PMFとは? SaaS企業へ転職するなら知っておきたいスタートアップの基礎知識

PMFとは? SaaS企業へ転職するなら知っておきたいスタートアップの基礎知識

目次

SaaS業界のスタートアップ企業に転職を考えるとき、スタートアップで使われている用語を知っておくと役立ちます。PMFはプロダクトが顧客と市場に受け入れられている状態であり、PMF達成はスタートアップの成長になくてはならないステップです。今回は、PMFと関連するキーワードの基礎知識を解説するとともに、3社の企業分析を行います。

※ 記事内の情報は2023年10月時点に調査した情報です。

1. SaaSのスタートアップを見極めるには?

転職時に準備しなければならないことは多くありますが、業界研究、企業研究、そして自己分析の3つが重要です。社会や業界全体を俯瞰するマクロの視点とともに、実際の仕事内容や給与などミクロの視点とのバランスに留意して、自分に最適な企業かどうかを見極めます。

スタートアップの企業研究では、事業が市場で成功するかどうか、顧客に支持されるかどうかを分析するとよいでしょう。革新的な技術を使ってサービスを提供していても、市場で評価され、顧客から満足を得られなければビジネスの成功は難しいといえます。

企業を見極めるには、経営者や投資家がスタートアップを判断する基準を知っておくと参考になります。

2.スタートアップの達成指標「PMF」とは?

PMFはスタートアップの成功を見極める考え方のひとつです。「Product Market Fit」の頭文字を取った言葉であり、SaaS企業の展開するサービスが特定の市場の顧客にフィットしているか、適合しているかの達成指標です。顧客の満足と市場の適合を両立させていることが重要になります。

PMFの考え方は、アメリカのソフトウェア開発者であり投資家のマーク・アンドリーセン氏が提唱したといわれています。彼は、インターネットの黎明期にWebブラウザの「Mosaic」を公開したスタートアップ経営者の先駆け的な存在です。その後「Netscape Navigator」を開発して成功を遂げました。

現在、多くの起業家が、スタートアップの成功を左右するために必要な要素としてPMFを重視しています。


Product Market Fit

2-1. PMFが重視される理由

なぜPMFが重要なのでしょうか。その理由は、顧客満足度と市場適合性を無視したままスタートアップが資金調達や人材募集を行うと、失敗につながる可能性が高いからです。

スタートアップは初期段階から資金調達を積極的に行い、年次経常収益(ARR)を2倍、3倍と伸ばしていきます。こうしたスタートアップの成長モデルは「T2D3」と呼ばれていますが、すべての企業が成長路線にあるとはいえません。スタートアップが成長するには、的確に市場を選択し、顧客と市場に受け入れられることがカギになります。

転職時にはPMFの観点、つまり顧客と市場にフィットしているかどうかをチェックして、成長性を判断するとよいでしょう。

2-2.PMFとスタートアップ、日本の現状

続いて日本におけるスタートアップをめぐる現状に目を転じてみましょう。日本では、欧米と比べてスタートアップの開業率が低くなっています。スタートアップの中でも評価額が10億ドル以上の未上場企業ユニコーンと呼ばれていますがSaaS業界には、株式会社SmartHRのようなユニコーン企業があるとはいえ、欧米と比較するとユニコーンが少ない状況です。

こうした背景から、岸田内閣は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、スタートアップ育成強化のための5カ年計画を発表しました。この計画では、スタートアップへの投資額を2027年度には10兆円規模に拡大し、スタートアップを10万社、その中からユニコーン企業を100社創出することを目指しています。

日本経済の持続的な成長を実現するために、このようにスタートアップが期待されています。そして、スタートアップの成長を評価する指標のひとつとしてPMFが重視されているのです。

3.PMFの前段階として必要な「PSF」

ここからは、どのようにスタートアップがPMFを達成するのかを解説していきます。

SaaSを含めたIT企業の存在価値は、ソリューションつまり課題解決の提供にあります。データ入力作業の自動化や計算処理のスピードアップなど、顧客の課題にはさまざまなものがあります。この課題解決ができなければ、顧客の満足も得られずに市場に受け入れてもらうことも困難です。つまりPMFを達成できないことになります。

