SaaSのカギとなるカスタマーサクセスを徹底解説! 〜注目を集める背景・役割とは?〜

SaaSのカギとなるカスタマーサクセスを徹底解説! 〜注目を集める背景・役割とは?〜

目次

SaaS業界に転職を考えているのであれば、カスタマーサクセスの業務を知っておく必要があります。顧客対応だけでなく、開発部門やマーケティング部門と連携し、企業価値を高める役割をカスタマーサクセスは担っています。ここでは、登場の背景や役割とともに、フィールドセールスやコンサルタントとの違いについても取り上げます。

1. カスタマーサクセスの背景、SaaS以前に遡って解説

カスタマーサクセスの背景について、クラウドの登場以前にまで時代を遡って「なぜ顧客志向の考え方が必要なのか?」という点から解説します。

1-1. 2000年までのSaaS以前:カスタマーサポートの時代

高度経済成長期には、製品中心のプロダクトアウトの考え方が主流でした。モノを作れば売れる時代だったからです。しかし、モノがあふれて差別化が困難になり、利用者のニーズが多様化するにつれて、企業の戦略は「顧客志向」にシフトしていきます。

IT化が進展し、パソコンをはじめとした情報システムの利用が拡大すると、使い方が分からない顧客対応のためにカスタマーサポートの需要が急増しました。企業内の情報システム部門には、IT関連の問い合わせを行うヘルプデスクを設置するようになります。

その後、社内負荷を軽減するために、クレーム処理や質問に対応する専門のコールセンターが生まれ、顧客のサポートを外部に委託するBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)が浸透しました

1-2. 2000年からのSaaS以後:サポートからサクセスへ

一方、インターネットの高速化にしたがってクラウドの利用が拡大し、プラットフォーム自体を提供するPaaS、ソフトウェアを提供するSaaSが積極的に活用されるようになります。こうした流れの中で、営業支援(SFA)、顧客管理(CRM)のソフトウェアを提供するSalesforceが2000年初頭に打ち出した考え方が「カスタマーサクセス」でした。現在では「SaaSといえばまずカスタマーサクセス」と言われるほど重要な役割・機能として定着しています。

1-3. 将来性:SaaS業界から他の業界にも波及

カスタマーサクセスの考え方はSaaS業界の取り組みが活発ですが、食品業界、流通業界にも浸透しています。BtoBだけでなくBtoCに対する顧客体験の醸成にも活用されるようになりました。SaaS業界で修得したカスタマーサクセスの知識やスキルは、あらゆる業界に活用の可能性が拡がっています

2. SaaS業界でカスタマーサクセスが注目を集める理由

続いて、SaaS業界でカスタマーサクセスが注目を集めている理由です。

2-1. サブスクリプションによるビジネスモデルの浸透

最大の理由としては、SaaS業界において定額制のサブスクリプションが定着したことです。SaaS業界の経営指標としてはARR(Annual Recurring Revenue、年間経常収益)が重視されますが、サブスクリプションのビジネスモデルの場合は継続利用によって企業の収益基盤が安定しますカスタマーサクセスは、解約率(チャーンレート)を抑える意味で大きな役割を担っています。導入時や契約更新時に顧客の離脱を防ぐカスタマーサクセスはSaaS企業になくてはならないものです。

2-2. 成長に伴走する提案型のパートナーを顧客は求めている

SaaSを顧客として利用する企業にもメリットがあります。最新技術と業務改革の両面から「自社の成長に伴走してくれるパートナーを求めている」からです

多くのITシステムでは、導入後のサポートはトラブルがあったときに限り、基本的には社内の情報システム部門の担当が解決していました。導入後も成功まで寄り添ってくれるカスタマーサクセスは心強い伴走者であり、社内の担当者の負荷軽減だけでなく、社内では気づかない提案をもたらしてくれる社外ブレーンとしての価値があります。

3. SaaS業界のカスタマーサクセス、営業やコンサルタントとの違いは?

SaaS業界では営業の分業が進み、営業職としてはカスタマーサクセスのほかフィールドセールスやインサイドセールスがあります。また、IT企業にはコンサルティング職もあります。それぞれどのような違いがあるのでしょうか。

3-1. フィールドセールスとの違い

フィールドセールスは従来の訪問営業に近い営業スタイルで、見込み客と対面で商談を行い、受注を獲得します。受注数や受注率がフィールドセールスのKPIとなりますが、カスタマーサクセスの場合はアップセル・クロスセル率、解約率、オンボーディング完了率など、攻めと守り両方の役割を持ちます

3-2. インサイドセールスとの違い

インサイドセールスは、電話やメール、Web会議システムを使って見込み客にアプローチしてアポイントを獲得するまでを担います。その後の商談はフィールドセールスが行うことが多いですが、組織によってはインサイドセールスが商談まで担当する場合もあります。一方、カスタマーサクセスの活動範囲は受注後であり、サービス価値の最大化と持続的な活用促進を担う点からも異なります

