国産MAツールとして認知度ナンバーワンともいわれる「SATORI」。2020年からは上戸彩さんを起用したCMでマーケティング業界を飛び越えて認知を広げています。 コロナ禍によりオンライン営業が普及する中、MAツールのトップランナーであるSATORIはどのようにデジタル化する営業活動を捉え、DX推進を行っているのでしょうか。今回はSATORI株式会社マーケティング営業部部長の高橋美絵さんに話を伺いました(聞き手: エムエム総研取締役 河村芳行)。
SATORIにとってオンライン化は追い風に?
河村:オンラインの営業が普及してきていますが、どのような変化を感じられていますか?
高橋:商談の進め方に違いが出てくるようです。対面だと難なくできるコミュニケーションのキャッチボールが、オンラインだと難易度が上がります。それに、参加されているお客様同士の関係性がわかりづらいというのもあります。対面であれば、お客様同士の視線のやりとりを見て「この人がキーマンなのかな」とあたりを付けることができますが、オンラインの場合それがない。ビデオオフで参加されていた方が実は社長さんだった、ということもあるようです。
色々と試行錯誤した結果、資料を使って説明する際、『プレゼンの時間』と『聞く時間』を分け、プレゼンしながらの掛け合いではなくしっかりヒアリングをする、ということにしました。
河村:オンラインで資料を出すと相手の顔が見えなくなって、理解度もわかりづらいですよね。
高橋:そう思います。お伝えしたい情報も伝わりづらいという実感を持っています。リモートワークの結果、お客様の社内でも「部長、ちょっと今いいですか?」のような臨機応変なエスカレーションをやりにくくなっているようです。相対的にコミュニケーション量が減っているということだと思います。セールスプロセスとしては「それでは次回、部長さんへのお話ですね」と段階をはっきりと分け、複数回の商談を行う必要が出てきています。
河村:各社でリードの増加や商談のリードタイムが延びている話が、今上がってきていますが、御社はいかがですか?
高橋:弊社も2020年4月以降、商談から受注へのリードタイムは倍程度になりました。一方で、オンラインセミナー等を通じたリード獲得は好調です。おそらく10倍くらいでしょうか。自社サイトからのリード獲得も伸びています。
河村:オフライン主体の場合、ビジネスモデル自体を変えるタイミングでもありますが、御社は変わっていないですよね?
高橋:はい、特にビジネスモデルの変更は行っていません。マーケティングオートメーションの導入は、セールスやマーケティングのデジタル化と紐づきますので、マクロ的には追い風となるのではないかと考えています。実際、イベントや展示会で接点が取れない分、オンラインへの投資を早めに決断されたお客様からの受注も増えています。
営業・マーケティング・カスタマーサクセスの変化
河村:先ほど商談のリモート化の話がありましたが、それ以外で変化している様子はありますか?
高橋:今改めての変化というよりは、これまでも存在していた変化の流れが加速したという風にとらえています。最後の最後、商談で対面できていたはずが、コロナ禍で商談すらオンラインになってしまった。購買活動をする消費者や企業の担当者も、最後は実際に会って決めたいというニーズが薄まっています。
そのため、「自分主導でWebで情報収集をして、最後までオンラインで決定する」というデジタル化の流れはこれまで以上に強まっていくのではないでしょうか。
河村:インサイドセールスとフィールドセールスとの棲み分けは、今どういうかたちですか?
高橋:インサイドセールスは我々が価値提供できる可能性の高いお客様を見つけて、育て、パスする。パスを受けたフィールドセールスが個別の商談を行って、しっかりクロージングして受注する。という役割分担になっています。役割分担は以前と変わっていません。
河村:そうなのですね。カスタマーサクセスに関しては、ユーザー会を以前から開催されていましたが、今はどうされていますか?
高橋:東京・大阪で年2回ずつ開催していたユーザー会では、お客様同士が直接交流することで「みんな頑張っているから自分も頑張ろう」と思っていただく役割を期待していました。
今はオンラインで開催していますが、やはりお客様同士がオンラインで交流していただくのは簡単ではないなと感じます。これも担当チームが色々と試行錯誤していて、テーマを絞ったり、より会話をしやすいように社員がその場をファシリテートしたりしています。
他にもユーザー様が主体で運営いただいているSUGM(SATORI User Group MTG)というコミュニティがあるのですが、先日は初めて東京と大阪のユーザーコニュニティが合同で実施しました。
こうした地理的な隔たりを埋めることができるのは、オンラインの良いところですね。
SaaS企業が提唱するデータマネジネントの一歩とは?
河村:今、マネジメントの意思決定に伴うデータ活用は課題の多い分野だと思いますが、お客様にはどのように支援を行っていますか?
