SaaS業界、ホリゾンタルとバーティカルで転職するならどっち?

SaaS業界、ホリゾンタルとバーティカルで転職するならどっち?

目次

SaaS業界をホリゾンタルとバーティカルの2つに分類することがあります。この記事では、SaaS業界におけるホリゾンタルとバーティカルとは何か分かりやすく基本知識を解説します。転職活動では企業研究はもちろん、業界全体の把握が重要です。業界および企業の研究のために、ぜひお役立てください。

1. そもそもホリゾンタルとバーティカルって何?ビジネスにおける意味

水平線の英語は「ホライズン」ですが、ホリゾンタル(Horizontal)は「水平」、バーティカル(Vertical)は「垂直」の意味です。いずれも方向を表す言葉といえます。

では、ビジネスにおいて水平と垂直は何を示すのでしょうか。

経営用語において「水平分業型」と「垂直統合型」という言葉を使うことがあります。組織でいえば水平は部門の横断、垂直はトップからボトムに向けた縦割りのイメージです。つまり横の関係をホリゾンタル、縦の関係をバーティカルで表現します。整理すると以下になります


  • ホリゾンタル(Horizontal)=水平、横方向、横断型
  • バーティカル(Vertical)= 垂直、縦方向、特化型

このような縦と横のイメージを用いてSaaS業界のサービスをホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSの2つに分類します

2. SaaS業界におけるバーティカルとホリゾンタルの違い

あらためてSaaSのサービスを整理してみましょう。SaaSには、主に以下のような機能があります。


  • 顧客管理のCRM/SFA
  • マーケティングのMA
  • 情報共有のグループウェア
  • ビジネスチャットやビデオ会議
  • 基幹系の財務処理などを行うERP
  • バックオフィス業務関連 など

詳細については、以下の記事をご覧ください。

SaaSの機能は、基本的に業界や規模を問わずに利用可能です。業界を横断して利用できるSaaSを「ホリゾンタルSaaS」と呼びます。

一方、医療業界における電子カルテ管理システムのように、業界に特化したSaaSがあります。これが「バーティカルSaaS」です。

サービスをもとに分類しましたが、BtoBのビジネスモデルの違いともいえます。


  • ホリゾンタルSaaS:「機能」にフォーカスしたSaaSのビジネスモデル
  • バーティカルSaaS:「業界」にセグメントしたSaaSのビジネスモデル

法人営業の立場としては、対象となる顧客や見込み客の範囲が異なることを知っておくとよいでしょう。一般的にホリゾンタルSaaSの法人営業では幅広い業界の網羅的なビジネス知識、バーティカルSaaSの法人営業では特定の業界に関する深い専門知識が求められます

3. カオスマップとランキングでSaaS業界を俯瞰する

業界全体のポジショニングや競合関係を俯瞰するために便利なツールがカオスマップとランキングです。転職時に関わらず、営業活動で競合企業の分析にも役立ちます。

カオスマップは、ある業界の企業や製品・サービスの関係性を俯瞰するために作られた「業界地図」です。マーケティングや投資などで業界の全体像や勢力を把握するために使われます。同時に売上高などをもとにしたランキングで企業規模の把握をしておくことも大切です。

3-1. カオスマップで知るSaaS業界

ベンチャーキャピタルOne Capital株式会社の三好翔氏が、日本のSaaS業界をホリゾンタルとバーティカルの側面から整理したカオスマップを公開しています。

ホリゾンタルSaaSカオスマップ
horizontal-saas 出典:https://note.com/onecapital/n/n89401cf675ad

バーティカルSaaSカオスマップ
vertical-saas 出典:https://note.com/onecapital/n/n1d0ceecdd993

2つのカオスマップを比較して一目瞭然であることは、ホリゾンタルSaaSに配置された企業が圧倒的に多いということです。CRM、ERP、コラボレーション、その他に分類されていますが、HRMS(Human Resources Management System:人事管理システム)のボリュームが目立ちます。

一方で、バーティカルSaaSのカオスマップでは、企業やサービスの数は多くありません。しかし、医療、外食、不動産、物流など業界に合わせた特徴的なSaaSの存在が分かります

