【製造業界編】バーティカルSaaSへの転職、企業研究のすすめ方

【製造業界編】バーティカルSaaSへの転職、企業研究のすすめ方

目次

製造業は日本を支える重要な産業です。この製造業におけるDX推進を担う企業として、製造業に特化したバーティカルSaaSのスタートアップがあります。ものづくりの一端に関われることから、SaaS業界への転職の中でも魅力的な候補のひとつといえるでしょう。ここでは業界の基本的な理解からはじめて、具体的なスタートアップの企業研究まで取り上げます。

※ 記事内の情報は2023年11月時点に調査した情報です。

1.製造業向けバーティカルSaaSに注目

SaaS業界には、財務会計アプリケーションのように業界を横断して使えるホリゾンタルSaaSと、不動産や医療など特定の業界に特化したバーティカルSaaSを提供する企業があります。

このうち業界特化型のバーティカルSaaSが注目されています。新規参入が困難な反面、顧客の信頼を勝ち得た場合には長期的にサービスを利用してもらえるメリットがあるからです。

バーティカルSaaSはさまざまな業界向けに提供されていますが、「日本の屋台骨」ともいわれる製造業に特化したバーティカルSaaSに焦点を当てて解説していきます。

2.そもそも製造業界とは? 業界研究のキホン

まず製造業はどのような業界なのか、業界全体を理解するための基本を整理します。

製造業は、鉄鋼などの材料や素材から加工と組み立てをし製品として生産および販売する業態です。いわゆる「ものづくり産業」であり、多くの企業はメーカーと呼ばれています。産業分類でいえば、建設業とともに第2次産業になります。

製造業界は多岐に渡り、次のような業種があります

・機械(自動車、家電、産業用機械など)
・金属・鉄鋼
・電子部品・電子デバイス
・化学(繊維、食料品原料など)
・食品
・建築・住宅
・医療・医薬品関連

製造部品を提供する企業をサプライヤーと呼びますが、メーカーでは優れた部品を作るサプライヤーの選択、品質の高い製品を短期間で製造すること、さらにコスト削減が求められます。生産性向上や業務効率化のためにSaaSが注目されています。


ロボット技術を用いて生産性を向上

2-1. 製造業界の市場規模とDXの状況

続いて市場規模をみていきましょう。日本の製造業には巨大な市場規模があります。GDP(国民総生産)では、2021年に113兆4,092億円、日本全体の20.6%を占めています。

製造業界内の業種では、電気機器と自動車が大きな市場になっています。日本を支える業界への転職として、製造業向けバーティカルSaaS企業への転職は非常に有望です。

一方で、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の『DX白書2023』をみると、日本の製造業等で「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」と回答している企業は27.6パーセント(n=225)とレポートしており、DX化が進展していない状況にあります。

参考:『DX白書2023』https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html

したがって製造業ではDXへの取り組みが急務であり、バーティカルSaaSの企業にとっては、まだ競合が少ないブルーオーシャンといえるでしょう。

2-2. 製造業界のDXを担うバーティカルSaaS

製造業の中で大企業や中堅企業には潤沢な予算があり、大規模なITに対する設備投資が行われていますが、依然としてオンプレミス(自社内にサーバーを設置してシステムを運用)のレガシーなシステムを利用している企業も多い状況です。一方で中小企業はIT投資の予算や人員が限られ、いまだにペーパーレス化が進まず、業務はExcel中心という企業も少なくありません

しかし、日本の製造業には、世界に誇る「カイゼン」の風土があります。業務効率化、コスト削減などに積極的に取り組む企業が多いことが特徴です。製造業向けのバーティカルSaaS企業では、大企業に対するDX推進はもちろん、中小企業に低コストかつ簡単に操作できるサービスを提供してデジタルによる業務改善をサポートします。

製造業向けバーティカルSaaSの営業は、専門知識や課題解決力が求められるため難易度は高いといえますが、業界の課題を解消するソリューションを提供するため、やりがいのある仕事でもあります