PMF達成の前段階として課題解決が必要であり、その指標として「PSF」があります。PSFは「Problem Solution Fit」の頭文字を取った言葉で、顧客の課題に対してソリューションをフィットさせることです。

PSF、課題解決のためのフィットの一例としては、顧客が持っている課題の特定(Customer Problem Fit)、プロトタイプ(試作)の作成、課題解決の検証(Solution Product Fit)のステップでの実施があります。このように課題解決をできるかを検証するサイクルを循環させることにより、PMFに向けてサービスの完成度を高めていきます。

4.PMFを進める最小プロダクト「MVP」

MVP(Minimum Viable Product)

一方で顧客に満足してもらい、市場への適合性を高めるPMFは大切ですが、いきなりプロダクト全体をフィットさせることは簡単ではありません。そこで、機能を絞り込んだ特徴的な最小限のサービスを提供し、顧客に使ってもらうことで、その価値を確認します。

こうした最小限の機能を「MVP(Minimum Viable Product)」といいます。MVPのコンセプトは、リーン・スタートアップの生みの親であるスティーブ・ブランク氏とエリック・リース氏によって提唱されました。

4-1. MVPのメリット・デメリット

完全な状態でプロダクトをリリースしようとすると、市場に投入するまでに機会を損失し、競合製品に市場を奪われてしまう可能性が高まります。変化の激しい時代には、不完全であってもプロダクトを使ってもらい、顧客の声を取り入れて改良することが求められます。

最小限の機能に絞り込んだMVPは、開発期間を短縮して市場に投入することが可能です。また、顧客からのフィードバックを迅速に収集し、ニーズを探ることができます。これがMVPのメリットであり、顧客満足と市場適合をめざすPMFを進める効果的な手段です。

ただしデメリットもあります。MVPは仮説に基づいて開発を行いますが、仮説の検証によっては仕様が決まらずに開発コストがかさむことがあり、本格的な開発への移行が困難になる場合もあります。

4-2.MVPにより顧客のニーズを得る方法

最小限のプロダクト開発の主な手法は、プロトタイプ(試作)です。人力や手動でシステムの一部を代替するMVPは「オズの魔法使い」と呼ばれています。

また、顧客のニーズを探ることがPMFのために重要であることから、さまざまな方法が使われます。たとえば、プレオーダーとして製品の予告を行って需要を探る方法。また、ランディングページや動画デモを設置して、アクセスから測定する方法も使われています。

5.PMFを達成する3つのフロー

PMFを達成する3つのフロー

PMFに到達できるかどうかがスタートアップの成功を左右すると言われるほど、PMFは重要なプロセスです。PMFに到達した企業は、劇的に売上が増加して飛躍的な成長を遂げます。

はじめてスタートアップ企業に転職する場合は「なぜ不完全なプロダクトをリリースするのだろう?」と疑問を持つことがあるかもしれません。スタートアップを理解するためにもPMF達成の3つのフローを押さえておきましょう。

5-1. MVPの構築

顧客の問題や課題の発見であるPSFの段階を経て、MVPという最小限の製品を構築することがPMFの第一歩です。MVPのプロトタイプは、完全に稼働しなくても顧客の課題を解決することが伝われば、モックアップやデモで構いません。また、顧客の課題解決にフィットしているかどうかの判断には、資料が重要な役割を果たします。ホワイトペーパーなどを用意して、顧客に魅力的なソリューションであることを伝えます。

5-2. MVPの評価と検証

最小限のプロダクト(MVP)が完成したら、顧客に使ってもらいます。使用後に評価やフィードバックを得ますが、アンケート調査を行う場合は定量的な評価のほか定性的な意見も収集します。このとき、製品はもちろんターゲットとなる顧客の選定が重要になります。ターゲットを変えることによってMVP達成に至ったスタートアップもあります。

