【営業必見】キャリアも“SaaSシフト”の時代が来た。

【営業必見】キャリアも“SaaSシフト”の時代が来た。

急成長市場にはチャンスが多い。そんな勢いのある業界に身を置くことが、自身のキャリアアップを考えた時、正しい戦略となることは自明だろう。
年平均成長率12%と、急拡大を続けているのが日本のSaaS業界。2024年には約1兆1600億円市場へと成長する見通しが立てられ、多くの企業が採用を強化する“超売り手市場”だ。

一方で、スタートアップ“冬の時代”という言葉が囁かれたり、SaaSは“成熟期”に入ったと言われたりするなど、今後の業界成長に対し一抹の不安も残る。

キャリアの視点から考えた時、SaaS業界への転職は正解なのか。今回は、SaaS投資に特化したベンチャーキャピタル、One Capital代表・浅田慎二氏を迎え、エムエム総研取締役・河村芳行氏と語り合ってもらった。


SaaSのポテンシャルはこんなもんじゃない

──近年、日本でもSaaS型のビジネスモデルが大きく伸び、市場はもはや“成熟期”に入ったと言われることもあります。お二人は現在の業界をどのようにご覧になっていますか。

浅田 「新たな日本へ、もっと加速させる」──開いてしまった世界と日本の距離を縮め、再び日本が世界を追い越すためには、SaaSが大きなカギになる。
そんな想いを持って、私はアーリーステージのSaaS企業への投資に特化したベンチャーキャピタル(VC)、One Capitalを2020年に立ち上げました。


個人的な話になりますが、私のキャリアのスタートは大手総合商社でした。約15年間、紙と根回しにあふれたレガシーな働き方をしてきたのですが、その後、移ったセールスフォース・ベンチャーズではすべてがクラウド化された環境によって、業務のスピードが一変。ツールが変われば、仕事が速くなる──。そんなSaaSの力を身をもって体感し、労働生産性が低い日本に足りないのはこれだと確信したのです。

国内SaaSの市場規模は2022年時点で約1兆円まで成長しましたが、日本の法人向けソフトウェア市場は10兆円規模。SaaSは、まだ10%程度なのが現状です。しかも、日本のソフトウェア市場は世界2位を誇る規模にもかかわらず、その内訳を見ると、約80%が保守運用費に使われている。既存のシステムの維持だけに、莫大な資金が費やされる。こんな「守り」の姿勢で、国全体の生産性が高まるはずがありません。

この予算を「攻め」のSaaS投資に割り振り、業務のデジタル化をどんどん進める必要がある。だから、日本のSaaS市場は成熟どころか、まだまだ立ち上がったばかりというのが私の認識ですね。

SaaSビジネス成長の肝、デジタルセールスとは

河村 SaaS市場の拡大が、日本の生産性を大きく変えるためのトリガーになるのですね。

私たちエムエム総研では、人材領域から日本のデジタル変革に貢献していきたいと考えています。


去年、SaaS業界へのキャリアシフトに特化した「デジタルセールス人材採用支援事業」を立ち上げました。

デジタルセールスとは、SaaSを中心とした先進企業で採用されている分業・協業型のセールス手法を指します。これまで営業担当が1人で行っていたさまざまな活動を、業務の領域別で担当を分け、専門性を高めた上でプロセスを効率よく進めるというもの。具体的には、大きく分けて「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の3つの職種です。

デジタルセールス職に特化した転職エージェント・サービス「マーキャリ NEXT CAREER」や、法人営業職や他職種からのキャリアチェンジ、キャリアアップを支援するWebメディアを運営し、デジタルセールス人材支援を通じて、SaaS市場の活性化に取り組んでいます。

“嘘”をつく企業は生き残れない

──そもそもなぜ、SaaSというビジネスモデルが、これほど注目されているのでしょうか。

浅田 SaaSって、すごく緊張関係があるビジネスモデルです。

どれだけ美辞麗句を並べて売り込んで導入してもらっても、もしサービスの使い勝手が悪ければすぐに契約を切られます。ビジネスモデル上、カスタマーサクセスを提供し続けなければ継続にはつながらないため、企業は本気でプロダクトをブラッシュアップせざるを得ません。

河村 トッププレイヤーがどうにかカバーする、人海戦術で乗り切るといったような力業が通じない。市場に対してもごまかしがきかないところが、SaaSの魅力ですよね。

浅田 昨今、SaaSモデルを取る上場企業の株価が大きく下がったことで、将来性を不安視する見方もありました。でも私は、高く評価されてきたものが適正化されただけだと認識しています。依然として、売上高の5倍程度の時価総額が保たれている。ECやマーケットプレース、ソーシャルメディア系など他領域の2.5倍ほどの平均売上マルチプル(倍率)を誇っているのが、SaaSセクターです。

