• 2020/10/21
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はりこらむ 第10回「BtoBビジネスにおける、マーケティングの本質的な意義とは?」

  • 萩原 張広  
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BtoBビジネスにおける、マーケティングの本質的な意義とは?

~一生幸せに暮らせる配偶者を見つけることと、

恋愛プロセスから学び共有すること~


⇒第9回「コミュニケーションLTV/長く影響を受ける言動とは?」はこちらから


私が最初にした仕事は、英会話のカセットを個人相手に売る営業でした。

その営業を一言で言うと、「一晩だけの関係構築!」みたいな感じですね!
これは、私が以前出版した『営業の科学』による営業分類で言うと、BtoC新規ハードウェアの営業になります。一つの大きな特徴は、新規時1回だけの取引であって、その後の継続取引がないことです(もちろん今は英会話教材のダイレクト営業自体がほぼなくなっているので、現状にある話ではないと思いますし、当時も他の販売スタイルもあったと思います)。

『営業の科学』でも営業の仕事を恋愛に例えて書いていますが、不謹慎だと言われることをあえて覚悟して言えば、この営業は、男女関わらず一晩だけ付き合える相手をナンパするみたいな営業ですね。何せ2回目はない訳ですから、とにかく相手をよい気分にさせようとたくさん褒めるし、なんとかその日のうちにクロージングできるように頑張ります。即決が基本ですね。相手の感情にアプローチして、気持ちが高まっているうちに決まらずに、時間が経って冷静になってしまうとクロージングが難しくなるからです。実際私がその営業をやっていた時は、即決率は90%を超えていました。もちろん男性の営業もいましたし、女性の営業でトップクラスの成績を上げる人もいました。

正直な話、お客様は英会話のカセットを衝動的に買っても、長続きする人は少ないので、カセットを買った満足度が高くなることはあまりなく、紹介もほとんどありませんでした。まあ私自身は、営業技術的には学べることも多かったですが、そういった感覚に耐えられなくなり転職するわけです。

その後、私は建築資材(風呂釜とかタイル)の営業に従事します。これは、先ほどの分類で言うと、BtoB既存客(新規もたまにある)ハードウェアの営業です。お客様は工務店とかタイル屋さんなので、お客様の事業に必要な材料を継続的に売ることになります。BtoCであった英会話のカセットの営業とはまったく逆で、長期に渡る信頼関係やお互いにwin-winなことが重要です。

お客様が価格を優先するのか、それとも迅速な配送体制が必要なのか、たくさんの種類のあるタイルや風呂釜の中から顧客ニーズを満たすものを提案して欲しいのか、そしてそのお客様のニーズは自社が長期に渡って満たせるものなのか。ここが合わないと長い取引は望めません。

無理して価格を下げて一度だけ受注しても、その後、続けられないからです。これは、恋愛で言うと、一生幸せに暮らせる配偶者を見つけることですね。結婚相手を探すようなものです。もちろん人生における結婚相手は一度に一人で、ビジネスの相手は複数にはなるという違いはあります。でも結婚においても、一時の感情で決めてしまうと、本当の価値観の一致や経済的な裏付けがなく途中で破綻してしまうことも多いかと思います。

基本的にBtoBの取引は継続的なものが多いです。そして、新規顧客を1件受注するためにかかるパワーとコストはあまり変わりません。しかしその後の業績に及ぼす影響はどこの会社から受注するかで大きく変わるのです。長い取引が続けられる可能性のある会社から受注することがLTV(生涯顧客価値)的にとても重要ですね。

BtoB企業がマーケティングの組織と機能を導入する本質的な意義は、ここにあると思います。営業組織的には、期間設定された業績をメインミッションにするために、受注した会社のLTVよりも、早く受注できることや、その期間の売上額や受注確率が高いことの方が優先されます。それに該当しない見込み客は営業から放置されることにもなります。
だからこそ、長期的な視点でLTVを考えて、ターゲティングやセグメンテーションの段階から見込み顧客を分類してリストアップし、フォロー活動を行っていくマーケティング組織と機能が必要なのです。

また私が過去に経験した日本の会社もほとんどそうでしたが、営業パーソンが独力で新規の営業活動を行うと、そのプロセスは可視化されず、そこで経験した知見は会社には残らず営業パーソンの中だけに蓄積されます。最近はSFA等が導入されて、商談化以降のプロセスは蓄積され可視化されるようになってきました。しかし商談発生の瞬間や潜在ニーズの状態のお客様情報は蓄積されません。

BtoB企業はマーケティング組織と機能を導入することで、営業プロセスの分業化がすすみ、Webマーケティングやインサイドセールスで行った営業プロセスが、初期の段階から可視化され会社としての情報資産になっていきます。これは恋愛で言えば、初期段階の経験値、例えばナンパとか合コンとか、出会い系サイトとかの知見を多くの仲間で共有して、みんなの財産として活かしていけるようになるということですね。

LTVの高い顧客を見つけ得ること、そして営業プロセスを可視化し財産に出来ること。この2つがBtoB企業がマーケティングの組織と機能を導入する大きな価値だと思います。そしてその事が事業の持続的成長を実現していくのです。

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■萩原 張広 Profile
株式会社エムエム総研代表取締役CEO。株式会社リクルートにて法人営業、営業マネージャーとして7年のキャリアを経て、株式会社エムエム総研を設立。法人営業のコンサルティングサービスを大手IT企業やベンチャー企業に向けて多数提供。1998年、ニューヨークでの視察経験から日本でのBtoBマーケティングの必要性と可能性を感じ、業態をBtoBマーケティングエージェンシーとする。以降、数百件のマーケティングプロジェクトに関わる。

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