• 2024/10/18
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はりこらむ 第108回「AIから学ぶこと、リアルから学ぶこと~急成長サービス企業の研修会~」

  • 萩原 張広  
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AIから学ぶこと、リアルから学ぶこと
~急成長サービス企業の研修会~


 ⇒第107回「ピンチを機会に変えて、ルーティンを変えてみる!」はこちらから


 30数年前、主に営業としての経験しかない自分が社長になり、社員が複数名いる状態で起業しました。会社を始めてから経営者として必要な知見は走りながら学びました。当時はインターネットもまだありませんでしたし、携帯電話もまだ一部のお金持ちや偉い人だけが使っている状態でした。今考えてみると、どうやって勉強してきたのか不思議な感じがしますね。情報はテレビなどのマスメディアと書籍、あとは実際にリアルで人に会って収集するということになります。確かに当時は、毎日本屋にいくのが習慣でしたし、いろいろな人と、とにかくお会いしていた気がします。エンジニアとして何かプロダクトを作ってという起業ではなかったので、日中や夜、人に会い、帰ってからそれを夜中にまとめて、ビジネスアイデアを創ることの繰り返しでした。

 当初から経営者の集まる会合にも参加していました。その頃に入った中小企業同友会の集まりは、創業社長よりは2代目社長が多く、社員の悪口を言う社長もいて、節税などの話が多く、私の価値観とは合わない感じがして参加しなくなりました。当時憧れていたスティーブ・ジョブスやビル・ゲイツの様な経営者との出会いがあるわけもなく、刺激を求めていた感じがします。そんな中、高校時代の友人が、当時急成長中(今は上場して大手チェーンになっている)の居酒屋ベンチャーの役員をやっており、当時すでに有名になりつつあったその会社の社長と面談の機会を得ました。お会いしてみると、その社長はビジョンもはっきりしており、当時すでに経営目的など(今でいうところのMVV)を言語化して社員と共有していました。同じ年齢でもあったので、非常に刺激を受けました。

 その会社では、早朝7時から社長自ら社員向けの研修会をやっていました。朝までやっている居酒屋チェーンなので、朝5時まで働いた社員がそのまま参加するか、参加した社員が次の日の朝まで働くこともあったと聞いています。社内ルールとしては、自由参加になっていて就業時間扱いではなかったように聞いていましたが、ほぼ全社員が参加していたようです。(今とは時代性が違うし、「ブラック企業」という言葉も当時はなかった頃の話です)この研修会は、当時100人近くいたその会社の社員を7~8グループに分けて、社長が毎月リアルでやっているというものでした。私はどうしても参加したくなり、役員である友人にお願いして、基本的に外部の人は参加厳禁なのですが、数回にわたって参加させてもらいました。大手ファミレスの会社の創業者が書いた本などを題材にして、社員が読んだ感想を発表し合い、議論をし合い、社長がコメントするスタイルでした。社長の口からは何度も「経営目的」という言葉が出て来て、会社として大切にしていることを社員と共有しようという姿勢が伝わってきました。

 ある時、店舗で起きた顧客クレームの事件を取り上げました。ある店舗で、お客様に焦げたハンバーグを出してしまい、怒ったお客様が店員を呼び出して「これは何ですか?」と質問したら、その店員が「肉です!」と答えて立ち去ったという内容が、お客様からのアンケートに書いてあったという話でした。この会社はこの事件をポスターにしてお店に張り出し、「お詫びしたいので再度のご来店をお願いします!」と表示したようです。この件に対しても、「そんなことをしたら悪いサービスをしたことが他のお客様に伝わってしまう」という意見も出たようですが、社長は「そんなことでは風が吹かない!」と言っていました。これは、まっすぐにお客様に向かう姿勢や良くないことでもオープンにして改善していくこと、そういった取り組みをオープンにしていかないと、本当にお客様を大切にする文化は、会社には育たないという意味だと思います。社長は「サービス業の差別化は文化なのだ!」と語っていました。

 このリアルな体験は私自身に大きな影響を与えました。もちろん社長になって以降、書籍などで経営者としての様々な知見を吸収する努力はしてきました。知識を学ぶことは決して無駄ではないと思います。リアルな経験をする際に、自分の中で仮説を立てたり、会話されている内容の語彙を正しく理解する為に知見は必要だからです。今ではネットやAIの普及で、一般的な知見は瞬時に手に入るようになりました。逆に言えば、一般的な知見を持っているだけでは優位性を図ることが難しい時代になっていくのだと思います。

 スピード的には私が起業した時代と比べれば雲泥の差ですが、世の中全部がそうなっていくので一人ひとりや会社の競争という意味では一緒ですね。そうした変化の中でも、自分で情報を取りに行こうとする意志や、仮説を立てて自分なりの答えを創造していく力は変わりなく必要なのだと思います。手に入れるべき知識を入手し理解していることは前提で、それを体現できるリアリティを持ったスキルや考え方が重要なのだと思います。私自身もこの研修会で得た経験をそのまま真似るのではなく、時間をかけて自分なりの回答を作り、現在に至っている気がしています。

■萩原 張広 Profile
株式会社エムエム総研代表取締役CEO。株式会社リクルートにて法人営業、営業マネージャーとして7年のキャリアを経て、株式会社エムエム総研を設立。法人営業のコンサルティングサービスを大手IT企業やベンチャー企業に向けて多数提供。1998年、ニューヨークでの視察経験から日本でのBtoBマーケティングの必要性と可能性を感じ、業態をBtoBマーケティングエージェンシーとする。以降、数百件のマーケティングプロジェクトに関わる。

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