SaaSに投資する私がいうとポジショントークにはなりますが、良いサービス・良い企業がお客様から選ばれ続けるビジネスモデルなので、今後も市場が成長することは間違いないでしょう。

キャリアの視点から見ると、私はあまり精神論は好きじゃないんですが……「みなさん、日本をもっと良くしたくないですか?」と。顧客の生産性を上げるソリューションを提供するのがSaaSですが、エンドユーザーの生産性が上がれば、日本全体の生産性が上がるわけです。

それに貢献できるって、すごく大きなチャンスだと思います。


河村 まさに、組織や社会への貢献という視点でも、SaaSはすぐれたビジネスモデルですね。

従来の売り切り型の法人営業組織では、いわゆる"飲みニケーション"のような関係性を既存顧客と築くことが重視されていました。目標も個人の売上実績を上げればよいので、プレイヤーの視座が「担当顧客」以上に引き上がりにくく、事業全体やプロダクトとのつながりが希薄になります。低い視座のまま、業務を繰り返すうちに行き詰まりを感じ、「このままでいいのか……」と自分の将来を不安視する方も少なくない。

そんな課題を払拭するのが、組織一丸となって顧客満足度を追求し続けるSaaSのビジネスモデルだと思います。

伸びるSaaSは、どこにいる?

──浅田さんは、多くのSaaSスタートアップをご覧になる中で、投資先をどう決めているのでしょうか。専門家ではない転職希望者も参考にできる「成長するSaaS/伸び悩むSaaS」の見極め方はありますか。

浅田 投資家目線では、顧客第一で継続的な改善がなされ、予測可能な収益モデルであることが重要です。
つまり、お客様から見たときに「このSaaSを使ったら売上が伸びる」という明確なROI(投資利益率)があるかどうか。

「1000万円のライセンス料を払ったら、売上が1.2倍になります」というシンプルなプロダクトは売れます。ROIが計算できれば、導入の意思決定も早くなり、利用率も上がっていきます。

その点も含め、VCから見た「伸びるSaaSスタートアップの10カ条」はこちらです。


まずは、やっぱり経営者を見たほうがいいですね。その会社の創業者、CEOはどういう人なのか。気合と根性で頑張ります、というだけの企業は伸びませんから「因数分解」と「逆算志向」ができている人かどうかを、私は非常に重視しています。

上場企業であればIR資料に、どうやって年間のARR(年間経常収益)を達成するのかが書いてある。あと長期戦になるSaaSでは、専門領域を極める“ドメイン・エクスパティーズ”と、その領域への熱量が高い“ドメイン・パッション”のある経営陣がいるか。

河村 領域の経験者であればあるほど、業界の負も熟知し、そのサービスに注力する説得性も高くなる。

浅田 そうです。プロダクトの話では、内製していない会社はSaaSとは言えません。内部にエンジニアを抱えず外注していたらもはやテック企業ではないですし、外注しているプロダクトは伸びない。

なぜかと言うと、改善スピードが遅すぎて解約率が高まるからです。

あとは、プロダクトの話を聞いて「誰のためのサービスなのか」、対象顧客がすぐにわからない企業はやめたほうがいい。私が過去に投資したfreeeは、「会計ルールがわからなくても、会社の経理は自動化できる」というわかりやすいメリットを提示し、見事、ARR100億円の上場企業になりました。

最後に一つ、伸びるSaaS企業を探す上で「自社で、自社のプロダクトを使っている会社」かどうかは非常に重要です。たとえば、セールスフォースでは入社するとみんなすぐにセールスフォースを使って自分の商談状況や受注率などを確認します。先輩のデータを見ながら、「この数値が追いついていない」などと、行動を振り返っていく。

すると、お客様にプロダクトを紹介するときも、自分が使っている様子を説明できます。営業活動が見える化されると、次のアクションにどう結び付けられるかを実体験で話せる。伝わり方が違いますよね。

河村 めちゃくちゃ共感します。自分事で話ができるとストーリーも具体的になり、応用も利くからしっかり売れるんですよね。

浅田 だから採用面接で、「うちのプロダクトを、自分でもこう使っている」と言えたり、見せてくれたりする面接官がいる企業は、その後も伸び続けるでしょうね。

SaaS業界への転職で失敗しないためには

──だんだんクリアになってきました。河村さんはSaaS業界への転職を支援する中で、今の人材市場をどのように見ていますか。

河村 急拡大するSaaS業界では、多くの企業が人材不足に頭を悩ませていますが、需要側と供給側の大きなミスマッチがあると感じています。たとえば、言葉は同じ「営業/セールス」といっても、B2Bの法人営業と、SaaS業界のデジタルセールスに求められるスキルや知見には大きなギャップがあります。