2-3. 製造業界のトレンド

次に製造業界のトレンドを取り上げます。経済産業省の2021年『製造業を巡る動向と今後の課題』では、製造業が直面する課題として「レジリエンス・グリーン・デジタル」を挙げています。この3つのキーワードを基本知識として押さえておくとよいでしょう。

レジリエンスは回復力やしなやかさを示す言葉で、部品供給などサプライヤーとのサプライチェーンの強靭化を課題としています。グリーンは、地球温暖化など要因となる温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルへの取り組みです。そして、デジタルではDXの深化を提示しています。

また、ドローンや空飛ぶクルマ、産業ロボットの社会への実用化も挙げています。生成AIが注目を集めていますが、今後はAIの活用が求められるとともにハードウェアの面でも未来的な取り組みが本格化しつつあります。

参考:『製造業を巡る動向と今後の課題』https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/pdf/009_02_00.pdf

製造業界には社会課題に取り組み、世界を変える創造的な事業を手掛ける企業が数多くあります。製造業とともに成長するバーティカルSaaS企業への転職においては、スケールの大きな仕事ができることが魅力です。

3.製造業界で使われる主なシステム

製造業の業務効率化イメージ

製造業界全体を見渡して解説しましたが、IT知識として製造業の業務効率化に使われているシステムを取り上げます。バーティカルSaaS企業への転職にあたっては、製造業で使われているシステム全般の基礎知識を押さえておくとよいでしょう。

3-1.製造実行システム(MES)

生産現場のそれぞれの製造工程を見える化し、作業の指示や管理などをサポートするシステムであり、MESは「Manufacturing Execution System」の略です。RFDタグやカメラなどから工場や現場の情報を収集して、蓄積したデータを可視化する製品もあります。

3-2.製造オペレーション管理(MOM)

MESをさらに進化させ、QMS(品質管理システム)と融合させたシステムがMOM(Manufacturing Operations Management)です。作業指示を扱う生産管理、設備やツールの保全、品質管理、在庫管理といった目的を持つ複数のシステムで構成されています。

3-3. SCMシステム

SCMは(Supply Chain Management)の略です。原材料や部品などを供給するサプライヤーとの取り引きを管理します。SCMは製造業にとって重要であり、優れた部品を供給する企業と効率的に連携が求められます。

3-4. 在庫管理・倉庫管理システム(WMS)

在庫管理や倉庫管理のシステムも使われています。WMSは「Warehouse Management System」の略であり、製品や部品の在庫や倉庫の管理をデジタル化することにより、発送作業などのスピードアップとともに人為的なミスを低減します。

3-5. 設備保全管理システム(CMMS)

工場の設備や機械の保全を管理するシステムであり、「Computerized Maintenance Management System」の略です。IoTのセンサーやカメラで監視することにより属人性を排除し、メンテナンスの作業負荷を軽減します。事業継承の問題解決にも役立ちます。

4.製造業向けバーティカルSaaS、4社の企業研究

企業研究イメージ

製造業の全体像からITまで概略をまとめましたが、ここからは製造業向けのバーティカルSaaSを展開するスタートアップから4社をピックアップして具体的に企業研究を進めていきます。

それぞれのプロダクト、企業のミッション・ビジョン・バリューのほか、スタートアップは、成長フェーズによってがらりと様相を変えることから、企業がどのフェーズにあるかチェックすることが大切です。

5.企業研究1:A1A株式会社

A1A株式会社

出典:A1A株式会社

A1A株式会社は、購買・調達部門の見積査定をクラウド上で統合管理するサービス「RFQクラウド」を提供しています。創業は2018年6月、2023年時点のメンバー数(派遣スタッフを含む)は19人、平均年齢34歳の企業です。

