとに募集が行われているため、SaaSの営業と一括りに考えてはいけません。

また、転職活動においては、同じカスタマーサクセスでも企業ごとに業務内容が異なるため、一概に「既存顧客への営業経験がある=カスタマーサクセスが適している」とも言えず、求められるスキルや体制を考慮した上で企業を選ぶ必要があります

そのため、可能であれば第三者の転職エージェントなどを活用して情報を得ながら効率的に転職活動を進めることをオススメします。

3-3. 特徴3 カルチャー重視

SaaS企業では、会社独自のカルチャーを大事にしている傾向があります

特に、カルチャー重視の傾向はスタートアップ企業で顕著に現れています。会社のカルチャーを共有し、目標・ビジョンを浸透させると、判断基準が明確化されたり、採用などの組織形成における意思決定にズレが生じなくなったりすることで、スピード感を持って事業を拡大することができるようになるためです

また、大手SaaS企業においても、組織としてのチームワークが重要となる分業制度を採用しているため、業務の円滑な進行のためにもカルチャーを共有し、社員間の考え方を統一しておくことは効果的です。こうした背景もあり、SaaSではカルチャーを重視する傾向が強く出ています。

4. SIer営業の特徴

SIerの営業は、大きく分けて「アカウント営業」と「ソリューション営業」の2種類が存在します

SaaSと違い、営業の役割ごとに違った層のクライアントを担当することになるため、同じSIerの営業でもアカウント営業かソリューション営業かで追い求める数値や案件に対する考え方などが大きく変わってきます。

4-1. 特徴1 アカウント営業

アカウント営業は、ヒアリングや調査を通してクライアントの事業や組織について深く理解し、個別のクライアントに寄り添った解決策を提案する営業手法です

アカウント営業では、長期的に案件が獲得できるよう、特定の顧客と時間をかけて信頼関係を築きます。また、その特性から大口顧客を相手にすることが多く、受注数よりも1件あたりのプロジェクト規模を追求する傾向があります

提案できる案件か判断するために社内の状況確認が必要となり、受注後も社内外のスケジュール調整を行う必要があるため、営業の中でも業務プロセスが多い職種と言えるでしょう

4-2. 特徴2 ソリューション営業

SIerにおけるソリューション営業とは、クライアントの課題に対して、自社のソリューション(商品)を提案する営業手法のことです。

自社のソリューションの受注数を伸ばして利益を獲得することが目標となるため、より多くの見込み顧客にアプローチして、顧客のニーズに自社ソリューションが適していると判断できた場合のみ提案を行います

提案する商品が決まっている点、基本的な業務内容が決まっているという点から、比較的SaaSの営業と近い職種と言えます

5. SaaS営業の業務内容

多くのSaaS企業では、「The Model」の分業制度をベースに、営業の業務プロセスを4つに分けて、それぞれが違う職種として専門性を持って業務を担当しています。

下記では、各職種の業務内容と営業プロセスにおける役割について、SaaS未経験の方にも分かりやすく紹介していきます。

5-1. マーケティング

マーケティングでは、広告やメールマガジン、記事作成(SEO)、SNSの活用など様々な活動を通して、認知を得ることで、見込み顧客(リード)の獲得を目指します

マーケティングが発掘したリードが、営業プロセスを通して対応していく顧客の母数となるため、一人でも多くリードを獲得してインサイドセールスに渡すことが重要です

購買顕在層を発掘するためには、適切なターゲティングと露出が必要となるため、デジタルマーケティングのスキルが求められます。

企業によってリードをインサイドセールスに引き渡すまでの基準は異なりますが、問い合わせの回数やホームページの閲覧回数を元にスコアリングを行い、基準以上になれば引き渡すという手法が一般的です。

5-2. インサイドセールス

インサイドセールスでは、マーケティングから引き継いだリードから、メールや電話によるヒアリングを通して自社サービスに特に関心の高いホットリードを見つけ出し、個別にナーチャリング(顧客育成)を行います

顧客の購買意欲を高め、商談化するフェーズに進めて、フィールドセールスに引き渡すまでがインサイドセールスの役割です。

問い合わせ頻度や試用版の利用回数などを参考にスコアリングを行い、スコアによって連絡する間隔を調節したり、ヒアリングできた内容に応じてアプローチを変えたりと、自ら工夫して動く場面が多く、主体性が求められるため、ある程度裁量を持って働きたい方に向いている職種と言えます

5-3. フィールドセールス

フィールドセールスは、インサイドセールスから引き継いだ顧客と商談を行い、契約の獲得を目指します

稟議が通るように先方の担当を支援したり、要望条件付きの値引き交渉を行ったりと、クロージングに至るまでの最終段階の業務をすべて担当するため、まさしく営業職らしい仕事と言えるでしょう