3-2. ランキングで知るSaaS業界

次にランキングです。株式会社デジタル&ワークスの運営する「業界動向サーチ」のサイトにSaaS業界の動向とランキングが公開されています。

2021年度版の売上ランキングの上位5位は、ホリゾンタルSaaSの企業です。トップから順にSansan(161億円)、サイボウズ(156億円)、ラクス(122億円)、マネーフォワード(113億円)、フリー(102億円)となっています。10位のエス・エム・エスは、介護業界のバーティカルSaaSを提供しています。

カオスマップとランキングで業界の全体像を見渡しましたが、次にバーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSのそれぞれの特徴と具体的な企業をみていきましょう。

4. ホリゾンタルSaaSの特徴

ホリゾンタルSaaSは、あらゆる業界で使えることを前提として、情報共有の機能や人事部門向けのソフトウェアなど用途を絞り込んだサービスです。

4-1. 知名度が高い

ホリゾンタルSaaSの業界の特徴として、大手企業では認知度を高めるためTVCMなど積極的に広告展開に取り組んでいます

名刺管理の営業DXサービスを提供しているSansanは、「それ、早く言ってよ~」のセリフで有名です。人事・労務管理のシステムSmartHRは、木梨憲武さん、伊藤淳史さん、松本穂香さんのキャスティングによるショートドラマのようなCMが印象的です。外出先から人事労務の提出物を戻って仕上げようとする松本さんに「戻ってこなくていいよ!スマホでできるから」と声をかける部長役の木梨さんの優しさに打たれます。

このようにホリゾンタルSaaSのサービスは、業界にこだわらずに仕事のさまざまな問題を解決するため身近で共感しやすい特徴があります

4-2. あらゆる企業に導入可能、特定業務の課題を解決

機能面では、一般社員向けから総務部門や経理部門を対象など、あらゆる企業に導入が可能であることがホリゾンタルSaaSの特徴です。主な導入メリットは業務効率化、生産性向上、情報共有。あらゆる企業の課題解決に対応する汎用性を備えています。

4-3. 競合が多く、1社あたりの売上規模は小さい

認知度が高く幅広い企業に導入の可能性が開かれている一方、サービスを提供している企業が多いため競合サービスが乱立し、競争が激化しやすい業界です。ユーザーライセンスごとの契約、月額や年額のサブスクプションなど中小企業にも導入しやすいメリットがある一方、企業ごとの売上規模が小さい傾向にあります。AIなど先端技術の導入、イメージ戦略、価格体系による差別化が求められます

5. ホリゾンタルSaaSの具体例と運営企業

ホリゾンタルSaaSの運営企業には、グローバルな外資系企業や日本の大企業からスタートアップまで多様な企業があります。著名なサービスと企業をピックアップします。

5-1. SmartHR/株式会社SmartHR

smarthr
出典:https://smarthr.jp/

人事・労務の業務効率化を中心に、データの一元管理と可視化によって組織改善を実現するHR(Human Resources)ソフトウェアです。事業所登録を完了している企業として50,000社の実績があります。1,000名規模の授業員が働いている導入企業において、給与明細の発行、年末調整、入社手続きなど主要な管理工程の約88%を削減し、ペーパーレス化に貢献しています。40以上の外部サービスと連携が可能です。

5-2. マネーフォワード/株式会社マネーフォワード

moneyforward
出典:https://biz.moneyforward.com/accounting/

個人事業主向けの「クラウド確定申告」、中小企業向けの「クラウド会計」、大企業向けの「クラウド会計Plus」まで法人向けの幅広いクラウド計ソフトウェアを提供しています。安心して使い始められる導入サポートのほか、使い方動画のコンテンツ、チャットによる問い合わせなどのサポートで会計業務のバックオフィスの効率化を支援します。銀行などのデータと連携して利用明細を自動的に取得して仕分けができる機能を備えています。

6. バーティカルSaaSの特徴

バーティカルSaaSは、米国では「Industry SaaS」と呼ばれています。この名称から分かるように、特定の産業における固有の課題を解決するSaaSです。

6-1. 市場規模は小さいが、成長が期待されている業界

ホリゾンタルSaaSと比較して市場規模は大きくありませんが、2021年に建設業向けの「SPIDERPLUS」を提供する株式会社スパイダープラスがマザーズに上場したことなどから、今後の発展が期待されています

