
六本木に知る人ぞ知る高級炉端焼き屋さんがあります。以前、第一期のトランプ大統領と、当時首相で存命だった安倍さんが会食をしたことがテレビでも取り上げられ、有名になりました。たまたまなのですが、ここの店長さんとは六本木のBarでたまにお会いする関係でした。ちょうどトランプ大統領と安倍首相の会食があった1週間後に、私の娘婿とそのお父様が熊本から東京にいらっしゃることになっていて、私が一席設けることになっていました。
その店長さんに相談したところ、快く、しかも大統領と首相が座っていた席を取ってくれました。日本の地方の年配の方を東京で食事にご案内する時にいつも困るのですが、お魚とか旬の食材って地方の方が安くて美味しいですし、年配の方だとフレンチやイタリアンが苦手な方もいらっしゃるからです。そういう意味では思い出が一番のおもてなしかなと思い、その店を手配しました。娘婿もそのお父様も大変喜んでくださり、もちろん料理も美味しかったのですが、何より「大統領と首相が座っていたところで食事をしてきた!」という、思い出話が出来て良かったようです。
このお店に行くと、頭にターバンを巻いたアラブの王様みたいな人とか、明らかにどっかで見たことがあるハリウッドの俳優さんみたいな人がいて、一般人は少ないです。料金も、もちろんそれなりにします。一方、お店の雰囲気は清潔感があってちゃんとしていますが、見た目はそこまでの高級店には見えないので、たまに若い普通の人が知らずに入店してくるのではと心配になります。
このお店の従業員の方と何度か前述のBarでお話したことがあるのですが、みなさん働きやすそうな様子で、お店の待遇や勤務時間にも満足しているように感じましたし、定着率も高いようで、何年も働いている人が多いなと当時思いました。
これって、マーケティング的に言うと、特定のターゲティングに絞って、高付加価値なサービスを提供し、それによって高収益なビジネスを実現する。出た利益を従業員にも還元して従業員満足度や採用力を高める。そしてお店のコンセプトを理解した従業員が、さらによいサービスを継続的に提供していく。こういった好循環に入っているように見えます。
私たちの会社のお客様にはSaaS系の会社も多く、スタートアップ時点ではグローバルに通用する規模での展開を狙って多額の資金調達を行いチャレンジを始めます。しかし結果的に、すでにグローバル展開している外資系IT企業に勝つことが難しく、国内市場で業界を絞って生き残りを計るようなケースも増えているように見えます。拡大するマーケットのすべてのお客様に対して、コストパフォーマンスの良いサービスを提供し続けることは、一般規模の会社には資金的にも難しいことが多いと思います。もちろん、日本発でグローバルに通用するサービスがもっと出てきてほしいと思いますし、そういった挑戦にも意味があるし、応援もしていきたいと思います。
一方、日本国内においては良質な人材採用がさらに難しくなり、「ターゲットの絞り込み→そこにおける高付加価値サービスの実現→それによる収益性の向上→出た収益を従業員に還元→良質な人材によるさらに良いサービスの提供」という流れが、一般の中小企業や中堅企業が生き残る道になるような気がしています。
そのためには「たくさんの人にとにかく量を売ろうとする営業的な発想」ではなく、ちゃんとターゲティングした上で「そのサービスを受けることによって幸せになる見込み客を探し、正しく情報を届け、その上で顧客が良い購買ができるように支援していく」という、マーケティング的な発想と実現が、今後さらに不可欠になると考えています。

■萩原 張広 Profile
株式会社エムエム総研代表取締役CEO。株式会社リクルートにて法人営業、営業マネージャーとして7年のキャリアを経て、株式会社エムエム総研を設立。法人営業のコンサルティングサービスを大手IT企業やベンチャー企業に向けて多数提供。1998年、ニューヨークでの視察経験から日本でのBtoBマーケティングの必要性と可能性を感じ、業態をBtoBマーケティングエージェンシーとする。以降、数百件のマーケティングプロジェクトに関わる。