• 2023/08/04
  • 連載企画
  • はりこらむ

はりこらむ 第83回「営業会社からサービス業への転換 ~CGSの重要性~」

  • 萩原 張広  
article-image


営業会社からサービス業への転換 ~CGSの重要性~


⇒第82回「顧客満足度を100%にするのは可能か? ~顧客理解とサプライズ~」はこちらから


 2000年のインターネットバブルで当時伸びていたIT系のベンチャー企業をメイン顧客に営業コールセンター事業を展開して、エムエム総研も大きな成長を遂げました。

 その後上場の準備もしましたが、リーマンショックにより業績は急降下、幸いにして多額の資金調達をしていたので、キャッシュ的にはなんとか持ちこたえ再生を果たす事が出来ました。リーマンショック時に12億から8億に落ちた売上はその後3倍になりました。

 この頃に私の社長としての事業への捉え方が大きく変わりました。私自身、もともと営業出身なのもあり新しい顧客を見つけて受注する事に喜びを感じていた部分もありましたし、業績目標を達成する緊張感をモチベーションにして成長してきた実感もありました。当然、当時の会社は営業会社らしい文化になっていました。

 リーマンショックで多くのベンチャー企業がいなくなり、新規の開拓も難しくなった時、外資のグローバルIT企業や日本の大手IT企業との取引は残っていました。当然そうしたお客様を大切にする事が経営的にも重要で、新規営業よりもいかに既存のお客様の望む事を実現するか、それに対応したサービスを行うかが重要になっていきました。短期業績を優先するのではなく、しっかりとしたサービスを提供する事で、お客様の満足を勝ち取り、結果的に業績が上がっていく、そんなかたちに変化していきました。これは営業会社からサービス業への大きな転換であったような気がします。

 その頃、会社のイメージも変えようと、以前は赤と黒を基調としたロゴやコーポレートカラーで、「戦う集団」みたいなイメージでしたが、グリーンとグレーを基調としたロゴやコーポレートカラーに変えて、コーポレートサイトも改変し、お客様を支えるサービス業らしい企業コンセプトに作り直しました。また社員の評価の仕組みも、業績の評価の比率を下げて、顧客満足やクオリティ、お客様によいサービスを提供できるスキルの習得が出来たかなどの要素が大きな比率になるよう変えていきました。現状ではNPSを導入して、顧客評価を社員の評価につなげるようにしています。すぐに結果が出る訳ではありませんでしたが、徐々にお客様の満足を勝ち取る事が出来るようになり、業績も再成長する感じになってきました。

 こうやって変革したエムエム総研は、8億から23億に成長するプロセスで、新規事業以外では組織的な新規営業やマーケティングをほとんどやっておらず、業績成長は、既存客取引の増大や、既存客からの紹介、お客様である担当の方が転職してまたそこからお声がかかるといった形での拡大がすべてでした。またこれにより経費に占める、営業経費の比率が低い状態を実現できて、収益性も向上しました。

 そういった経験をもとに、現状トライしているのが、新しい概念ですが、既存客起因成長率/CGS(カスタマーグローススコア)という考え方の標準化です。これは既存客の取引拡大や新窓口への展開、紹介による取引先拡大での売上が、前年比でどうなっているかというKPIです。リーマンショック以降再成長したエムエム総研の既存事業は、このCGSが115%くらいになっており、別予算を組んで新たなマーケティング活動や新規営業をしなくても成長出来ている状態になっていました。現状は新しい事業も始めているので、全体としては違う構造にはなっていますが。

 事業として、この比率が100%を切ると、常にマーケティングや新規営業で新しい取引を拡大しないと成長できない事になります。もちろん新規事業や成長率をさらに拡大したい場合は、新規営業やマーケティングは必要ですが、事業がある程度の段階に入ってからは、むしろこのCGSがどの比率にあるかが事業の成長性や収益性に大きく関わると思います。そういう意味で言うと、重要な既存顧客から信頼を失うような事を起こすのが、事業上最もよくない事になりますね。

 営業会社的な文化に寄りすぎると、既存のお客様より新規のお客様を受注した方が偉いみたいな感じになる事も多いので、事業の状態によっては注意が必要です。私自身もリーマンショック以前を振り返ると反省する部分が多々ありますね。

 また、お客様の状況や競合も絶えず変化していくので、「自社のサービスがお客様のニーズにフィットしているのか?」「競合に比べて差別化できているのか?」という視点も大切です。ここは、SaaS系の会社ではPMF(プロダクトマーケットフィット)という言葉がよく使われますが、私たちみたいなプロダクトを持たないサービス業の場合は、SMF(サービスマーケットフィット)という概念を作り、それを現実化していく事が重要だと認識しています。

 現場からそういった情報を客観的に収集して、組織として対応していくことが重要になります。個々のメンバーの誠意や頑張りだけでは、結局お客様の満足を勝ち取り続ける事はできないからです。継続取引が前提での法人向けサービス業においては、顧客満足の獲得によるCGSの最大化が、事業成長及び収益の再重要ポイントになるのだと思います。

⇒次の記事はこちらから



■萩原 張広 Profile
株式会社エムエム総研代表取締役CEO。株式会社リクルートにて法人営業、営業マネージャーとして7年のキャリアを経て、株式会社エムエム総研を設立。法人営業のコンサルティングサービスを大手IT企業やベンチャー企業に向けて多数提供。1998年、ニューヨークでの視察経験から日本でのBtoBマーケティングの必要性と可能性を感じ、業態をBtoBマーケティングエージェンシーとする。以降、数百件のマーケティングプロジェクトに関わる。

「マーキャリNEXT CAREER」無料キャリア相談実施中

マーケタースキル診断公開中!!

関連記事

検索条件を変更する

フリーワード

記事カテゴリ
タグ