3-3. ITコンサルタントとの違い

IT業界にはアクセンチュア株式会社のようなERPなど専門のコンサルティング会社があります。法人向けのITコンサルタントに求められる役割は、業務プロセスの改善を含むシステム導入やリプレース、保守運用に関する導入前の提案です。大企業向けのERPシステムは数億円規模の莫大な設備投資が必要なため、事前に十分な仮説検証(PoC)を行い、要件と費用の最適化を行った上でシステムを構築します。

SaaS業界のカスタマーサクセスにもコンサルティング能力は求められますが、ERPのように大掛かりではありません。また導入前の試算に関するコンサルティングというより、導入、運用、拡販に寄り添って長期的な顧客体験の改善のための提案を行います。その意味では、持続的な経営コンサルティングに近い存在ともいえます。

4. SaaSを提供する企業におけるカスターサクセスの役割

カスタマーサクセスは顧客体験の支援だけでなく、社内と社外を横断して情報共有を行うキーパーソンの役割もあります。

4-1. オンボーディング、アブダクション、エクスパンションの一貫した流れをつくること

カスタマーサクセスには、顧客の段階に合わせて「オンボーディング」「アブダクション」「エクスパンション」という3つの業務の流れがあります。どの段階の役割を担うかによって、業務内容が異なります。

オンボーディング」は、SaaSの導入段階に十分な説明を行い、トレーニングなどによって使い方に慣れてもらいます。

アブダクション」は、活用段階として実践的な支援を行います。仮説をもとにPDCAサイクルを回して、よりよい成功体験に向けた活動を行います。定例会などを行って情報を共有します。

エクスパンション」は成功体験が得られた顧客に、上位版をおすすめしたり、他の便利なサービスを紹介したり、拡販の役割があります。

オンボーディング、アブダクション、エクスパンションがスムーズに流れることがカスタマーサクセスの理想です。

4-2. 組織を横断して情報を共有

担当する顧客と企業のハブ(接点)として機能することはもちろん、企業内の営業やマーケティング部門、開発部門と連携して、組織を横断した情報共有を行うことも重要なミッションです。顧客を横断してユーザー会やコミュニティを運営することもあります。

クラウド人材管理システムの「カオナビ」でカスタマーサクセスを担当している坪井友里さんは、次のように語ります。

ユーザー様の声は今後導入を検討している方にとっても有益な情報となるため、マーケティング本部のメンバーと合同でセミナーを企画することもあります。また、プロダクト開発にユーザー様の声を活かすため、エンジニアにもユーザー会に参加してもらったりもしています。

出典:https://media.mar-cari.jp/tenbo/article/1659

製品に関する顧客の生の声を開発部門に伝えてサービスの品質を向上させる仕組みが「プロダクトフィードバックループ」です。PDCAサイクルを回すことにより、自社のビジネスを成功に導く役割もあります。


5. 大企業とスタートアップによっても異なるカスタマーサクセスの役割

同じカスタマーサクセスであっても、企業によって役割が異なる場合があります。大企業とスタートアップにおける役割を挙げます。

5-1. 大企業のカスタマーサクセスに求められる「ブランド維持と拡販」

大手ソリューションベンダーには知名度があり、情報共有から財務会計まで幅広いSaaSのソリューションを手掛けている場合があります。こうした大企業におけるカスタマーサクセスの意義は、ブランド維持とともにライセンス数の拡大や別のサービスの利活用を促す拡販です。少人数のトライアルを行い、問題がなければ部署の全員に導入するケースもあるため、当然のことながらオンボーディングも重要といえます。

5-2. スタートアップのカスタマーサクセスに求められる「解約の回避」

サービスをローンチしたばかりのスタートアップでは、新規顧客数が売上に直結します。迅速かつスムーズにオンボーディングを完了して新規顧客を軌道にのせ、年額のサブスクリプションであれば更新時の解約率を下げて翌年の利用につなげることが最大のミッションです。

2年目からは前年の顧客の売上が積み上げられ、利用が定着することによって継続率が向上する傾向があります。解約率(チャーンレート)を下げることが重要です。

6. SaaS業界のカスターサクセスには、こんな業務がある

それでは実際にカスタマーサクセスの仕事には、どのような業務があるのか挙げていきましょう。

6-1. カスタマーサクセスの全体設計

カスタマーサクセスの全体像を設計するプランニング業務です。基本的な機能や操作を理解してもらい、到達すべき目標と現状のギャップから課題を抽出、業務プロセスや具体的な内容をヒアリングしつつKPIやプロジェクトの全体像を設計します。

6-2. コンテンツ制作

マニュアル整備のほか、セミナーやトレーニング用の教材、導入事例を紹介するWebサイトやパンフレット、ホワイトペーパーなどの制作業務を担当することがあります。映像を含めたデジタルコンテンツの活用は「テックタッチ」というアプローチになります。