高橋:DXというワードが注目されていますが、「すべてをデータ化するんだ」、「全社で基幹システムを入れよう」といった話になり進まなくなってしまう企業が多いように感じます。投資額も大きくなりますし、全社の業務を把握して各部署を調整することは大変難易度が高く、推進できる人材がいないという課題もあります。
弊社の提案は、一番成果が出やすいところから小さく始めて、そこから育てていきましょうというアプローチです。MAは、マーケティング部門がまずは独立して運用を開始することができます。また、見込み度合いの高い顧客を見つけるという活動なので、その成果はセールス部門にとっても有用です。何のツールを導入するか迷っているというお客様に対しては、「MAから小さくDXを始めましょう」と提案しています。
河村:御社の中ではどのようにデータ活用の文化を育てられてきたのでしょうか?
高橋:私が入社したのは創業して1年が経った頃でしたが、すでにMAツール「SATORI」は提供開始しており、自社でも業務の中心として活用を進めていました。そのため毎日ツールに向き合って仕事をしていましたし、データを共有する基盤はある状態でした。そのため、データを使って会話する文化が自然にできてきたのだと思います。
とはいえ異業界からの転職者も含め中途採用で組織を拡げてきましたので、社員のITリテラシーアップに関しては継続的に取り組んできました。例えば、全社員が参加する週次の全社会では、情報セキュリティ勉強会を社員持ち回りで行っています。また、ある程度事前のスクリーニングも必要だと考え、採用選考の受験者にはITリテラシーテストを必ず受けていただいています。ほかにも入社後のオリエンテーションで、どのツールで何をしていて、どういうルールで運用するのかを説明しています。加えて毎月のように新入社員が入社してくる中では、業務効率を上げるために「同じことを何度も聞かれない」仕組みを作る必要があります。そのため、社内ルールのドキュメント化もどんどん進んでいきました。
河村:営業活動って主観ベースで話が進みがちですから、データをもとに会話をする習慣は重要ですよね。
高橋:そうですね、確かに営業活動はデータ化できると強いと思います。お客様とのフィーリングみたいなところももちろんあるとは思いますが、将来の予測のためにも、施策の成果を計測するためにも、データ化が必要です。弊社も今、営業パイプラインの可視化と改善には特に力を入れて取り組んでいます。
生産性向上のためのフレームワーク「スクラム」
河村:業務の生産性というテーマに関しては具体的にどう推進されているのですか?
高橋:全社で「スクラム(Scrum)」というアジャイル開発のフレームワークを活用して事業運営しています。もともと開発チームが先行して使っていましたが、徐々に他部門へも浸透させ、今ではスクラムの知識を全部門において重要なスキルと位置付けています。
スクラムでは、スプリントと呼ばれる期間を事前に決めて、その間に何を生み出すかチームで合意し、そのためにタスクを細かく分解してタスクリストを作り、日々の業務をチームで協力して進めていきます。続けていくと、大体どれぐらいのタスクがその期間(スプリント)に消化できるのかを分かるようになるので、「この2週間のうちにここまでは達成できそうだけど、こっちはできなさそうだ、じゃどうする?」と、優先順位を持った判断ができるようになるんです。
各チーム試行錯誤しながらではありますが、手ごたえを感じています。
さらに、スクラムオブスクラムやメタスクラムといったスクラムチーム同士をつなぐ役割も上手く回り始めているので、部門間の連携に加え、トップダウンとボトムアップが両立できるようになってきています。
スクラム導入イメージ
河村:それはオンラインでも上手くいっているのでしょうか?
高橋:はい、問題ありません。オンラインのホワイトボードツールを上手く活用して、業務管理を行っています。
全社でKGIを2つに分け、「受注数」と「売上継続率」それぞれを追うチーム、メタスクラムに組織を大きく分けています。その下に各部門のスクラムがあって、トップダウンで役割が指示される。それぞれの部門から代表者が集まり、業務を進める中で上がった課題について毎週話をして解決していきます。もちろん、各部門が連携して必要な代表者同士が話し合った結果も、「このようにしました」と報告されます。
スクラムの運営において重要なイベントとして「デイリースクラム」があります。「昨日やったこと」、「今日やること」、「課題や相談したいこと」を毎日必ず共有するというもので、その中で互いが何をしているかが分かるし、「効率化のためにこの人はこっちを覚えたほうがいいよね」と各自のスキルが共有されるような動きも生まれます。当然、スプリント中にやるべき仕事は決まっていますので、そうしたチームの育成に関わるタスクも含めて優先順位が決められていきます。
河村:面白いですね。図には弁財天という変わったチーム名がありますね。
高橋:2つの全社KGIのうち「受注数」を追うチームを「弁財天チーム」、「売上継続率」を追うチームを「大黒天チーム」と名付けました。ちょっと独特な名前ですよね。(笑)
河村:部門横断のチームで、連携して一つのKGIを追っていくのですよね?
高橋:おっしゃる通りです。The Model式の部門になっているので、行動量を上げることには成功しましたが、やはり細分化により自部門のKPIに集中しがちで、恥ずかしながら横連携に課題がありました。マーケティングはKPIを達成しているのに、セールスは受注目標を達成できていないといった状況になっていたので、打破するための考え方として、このKGI分割によるスクラム体制で部門間連携を強化しました。
受注部門のスクラム体制の図
河村:部門ごとに評価があるうえで、そのKGIも評価効力はあるのですか?