5-1. プロダクトとサービス

サプライヤーから部品を調達するときの見積もりの査定は、これまでアナログで行われてきました。しかし、それぞれの書面が異なり、管理が非常に煩雑という課題がありました。「RFQクラウド」は、見積もりの査定をデジタル化する業界初のサービスです。

RFQクラウドは、クラウド上で多様な購買データの統合管理と可視化を実現します。複数のサプライヤーに向けて見積もり依頼を一括して送信、サプライヤーから提出された見積もりを比較して、交渉履歴の蓄積などデータ管理を効率化できることが大きな特長です。「価格妥当性把握」により、優れた部品の安定調達を支援します。

5-2. 会社のミッション・ビジョン・バリュー

「取引に関わるすべての人が、信頼と情熱をもったものづくりができる、世界をつくる」をミッションに掲げ、徹底的に顧客に向き合うカルチャーを尊重しています。開発にあたってリサーチを行った回数は51回、ユーザービリティテストは70回という実績があり、顧客の課題解決に注力する姿勢がうかがえます。

5-3. 成長フェーズ

2018年にスタートメンバー4人で創業し、2019年にはアーリー期(シリーズA)にて約3億円の資金調達を実施し、事業拡大のために開発やセールスの増員を強化しています。創業以降ビジネスが順調に軌道に乗り、今後はさらなる成長が期待されている段階にあるといえます。

6.企業研究2:株式会社カミナシ


出典:株式会社カミナシ

株式会社カミナシは、製造業の現場業務におけるペーパーレスをはじめとしたムダの削減、利益を生む現場づくりを実現するサービスを提供しています。創業は2016年、従業員数は93人、平均年齢は34歳の企業です。

6-1. プロダクトとサービス

製造業の現場では教育や指導に紙のマニュアルを使うことが多く、印刷された申請書類にハンコを押して承認が行われます。時間がかかるばかりか、人為的なミスが生じる課題がありました。

こうした日常業務をスマートフォンやタブレット上で完結させる「現場DXプラットフォーム」のサービスが「カミナシ」です。装置を点検したときの画像や音声や手書きメモなどの管理機能を備えています。作業を間違えた従業員にアラートを送信したり、申請を一覧管理し一括承認したり、現場を効率化する自動化機能を備えています。

6-2. 会社のミッション・ビジョン・バリュー

ミッションは「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ」。ノンデスクワーカーとは清掃員やドライバーなどを含む現場で働く人々であり、創業者である諸岡裕人氏の実家における作業者の体験がルーツとなっているそうです。大切にしているバリューは「現場ドリブン」「全開オープン」「β版マインド」「外向きベクトル」「自分リノベーション」の5つです。ビジョンはSF小説としてコーポレートサイトで公開しています。

6-3. 成長フェーズ

2023年3月に、ミドル期(シードB)にて約30億円の資金調達を行い、「まるごと現場DX構想」を実現するプロダクト開発、人材採用と組織体制の強化をめざしています。IoTやAIなど先端技術への投資を行うとともに、これまでの約20名から約50名への組織体制の強化に着手しました。成長に向けて資金や組織を整備している状況といえるでしょう。

7.企業研究3:キャディ株式会社

キャディ株式会社

出典:キャディ株式会社

キャディ株式会社は、リアル×デジタルでサプライチェーン変革を支援する受発注プラットフォームと図面データ管理のクラウドサービスを提供しています。創業は2017年、従業員数は563名(2023年4月1日時点、正社員のみ)、平均年齢は31.4歳で、既に大企業なみの規模にあります。

7-1. プロダクトとサービス

製造業の受発注プラットフォーム「CADDi MANUFACTURING」は、板金・切削・製缶・樹脂類などの調達と生産に関する外部集約化を行うサービスです。独自開発システムによりサプライチェーンの最適化とデジタル化を行い、調達工数の大幅な削減を行います。また、国内外600社以上のパートナー加工会社とのネットワークも強みです。調達に関する経営改革を実現します。