6-3. レクチャー、説明会、トレーニング

オンボーディング時の基本的なレクチャー、説明会。実践的なトレーニング(オンライン、オフライン)を行います。アプローチには「ロータッチ」と「ハイタッチ」によって異なります。グループによる集合研修はロータッチであり、業務内容に踏み込んだ専任のコンサルティングは「ハイタッチ」と呼ばれています。

6-4. 定例会やミーティング、情報共有、FAQの整備

定例会は顧客先を訪問して対面で行うケースもあります。このとき、ざっくばらんに話ができる雰囲気づくりも大切です。定例会などのミーティング内容はチーム内などでも共有し、頻度の高い質問に関してはFAQに反映して効率化します

6-5. ユーザー会やコミュニティの運用

顧客の横断的な情報共有の場として、ユーザー会やコミュニティを運用します。成功事例を共有することによってユーザー全体に啓蒙を促します。オープンなセミナーやイベントを開催して、新規顧客の獲得としても活用できます。

6-6. アップデート、契約更新時のフォロー

SaaSのソフトウェアのアップデートにはサポートが必要になり、不具合が生じやすくなります。また、サブスクリプションの更新時期は最も重要なタイミングです。解約になった顧客に関しては理由をヒアリングしてチーム全体で共有するとともに、開発部門にもフィードバックをします。

6-7. 販促活動(アップセル、クロスセル)

サービスを使いこなして満足度の高い顧客は、ライセンスを増やしたりオプションのサービスや別のソリューションを利用してもらったり、販促活動を受け入れやすい状態にあります。利用状況に合わせて、最適なサービスを提案します。上位の機能を使っていただくことをアップセル、他のサービスへの拡販をクロスセルといいます。

7. カスタマーサクセス、組織を立ち上げのポイント

スタートアップのカスタマーサクセスでは、組織の立ち上げメンバー募集の求人も考えられます。また、既に実績のある企業に転職するときにも、カスタマーサクセスの成立過程を知っておくと業務の本質が理解できます。

カスタマーサクセスに限らずビジネスの組織編成では、目的達成のための計画と仕組みづくり、いわゆるビジネススキームが重要です。このビジネススキームに合わせて人的リソースを確保します。中途採用の即戦力が必要であれば、人材を募集することになります。

多くのスタートアップでは開発者の創業者が多いため、営業の人材不足の課題を抱えています。また、カスタマーサクセスの部署を立ち上げたいと考えていてもノウハウがありません。技術理解と営業の即戦力を備え、カスタマーサクセスを理解した人材はリーダーとして歓迎されるでしょう

カスタマーサクセスの組織を立ち上げるときのポイントを整理します。

7‐1. SaaS業界における自社と競合の分析、顧客のペルソナの明確化

カスタマーサクセスの組織を立ち上げるにあたっては、まずマーケティングの視点から、自社のサービスの優位性とボトルネック、競合他社の製品のメリットやデメリットを明らかにします。業界全体を見渡すときにはサービスを分類した「カオスマップ」が役立ちます。SaaS業界の把握とともに、顧客像を明確にします。マーケティングの手法にペルソナがありますが、部門、年齢、役職などの属性だけでなく「SaaSの導入効果を上司に数字で報告しなければならないため悩んでいる」といった感情面にも考察を加えて設定します。

7‐2. 顧客体験(カスタマージャーニー)と成功の定義

続いて、顧客体験の流れを見渡して全体を設計します。顧客体験を時系列で可視化した図解を「カスタマージャーニー」と呼びます。このとき重要になるのは、顧客目線による体験の把握です。カスタマーサクセスには、オンボーディング、アブダクション、エクスパンションという3段階がありますが、顧客の行動・思考・感情を理解した上で、それぞれの接点で必要になる施策を具体化します。また、顧客体験における成功とサービス利用の状態であるヘルススコアを定義することも重要です。

7‐3. タッチポイントごとにコミュニケーション手法の設計

顧客体験の時系列に沿った全体の流れを設計した後に、顧客接点ごとにコミュニケーションの手法を設計をします。顧客接点のことをコンタクトポイント、またはタッチポイントといいます。デジタルコミュニケーションによるテックタッチ、集合研修のロータッチ、専門的なコンサルティングのハイタッチを導入、活用、拡販のそれぞれの段階でどのように行うか施策を検討します。他部署との連携も考慮しながら、最大の効果を上げるために検討を重ねていきます。

7‐4. 人的リソースの配分と組織化、予算の決定

顧客の成功体験の定義、カスタマージャーニーの設計、具体的な施策が決まった上で、人的リソースを確保します。スケジュールと予算を設計し、経営者に提案して承認を得ます。人材に関しては、オンボーディングの集合研修に最適な人材とチャットで課題解決ができる人材は、厳密にいえば適性が異なります。顧客志向の視点から適材適所が求められます。転職時に自分の適性を考えるときにも同じように考えるとよいでしょう

まとめ

SaaS業界に必要不可欠なカスタマーサクセスには、顧客の解約率を下げることによって収益基盤を安定化させる重要な役割があり、そのためにトレーニングや情報共有など多様な業務があります。

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マーキャリ 編集部

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