高橋:全チームがKGIを追っているので、KGI未達=みんな未達です。但しKGIだけだと日々の活動のフィードバックを得るまでに時間がかかりすぎてしまいますので、各チーム中間KPIを見て活動しています。
この、中間KPIの話はなかなか企業の中で理解いただくのが難しいようですね。当社のMAツールを利用されているお客様から「リードが増えたのは分かったけど、売上はいつ増えるの?」と上司に言われてしまう、と聞きます。マーケティングとセールスの役割分担についてはまだ啓蒙が必要ですね。
インサイドセールスにおけるスキルセットの変化
河村:御社はインサイドセールスの人数が多いですよね。これだけの人員を回せるリードがあるのもすごいですよね。
高橋:リードの供給数ですよね。これまで特に力を入れて活動してきました。ですが今また新たな課題に取り組んでいます。MAを使ってあぶりだしたHOTな見込み客だけにアプローチしていたら、多くの場合数が足りず受注目標を達成することはできません。そして、HOTな見込み顧客を増やすにはそもそものリード獲得数を相当増やさなければならず、この方式だとお金がかかり続けます。それでは、と、対象を絞らずに見込み度合いの低いリードにもルール無しにアプローチし続ければ、インサイドセールスは疲弊しますし、人も増やし続けなければなりません。
この課題を解決するため、今後は、自分たちが特に価値を伝えたい相手への継続的なコミュニケーションの仕組み化に取り組みたいと思っています。マーケティングには「こういうターゲットに、こうアプローチしてほしい」、フィールドセールスには「こういう属性やステータスの人たちには、こういうふうにクロージングしてほしい」といった戦略がインサイドセールスから提供されるような体制を作りたいと思っています。
河村:インサイドセールスのスキルセットや採用基準は変わってきていますか?
高橋:少し変わってきていますね。インサイドセールスはセールス担当でありながらマーケティング担当でもあります。お客様の事業や業務を理解する必要がありますし、傾聴力も必要。それから当然、ITスキルも必要です。意欲があれば良いという基準ではなくなってきています。また、商談やクロージングをするわけではないのですが、やはりセールス経験のあるメンバーは成績が出ています。商談の獲得数だけでなく、受注率も高いです。
先日面白いと思ったのが、インサイドセールスの中でも個々にコミュニケーションのスタイルがあるようなのです。例えばあるスタッフは電話しながらなんだかすごく謝っている様子で、上司が心配して聞いていると、そのうちにお客様の懐に入っていって、いつの間にかクロージングをかけている。成果に繋がるスタイルにも色々個性があるようです。
リモートにおけるマネジメントのポイント
河村:遠隔でのマネジメントも当たり前になってきていますが、遠隔での行動管理や成果管理手法について最後にお伺いしたいです。
高橋:どんな業務も基本的には可視化が最も重要なポイントだと考えています。加えてセールスは商談前後をしっかりマネジメントすることに取り組んでいます。商談前に、今日の商談では何を話して何を聞き、最終的にどこで落ち着かせるのかを考えて上司に共有する。商談後の追客についても、きちんとネクストアクションを上司が指示して、メンバーに実行してもらう。こういったことが重要だと思います。
可視化については、例えば、インサイドセールスとフィールドセールスを少ない人数で束ねてひとつのチームにして、そのチームでの成果を追っています。「チーム全体でコール数、今どれぐらいいってるよ」とか「有効商談どれぐらいだよ」などと、同じ情報をみんなで見ながら進めています。
他にも、特にインサイドセールスとフィールドセールスは、基本的にお客様との一対一で行う業務が多いので、どうしても横との連携や、組織に属している意識が薄くなりがちだと思います。オンライン主体だとこれがさらに加速する印象を持っています。ですので、気を付けてコミュニケーション量を増やしていますし、「(感染症対策は十分にしたうえで)出社したい人はどんどんしていいよ」とメンバーに伝えています。
河村:営業とマーケってラストワンマイルは「人」ですよね。
高橋:そう思います。ですので、一人ひとりに向き合って、しっかり育成する必要があると考えています。知識やスキルの共有のみならず、1on1を積極的に行いキャリア支援に力を入れています。また、弊社はそんな雰囲気ないかもしれませんが、意外とインセンティブもあるんですよ。
河村:それはちょっと意外ですね。
高橋:そういったものも含めて、創業以来5年間試行錯誤を重ねてきました。やはり私はセールスが仕組化・デジタル化され、その結果セールスが科学されることが重要で、それこそがマーケティングだと思っています。MAの考え方と同じですね。ですので、MAである「SATORI」をもっともっと世の中に広めていきたいと考えています。
編集:森田 旭洋
■編集後記
SATORIさんへのインタビューは実際オフィスに伺いました。記事内には載せきれませんでしたが、オフィスはフリースペースの執務室や会議室だけでなく、インサイドセールスチームの専用ルーム、オンライン営業がしやすい一人用の個室が複数、広いセミナールームなどがあり、「オシャレかつ働きやすい」印象でした。またインタビューを見ていただければわかるように、実務でも働きやすく成長できる場所なのだと思いました。高橋さんありがとうございました!