新型コロナ感染拡大によってリモートワークが基本となった八月一日佚の会社。今日は月一回の出社日。久々に集まるチームメンバー。数か月ストップしていた新規事業の話し合いがようやく再開される。※前回の新規事業話し合いは『グロースハッカー佚』(第8話)【ミーティング】
デジタルトランスフォーメーション
お疲れ様。みんなの顔をこうやって実際に見るのは久々だな。あれ、川門、髪切った?
はい、週末に切りました!
床屋?
いや、密になるの怖かったんで自分で切りました!
いつもと変わらないっすね
えー! 今どこも換気だったり、同じ時間帯に入るお客さんの制限とかしっかりしてるから安全ですよー!
そうでもないよ、うちの近くのスチールウール宮田(床屋)は、狭い上に店内にまで待ってる人並ばせてるから怖い。多分密室に最大で5人とか集まってる
今、我々6人集まってますけど...
そこって予約制じゃないんでしょ?ヘアサロンとか予約できるところにすれば?
いや、それだと何倍も料金高くなるんで厳しいっす
今新型コロナの影響でヘアサロン業界もかなり苦しいらしいですよ。5月に知り合いの美容師から聞いた話だと理美容室は休業要請の対象外になってるから「感染拡大防止協力金の受給もないとかって言ってましたよ(※ただし一部自治体・一部期間では特別対応も)
そうなのか、やっぱ俺みたいに怖がる人も多いんだろうね。逆に何で近所の床屋はいつも混んでるんだろう
相当腕が良いとか?
まさか!あそこのオヤジに切られたらみんな似たような髪型になるよ
業界によっては直に影響が出てるみたいだけど、我々も他を心配してる余裕はないよ。今日はしばらく止まってた新規事業のプラットフォームについて話し合いを再開します。坂西が不在になったので体制含めもう一度決めていこうと思ってます
坂西さんって復帰はないんですか?
本人としっかり話せてないからまだ分からない。では、何度か皆でオンラインでも話し合ったプラットフォームの件、改めて事業ドメインは先週共有したものでOKですか?もし意見があればこのミーティング中に言ってください
要はこれって中途の求人サービスって事ですよね?今から参入するのは難しくないですか?
単なる求人サービスであれば我々が作る必要はないけど、逆に我々だから提供できる部分もあるからね
この資料の4ページ目の事ですね
えっと、4ページ.... リ・インベンション? どういう意味ですか?
簡単にいうと従来の製品やサービスでは満たされなくなったニーズに応えるべく新たな価値基準を生み出すって事。我々がこれまでマーケティング支援を行った多くの企業に共通して言えるけど、成熟期に入って消費者側が信用や価格を重視する購買行動へと移り変わっているにもかかわらず過去のイノベーションを引っ張って衰退へ向かっている事に気づけていない。だからリ・インベンションをもたらす何かが必要なんだ
その何かが人材って事ですか?
そう。具体的にはDX(デジタルトランスフォーメーション)推進人材かな
DX?なんですかそれ?
うちの会社でいうと、まさに今やろうとしてるプラットフォームビジネスがいい例だね。元々うちはマーケティング支援を通じて社会貢献を目指してたけど、日本経済が成熟期に入った事で多くの企業の課題も変わり、求められるニーズも単にマーケティング支援だけで解決できるものではなくなってきた。そこで我々の知見を活かしつつこれまでアナログだったサービスの形態をプラットフォームというデジタルへ変えることで、時代が求める新たなサービスを作りだそうとしてる
???
要はこれからの時代、デジタルを取り入れた方が良いからそれを推進するって事かな
本当にざっくり言えばそうなんだけど、もっと言うと、デジタイゼーションよりデジタライゼーションの意味合いが強いかな
??????
デジタイゼーションはアナログだったものをデジタル化する事で、そのデジタル化したデータを利用して業務効率化を図る事がデジタライゼーション。てっさん、なんか良い例えとかないかな?