ただし、最近では、顧客先に足を運ぶオフライン商談よりも、Web上で完結するオンライン商談をするSaaS企業が増えているため、他業種の外勤営業を経験されてきた方にとっては身体的な負担が少なく、働きやすく感じるかもしれません

5-4. カスタマーサクセス

カスタマーサクセスは、既存顧客への能動的なサポートを通して、アップセル・クロスセルでの利益拡大やサービスの継続利用による利益の最大化を図ります

サブスクリプションモデルのビジネスを行う企業にとって、解約率を抑えることは新規顧客の獲得と同等かそれ以上に重要となるため、カスタマーサクセスの活躍は会社にとって必要不可欠です

顧客満足度につながる施策を模索し、時には他部署と連携しながら、常に成果を出さなければいけない忙しい職種ですが、直接顧客の声が聞けたり、会社の業績に自らの活動が直結したりと非常にやり甲斐のある仕事です

6. SIer営業の業務内容

SIerでは、基本的に営業が一人で新規開拓からクロージングまでの営業プロセスを担当するため、SaaSと比較すると営業一人当たりの業務範囲が広くなります

さらに、顧客の課題を根本から理解できるだけの最低限の知識が求められるため、SIerの営業として活躍するには、担当するクライアントの業界・業種特有の知識が必要不可欠です

下記では、SIer営業の主な業務内容とその重要性について解説していきます。

6-1. 顧客状況のヒアリング

SIerでは、顧客に合わせて開発を行うケースが多いため、第一段階として顧客の状況を事細かにヒアリングし、顧客が抱える課題、その背景などを明確にする必要があります

顧客自身が課題を正確に認識していない場合でも、ヒアリングを通して状況を整理していく内に、自社の課題、改善点などが見えてくることもあるため、SIerの営業には顧客と同じ視点を持って考え、課題を発見するための共創型の対話能力が求められます

6-2. システム企画の提案

ヒアリングの結果、課題を発見できたら顧客に問題提起を行います。顧客の反応から提起した課題の解決にニーズがあると判断できれば、いよいよ提案です。

自社で持っているソリューションが案件に適しているのであれば、そのソリューションを提案すればよいのですが、SIerでは個別具体的な案件が多いため、基本的には新たに開発作業が必要となります

社内の開発部門と共に、顧客の課題に対するソリューションを考え、スケジュールや費用感、システム概要などをプレゼンテーションに落とし込み、顧客に提案することが一般的です

6-3. 新規顧客の開拓

SIerはシステム開発を生業としている以上、継続的に収益を上げるためには新規顧客の開拓が必要となります。

新規顧客を獲得するためには、自社の強みを活かせる市場からターゲットとなる企業を見つけ出し、的確なヒアリングと課題の発見、解決策の提案から受注という一連の流れを根気強く続けていかなければいけません

手当たり次第に飛び込みで声をかけても成功する確率は極めて低いため、社内のマーケティング部門と連携し、データに基づいたターゲットの選定を行うなど、効率的なアプローチの方法を確立することが大切です

7. SaaSとSIerの営業スタイルの違い

SaaSとSIerでは、ビジネスモデルや業務プロセスが大きく異なるため、営業スタイルにも明確な違いが生まれます。

まず、サブスクリプションモデルのSaaSでは、日々膨大な量の問い合わせがあり、一方的に顧客数が増加していく傾向があるため、効率的に多くの顧客にアプローチできるよう業務をパターン化してスピード感を持って対応しなければいけません

一方、SIerでは顧客それぞれと関係を築き、案件ごとのプロジェクト規模を追求していくため、契約前の1顧客に対して向き合う時間が長くなります

また、SaaSでは自社サービスに適していない顧客には提案をせずに自ら切るという選択を日常的にしますが、SIerでは新たに開発して対応できるため、不都合がない限り課題を抱えている顧客を切るということはしません

さらに、顕著な違いとして、SaaSは契約後に継続利用してもらうことが最も利益につながるため、導入後の支援に最も時間を割きます。SIerでも支援は行いますが、SaaSほど能動的かつ継続的なサポートを行うことはビジネスモデル上考えにくいでしょう。

8. SaaSで働くメリット・デメリット

時代に合ったビジネスモデルとして、IT業界の中でも一際目立った成長を続けているSaaS企業で働くことには様々なメリットがあります。一方、考え方によってはSaaSで働くことがデメリットとなるケースもあるでしょう。

下記では、SaaS企業で働くメリット・デメリットを分かりやすく解説していきます。

8-1. SaaSのメリット

まず、SaaSの営業職に就くと、営業プロセスごとに専門的な業務を行うことになるため、従事している分野のスペシャリストとして市場価値を上げながらキャリアを築けるというメリットがあります