5-3. MVPの改善

フィードバックや評価をもとに、MVPを改善します。仮説検証を行い、顧客や市場に受け入れ難い問題があるのであればブラッシュアップを行います。改善にあたっては完璧を目指しすぎないこと、ユーザーのあらゆる評価を反映して当初の目的からそれてしまわないことが重要です。

6. PMFを測定する数値指標

PMFの流れを取り上げてきましたが、サービスが顧客と市場に適合しているかどうかは、どのように判断するのでしょうか。

顧客から問い合わせが殺到するなど、PMFにはいくつかの達成の徴候があります。ただし、資金調達や従業員の増加、経営者のメディア露出による問い合わせ増加などは、PMFの指標としては使えません。PMFを測定する数値指標を3つ挙げます。

PMFを測定する数値指標

6-1. Product Market Fit Survey

Dropboxというストレージサービスの企業を成功に導いたショーン・エリス氏が提唱したテストです。シンプルな方法で、顧客に「製品が使えなくなったらどう思いますか?」と質問し「とても残念」「やや残念」「残念ではない(実際にはあまり便利ではない)」「該当なし (製品をもう使用しない)」といった4つの選択肢から回答をしてもらいます。

製品が使えなくなることにより「とても残念」という回答が40パーセント以上あった場合、その企業は持続的な成長の可能性があると考えられています。

6-2. NPS®

NPS®は「Net Promoter Score」の頭文字であり、ベイン・アンドカンパニー社が提唱した指標です。ユーザーアンケートを行い、その商品や会社をどれだけ薦められるか0点~10点までの11段階の回答結果から計測します。9と10を選択したロイヤルティの高い利用者の割合から、それ以下の批判者の割合を引いた値から判断します。顧客満足度より業績の相関性が高いといわれています。

6-3. エンゲージメント

エンゲージメントの測定にはさまざまな方法があり、新規利用者の利用率、リピート率、解約率などから顧客のロイヤルティを測定します。顧客満足度調査もエンゲージメントを測定する方法のひとつといえます。ロイヤルティの高い顧客は口コミで製品を紹介するようになり、顧客からの情報発信が製品の信頼性を高めます。

7. PMFに成功し、資金調達を実施した3社

続いてPMFに成功したスタートアップ企業を取り上げていきましょう。成長ステージでいえば、シードの試行錯誤の段階を過ぎたアーリー・ミドルステージ以降のスタートアップは、顧客の課題解決として提供しているプロダクトが受け入れられて、順調に顧客を獲得している状況といえます。さらにPMFを達成した各社は資金調達にもつなげています。

こうしたアーリー・ミドルステージ以降の企業の中から3社をピックアップして、どのように市場や顧客に受け入れられているかを分析します。

7-1. 【企業研究1】タイミー株式会社

タイミー株式会社

出典:https://corp.timee.co.jp/

タイミー株式会社は被雇用者の「働きたい時間」と雇用者の「働いてほしい時間」をマッチングするスキマバイトアプリを提供する会社です。「一人ひとりの時間を豊かにする」をビジョンに掲げています。資金調達の推移をみると、設立以降、資金調達を積極的に行い、2021年9月にはシリーズDの53億円の調達の後、2022年11月には183億円の資金調達を発表しました

タイミーのアプリは、プロフィールやスキルを登録しておくだけで、スキマ時間をみつけたときに履歴書の送付や面接なしに働くことができます。労働人口の減少による雇用者側の人材不足という課題と被雇用者の働き方の多様化というニーズの両方を満たすことで需要を伸ばしてきました。

当初は学生がターゲットの中心でしたが、コロナ禍による収入不安から主婦や副業をしたい会社員などに顧客層を拡大しました。このような時代背景がPMFの追い風になりました。


マーキャリの『SaaS×セールス 転職LIVE』にも登壇いただきました。キャリア面談をされた方にはアーカイブ配信を限定公開しています。

7-2. 【企業研究1】株式会社RevComm(レブコム)