図面データクラウドの「CADDi DRAWER」は、独自のアルゴリズムを使った図面の自動解析による重要データの内部資産化の支援を行います。図面検索時間を削減してスピードアップ、過去のデータを活用した発注の最適化を実現します。

7-2. 会社のミッション・ビジョン・バリュー

「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」として、産業の常識を変える「新たな仕組みづくり」の創出がミッションです。行動指針として「もっと大胆に」「卓越しよう」「一丸で成す」「至誠を貫く」の4つを掲げています。スタートアップとしては堅実路線の理念ですが、こうした誠実さが歴史のあるメーカーに支持されているのでしょう。

7-3. 成長フェーズ

2021年にシードBにて、総額80.3億円の資金調達を実施し、グローバルを視野に入れた人材採用や新規事業に注力しています。バリューチェーン全体におけるDXを網羅し、製造業のデジタル化におけるデファクト・スタンダード構築を標榜しています。2030年までに1兆円規模のグローバルプラットフォームを目指している中、2023年7月には、総額118億円のシリーズCでの資金調達を実施しています。

8.企業研究4:株式会社アペルザ

株式会社アペルザ

出典:株式会社アペルザ

株式会社アペルザは「ものづくり産業向けオンラインプラットフォームの提供」を事業領域としています。創業者の石原誠氏は株式会社キーエンスに13年間在籍し、2001年に社内ベンチャーとして「iPROS(イプロス)」を立ち上げた後に独立しました。社員数は60名弱、平均年齢33歳、ITやコンサルティング出身者が多い会社です。

8-1. プロダクトとサービス

「Apérza(アペルザ)」ブランドのもとに、メディアとSaaSの2つの軸でビジネスを展開しています。ポータルサイト、ニュースサイト、カタログサイト、動画サイトといった情報発信のほか、ECモール、セールスマーケティングプラットフォームといった多様なサービスがあります。多角的な展開により、ものづくりの産業構造のリデザインと事業機会の創出に取り組んでいます。

8-2. 会社のミッション・ビジョン・バリュー

「ものづくり産業を世界につなぐ」として、高品質な日本製品を生み出した製造産業と国内外の買い手をつなぐプラットフォーム構築を目指します。ビジョンは「The one among all. たった一つを、全てから。」を掲げています。伝統的なメーカーのような社内風土があります。

8-3. 成長フェーズ

2016年の創業から1年、2017年にアーリー期(シリーズA)の総額6億円の調達を実施しました。さらに2019年にミドル期(シリーズB)で総額約12億円の資金調達を完了しています。カスターサクセスやマーケティングといった部署の人材を強化し、エンジェル投資家からも期待されています。

9.4社の比較から学ぶ、バーティカルSaaS企業選びのポイント

4社の比較から分かることは、製造業のバーティカルSaaSであっても各社それぞれ事業領域を明確に定め、その領域の深化と拡大戦略を目指していることです。

たとえばアペルザはSaaSのプロダクトとともに、動画サイトを含めたオウンドメディアを展開しています。つまり、マーケティング領域で製造業界の全体を支援していることが特長です。一方でAIAとキャディはともにサプライチェーン支援の領域ですが、キャディでは図面管理に特化したソリューションを展開しています。カミナシは現場にこだわるとともに、IoTやAIなどの先端技術に対する積極的な投資を表明しています。

事業の方向性は企業によって異なるため、志望する企業がどこへ向かおうとしているのか把握し、自分の適性と合致しているか見極めることがポイントです。

10. まとめ

SaaS企業の転職では、安定・飛躍・キャリアという3つの軸で志望先企業を検討することをおすすめします。そして、安定の軸を重視するようであれば、製造業向けバーティカルSaaSを提供する企業は有望です。なぜならば、製造業界は市場規模が大きく、安定した基盤があるからです。

SaaS企業の中には、大企業並みの規模に成長を遂げたスタートアップもあります。前職でメーカー勤務の経験があれば、実績や専門性を活かせる仕事といえます。

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マーキャリ 編集部

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