実力主義の会社が多く、若いうちからマネージャーなどの役職につけることも珍しくありません。さらに、SaaSの市場自体が成長しているので、将来性がある業界で経験を積むこと自体が貴重な財産となることでしょう

また、サブスクリプションモデルのSaaSで働いていると、毎月の売上に安定感があるため、フロー型の他業種と比較して業績の変動によるプレッシャーが少なく、安心して働けるのも魅力の1つです

自社のクラウドサービスを提供しているSaaSでは、納期という概念がないため、日付に追われながら働く必要がないというのもSaaSならではのメリットと言えます。

8-2. SaaSのデメリット

SaaSは、分業体制に基づいた営業活動を行っているため、1から10まで幅広い業務を経験して何でもできるようになりたいという方には不向きかもしれません

また、SaaS企業の営業として活躍するには、必ず自社サービスの習熟期間が必要となり、しばらくは勉強中心の日々となるため、その会社でしか使えない知識を身に付けるために時間を使いたくないという考えを持っている方にとってはデメリットになるでしょう。

9. SIerで働くメリット・デメリット

日本でも数々の大手企業が存在する基幹産業のSIerですが、当然働く上でのメリット・デメリットが存在します。

ここでは、身に付く知識やスキルなどのキャリア的な側面から給与などの待遇面まで踏まえて、メリット・デメリットを端的に解説いたします。

9-1. SIerのメリット

SIerの営業として働くと、様々な顧客のニーズに合わせてITソリューションを提案する必要があるため、自然とITリテラシーが身につきます

また、営業担当として新規顧客の開拓や提案、社内外の調整、クロージングから導入後の支援まですべての業務を担当することになるため、営業の基礎が学べるという点ではメリットと言えるでしょう

さらに、企業によって異なるものの、大手SIerでは新入社員のうちから給与、福利厚生などの待遇が優れている傾向にあるのも魅力的です

9-2. SIerのデメリット

SIerのデメリットとして、フロー型のビジネスであるが故に業績が安定せず、業績の悪化が営業のノルマの数値などとして現場に反映されることがあり、将来性に不安を感じるかもしれません

さらに、SIerの営業は顧客との交渉に加えて、社内との調整も必要になるため、板挟みの状態となるとストレスを感じることもあるでしょう

また、大手SIerの場合は、日本の大手企業特有の年功序列が根強く定着しているため、若い内から役職についてキャリアアップを図ることは難しいかもしれません。

10. SaaSの将来性

日本のSaaS市場は年々拡大しており、昨今のリモートワークの普及も相まって、右肩上がりに成長を続けています。実際、日本のSaaS企業が続々とIPOを果たしていることからも、SaaS業界が勢いづいていることが分かるはずです。

SaaSが提供するクラウドサービスを導入することで、新規でシステムの開発を依頼するよりも遥かに低いコストでIT化を実現できるだけでなく、時代に合わせてサービスがアップデートされていくため、特段の事情がない限りSaaSを利用してIT化を図る企業が増えていくのは明白です

IT化を目指す企業が増えている状況からも、今後SaaSのニーズが落ちていくとは考えにくく、将来の見通しが立っているため、しばらくは安泰の業界と言えるでしょう。

11. SIerの将来性

SaaSが著しい成長を続けているためか、SIerの将来性が不安視されることが多くなってきていますが、実はSIerも市場規模自体は拡大しており、右肩上がりに成長しています

やはり、SaaSと同じく昨今のリモートワークを推進する情勢に後押しされて、IT化のニーズが増えているため、今後しばらくはSIer市場も好調に推移することが予想されます。

特に、大手企業などは、SaaSのクラウドサービスでは解決できない個別具体的な課題を抱えていることが多々あるため、そういった企業の相談先となるSIerの需要が完全になくなることは無いと考えるのが普通でしょう

しかしながら、SI市場におけるSaaSとSIerの構成比率は、年々SaaSの比率が上がってきているため、業界での立ち位置を考えると将来性には不安が残るのも事実です。

まとめ

今回は、SaaSとSIerの違いについて、ビジネスモデルや営業スタイルなどの観点を交えて解説しました。

同じIT業界の営業でも、分業体制で回しているSaaSと開拓からクロージングまでを個人で行うSIerの営業では、まったく別の職業となりますので、IT業界への転職を考えている方は自身が身に付けたいスキルや歩みたいキャリアを整理して、業種を選び、転職活動に励みましょう

なお、IT業界の営業としてキャリアを築きたい、SaaSでの仕事にチャレンジしたいと考えている方には、SaaS/ITベンチャーへの転職に特化した転職エージェント「マーキャリNEXT CAREER」がおすすめです。

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マーキャリ 編集部

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