はい、例えば、先ほどの話に出ていた理美容室は、電話予約、紙のカルテ、台帳での店舗や従業員の管理などアナログ作業が当たり前で非効率な部分が多い業態といえます。それによって従業員が低賃金で長時間労働を強いられる環境にならざるを得ないため、定着性が低く業界全体で疲弊している傾向があります。そこで、例えばヘアカラー材やシャンプーなど消耗品や備品の在庫管理をクラウド化する事で受発注業務の負荷が軽減され、二重発注等のミスも無くなります。更に紙のカルテから電子カルテへと移行することで従業員間のリアルタイムな共有が可能となり、休みの際の引継ぎもスムーズになります。また、従業員の勤怠管理もクラウド化することで経理面の業務負荷が軽減され、余裕が生まれる事で本来注力すべき業務に集中できるようになります。こうしたアナログからのデジタル化をデジタイゼーションと言います。デジタイゼーションが完了したら次に事業変革や新規事業へと取り組んでいく事ができます。具体的には、クラウド化された勤怠管理を会員専用のWebページに連動させることで利用客はオンライン上で指名したい美容師の空き状況を確認でき、わざわざ営業時間に電話を掛けることなく即時に予約完了できるようになります。更にオンライン決済を導入することで当日支払う煩わしさがなくなります。利用客にとってこうした新たなバリューが生まれることが次のステップであるデジタライゼーションの成功と言えます。その結果、利用客のオンラインでのアクセス状況や予約傾向等を把握できるようになり、サロン側から個人に合ったタイミングでアクションするなど新たな営業の形が生まれます。これががDX(デジタルトランスフォーメーション)という感じです
なるほどですね。それを推進する人っていうのは?
さっき川門さんが言っていた床屋をイメージしてください。仮に直ぐ近くに同じ値段で、さらにリアルタイムでスマホから空き状況が確認でき簡単に予約まで可能な床屋が出来たら、そっちに利用客を奪われる可能性も考えられますよね。この新型コロナ禍であれば特に
もしそうなった時に、あそこのオヤジはデジタル化なんかまったく無理だろうね。スマホもちゃんと使えなそうだし
つまり、内部に推進する人、実際にそれを実行できる人がいないと、競争すらできなくなるって事だね。例えば電子カルテを導入したところで、目的をもって使いこなせなければ高い導入費だけが掛かって何の効果も生み出せない。実際に、そういう企業が多いのが現状だから
そういうことだったんですね、でも川門さんが行かれた床屋みたいに今お客さんが来てて変わる必要のないところは推進しようがなくないですか?
デジタイゼーションがそもそも進んでいないところは難しいだろうね。それに今変わる必要があるかないかは先をどれだけ的確に見えているかだから。少なくとも我々がやろうとしているのは変わろうとしている企業に対して、変わるために必要な人材を作って上げることだね。逆に人材側で言えば成長機会を与えるっていうか
まぁあの床屋も、実際は客足減ってるのかもしれないし、万が一、クラスター発生したら2週間臨時休業になって状況は一変するでしょうね
その時に救う手段は推進者ですかね
それじゃ、もう遅いんじゃない? まぁ、そもそも、ああいう床屋ってDXを進める為の適任人材とかいるのかな...
川門さん
え
川門さん?
そうか! その店主と全く同じように自分の髪切れる技術持ってるし、課題も見えててデジタルマーケターとしての経験もあるからまさに適任ですね
やったじゃん川門!DX推進人材は企業成長にとって今特に重要視されるポジションだから昇給チャンスもかなり高いよ!
いやいや、そもそもあそこ企業じゃないです!オヤジの個人経営!
ん、あれ!? スチールウール宮田で検索したらお洒落なホームページ出てきますよ!会員ページから予約もできるじゃないですか?!
え!?そうなの!?
しかも、ヘアカタログのところ、これって川門さんですよね? 写真勝手に使われてません?
うそ!? ん? チリチリしてるけど、これ、俺と国籍違うね
次回『グロースハッカー佚』お楽しみに!
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