6-2. 専門性の高い老舗企業がリード

バーティカルSaaSのサービスは技術開発力に加えて、医療や物流など特定の業界に関する知識が必須になります。したがって、古くから業界のシステム構築を手掛けてきた老舗の企業がリードしています。

6-3. 業界の慣習が強い

業界の慣習が強く、簡単に従来の業務フローやルールを変更できないためITの導入による効率化が進展しないケースがあります。新規顧客開拓が困難であり、導入までに長期化することを覚悟しなければなりません。しかし導入後は継続して運用保守のコストを計上できることがメリットです。


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7. バーティカルSaaSの具体例と運営企業

あらゆる産業においてタブレットやIoTによるセンサーの導入が進展し、DXに対して積極的に取り組む企業が増えました。このような追い風から、バーティカルSaaSの業界が期待されています。

7-1. アペルザ/株式会社アペルザ

aperza
出典:https://www.aperza.com/

製造業に向けた多様なプラットフォームを提供しています。研究開発などの情報を提供するポータルサイトのほか、動画サイト「Apérza TV(アペルザTV)」、カタログサイト「Apérza Catalog(アペルザカタログ)」、ECモール「Apérza EC(アペルザEC)」、セールスマーケティングプラットフォーム「Apérza DX(アペルザDX)」があります。

7-2. HANZO自動発注・売上予測/株式会社Goals

HANZO
出典:https://goals.co.jp/service/order/

フードロス、人材不足、価格高騰など食品産業改革が求められる飲食業界に向けて、AIを搭載した自動発注や売上予測のソリューションを提供しています

「HANZO自動発注」では、天候や季節によって変化する需要をAIが予測、最適な発注を行います。既存のシステムに大きな改修を加えることなく導入でき、発注に関する時間を1/8に短縮します。「HANZO売上予測」シリーズは、売上に応じて適切な人材のシフト作成を支援するツールです。45日分ごとに算出されるAIの高精度な予測をもとに、属人性を排除した予測を実現します。

7-3. カイポケ/株式会社エス・エム・エス

kaipoke
出典:https://ads.kaipoke.biz/

さまざまな介護ビジネスを支援するSaaSです。通所介護、訪問介護、居宅介護支援などに特化したソフトウェアを提供。保険者の請求を行うレセプト業務や経費関連の機能、ケアマネージャーやスタッフの人材管理の機能など、モバイル端末を使った直感的な操作性を備えています。

8. ホリゾンタルとバーティカル、どちらのSaaS業界に転職すべきか?

IT業界全般にいえることですが、SaaS業界にも外資系企業と国内企業があります。外資系企業への転職は、技術以外に語学力などのスキルが必要です。また、SaaSではサービスの連携が重要になるため、競合関係はもちろん共生の面から業界全体の動向を知っておくとよいでしょう。

ホリゾンタルSaaSに関しては大手の外資系企業がある一方、日本国内で独自のサービスを展開している魅力的なスタートアップがあります。ただし、競争が激しいことからBtoB業界を理解した即戦力が問われます。

バーティカルSaaSの場合は、むしろ国内企業に優位性があります。特定業界に関する知見が必要なため、ITプラスアルファとして業界の実績や経験があれば転職の強みになります。

最終的にはSaaSの特徴から、さまざまな業界のお客さまに接して知識や経験を広げたいのならホリゾンタルSaaS、じっくり特定の業界のソリューションに取り組みたいのであればバーティカルSaaSの選択が望ましいといえそうです

9. まとめ

業界全体と志望企業の関係性を把握しつつ、自分自身の希望や適性をすり合わせていくことが転職活動を成功させるポイントです。

時代とともにビジネスモデルや事業戦略は変化します。ホリゾンタルSaaSに分類される企業であっても、導入実績を蓄積した後にバーティカルSaaSの事業を展開する可能性が考えられます。企業研究の際には、可能な限り将来の展望も視野に入れておくとよいでしょう


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マーキャリ 編集部

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