株式会社RevComm

出典:https://www.revcomm.co.jp/

株式会社RevCommは、「コミュニケーションを再発明し、人が人を想う社会を創る」をミッションとし、音声解析AI電話サービス「MiiTel(ミーテル)」を提供しています。

これまで電話営業やコールセンターの顧客対応時の通話は、顧客と担当者だけの閉ざされたブラックボックスになっていました。したがって、失注の原因分析や成約のノウハウが共有されず、電話によるコミュニケーションの本質的な課題を解決するソリューションがありませんでした。

MiiTelは通話を録音し、文字起こしと解析および可視化を自動化することにより、電話のブラックボックス化の課題を解決します。通話時間、スピード、対話の回数などを分析して営業活動の改善に役立てることができます。このソリューションが顧客のニーズにマッチしました。コロナ禍によりWeb会議を利用したインサイドセールスが増加したこともPMF達成の要因のひとつといえるでしょう。

MiiTelは2018年にサービスをリリースされ、提供開始約1年半で10,000以上にユーザーを増やし、2020年にはシリーズAラウンドにて総額15億円を調達するなど、PMFからの資金調達を実現しています。その後、「MiiTel for Zoom」というプロダクトを2022年に提供開始し、ビデオ会議の需要にも応えています。

マーキャリの『SaaS×セールス 転職LIVE』にも登壇いただきました。キャリア面談をされた方にはアーカイブ配信を限定公開しています。

7-3. 【企業研究3】株式会社マツリカ

株式会社マツリカ

出典:https://mazrica.com/

「世界を祭り化する」という創業時のミッションをもとに「創造性高く遊ぶように働ける環境を創る」をビジョンとして掲げる株式会社マツリカ。SFA(営業支援)の分野で、AIを活用した「Mazrica Sales」を提供しています。名刺や顧客情報の一元管理、メールマガジンの作成・配信機能などを備えたソリューションです。

Salesforceを筆頭にSFAのソリューションはたくさんありますが、多くの企業では「導入したけれど使いこなせない」という課題を抱えていました。株式会社マツリカでは、調査によってデータの入力と活用、カスタイマイズに対するニーズをつきとめました。

データ入力の課題解決としては、UI/UXの設計にこだわるとともに、予測機能を含めた自動化を提供しています。カスタマイズの課題解決では、ノーコード/ローコードを採用することで、ニーズに合わせた設計ができるようにしました。当初はツール導入の意思決定者に魅力が伝わりづらく受け入れられないケースも目立っていたようですが、その後「現場ファースト」のプロダクトは現場からの評価を得るようになり導入数を飛躍的に伸ばすようになりました。

サービスリリースから3年後の2019年には利用企業社数は約1,300社を突破し3.7億円の資金調達を実施、2023年にも総額10億円の資金調達実施と発表しています

8.PMFを学んで、スタートアップへの転職を成功させよう

スタートアップには「グロースハッカー」と呼ばれる人々がいます。グロースハッカーは、プロダクトの持続的な改善を行って、ビジネスの発展を加速します。つまり、PMF達成のためになくてはらならい人材です。スタートアップの転職を考えるのであれば、営業であってもグロースハッカーの気概を持ち、PMFのノウハウを学んでおくとよいでしょう。

また、プロトタイプの改善を重ねて、顧客の信頼を得ながら市場を拡大していくPMF達成のサクセスストーリーは、転職後に会社で実力を発揮する個人の成長戦略にも使えるのではないでしょうか。自分という「商品」をグロース(成長)させるためにも、PMFの考え方は役立ちます。

9. まとめ

日本経済の持続的な成長のためにも、スタートアップは期待されています。そして事業の拡大を支える考え方や方法論が重視されるようになりました。PMFもキーワードの一つです。

スタートアップ企業に転職する際には、転職先の企業がPMFを達成しているのか、可能性を秘めているのか、自分がどのように貢献できるかを考えるとよいでしょう。起業家の視点で企業研究を行うことにより、ワンランク上の企業研究が可能になります。待遇をはじめとした現実的な情報収集とともに、PMFの視点から企業をとらえ直すことをおすすめします。



マーキャリ 編集部

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