ここを理解しないまま、なんとなくのイメージで転職活動を行い、なかなか転職が決まらなかったり、入社後の活躍につながらなかったりするケースも少なくありません。

転職を考える法人営業経験者の方は多くいらっしゃいますが、産業構造上、既存顧客への営業しか経験のない方も多い。一方、今伸びているSaaSのビジネスモデルは、新規顧客に対して高い生産性を生み出し続ける構造です。

SaaS未経験の方は、「既存顧客営業=カスタマーサクセス」とイメージしがちですが、両者は大きく異なります。従来の既存顧客営業は顧客の周期購買ニーズに依存することが多く、リアクティブ(受動的)に対応する営業活動ですが、カスタマーサクセスはプロアクティブ(能動的)にお客様に働きかけ、成功に向き合いながらサービス活用にコミットしていかなければいけません。


浅田 まさにそうですね。日本で上場しているSaaS企業28社のうち、大企業に売り込んでいる会社は5社もない。ほとんどがSMB(中堅中小企業)向けなので、大企業の既存顧客営業のノウハウは活かせません。

河村 プロダクトのフェーズによっては、サービスや企業の名前自体もまったく知られていません。商品力で勝負するためには、やり方を変えなければいけないですね。

見込み顧客の育成を担うインサイドセールスについても、法人営業経験者の方には新人時代にテレアポをしまくった経験から「インサイドセールス=テレアポ」というイメージが先行しているケースも少なくない。

浅田 実際のインサイドセールスは、電話だけできちんと商品を説明し、フィールドセールスにバトンタッチできるようつながなくてはいけません。

法人営業でやっていた訪問を重ねて関係構築する……というやり方は通用しませんし、なによりお客様から嫌がられます。自分が何のプロフェッショナルなのかを定義していくことが重要なんでしょうね。

河村 おっしゃるとおりです。デジタルセールスは“専門職”です。

従来の営業組織では、基本的に同じ能力・同じコンピテンシーを持った営業一人ひとりの数字の総和で目標が作り上げられていました。営業の個人商店化・属人化が進み、いわゆる柔道団体型の組織になる。

しかし、SaaSはサッカー型組織で、組織としての流動性が高く、かつ多様性のあるチーム作りが求められます。もちろん、そうした環境では評価される人物像も違います。自身の考えに固執せず思考の柔軟性がある方や、チームワークを大切にして自身が得た知見やノウハウを積極的に組織に還元する方、チーム全員の成功を喜べる素直さを持った方などが圧倒的に評価される。

これは能力の高い低いではなく、カルチャーフィットの問題ですね。


新しく学ぶことも含め、自分がどこに強いのか、どのポジションなら能力を発揮できるのかを真剣に考えていかなければいけない。

浅田 優秀な方々にSaaS業界にどんどん入ってきていただければ、日本の未来は拓けます。アメリカは、今後100%不況になるでしょう。つまり、日本にも遅かれ早かれ不況が訪れる。そこで強いのが、経営効率を上げる上で不可欠なSaaSだと、私は信じています。

だからこそ今のうちに、伸びるSaaS企業に転職し、プロフェッショナルとしてスキルを磨いていく。平均年収を見ても、マーケット的にも、キャリア的にも、いい選択だと思います。ぜひ、合理的な判断をしてほしいですね。

河村 判断に迷ったら、専門家である我々が全力でサポートします。20代、30代のキャリア形成において、今のSaaS業界へのキャリアシフトは、唯一無二の成長環境になると確信しています。

ただし、とくに異業種転職の場合、人生の大切な決断の先に転職者のみなさんが自信をなくさないよう、事前の詳細な情報収集や準備は必要だと考えています。チャレンジしたい方は、ぜひ、気軽にご相談してほしいですね。




執筆:田中瑠子
写真:小池大介、小池彩子
デザイン:吉山理沙
編集:樫本倫子

NewsPicks Brand Designにて取材・掲載されたものを当社で許諾を得て公開しております。
2022-09-01 NewsPicks Brand Design
NewsPicks Brand Design  

執筆者

NewsPicks Brand Design  

Other Category

その他のカテゴリー

  • Skill
  • Interview
  • Career
  • Template
  • Others