セールスからマーケティングへ。「一人事業部」の経験を活かしスタートアップで独自のポジションを確立

セールスからマーケティングへ。「一人事業部」の経験を活かしスタートアップで独自のポジションを確立

Profile

吉岡真宏 AIQ株式会社

前職では営業を主体にビジネスサイド全般を経験。2021年9月にAIQ株式会社に参画。
転職の軸はセールスではあったが、「営業の気持ちがわかるマーケター」としての期待を受けマーケティングチームへ配属。組織では、The Model型を主軸としながらもプロダクトとチームの統一を図る。またマーケティング×セールスの観点で独自の手法を取り入れている。
現在は前職の一人事業部の経験をもとに、入社後即戦力としてAIQを支える。

目次

インフルエンサーの選定およびダイレクトキャスティングからディレクションを一気通貫で実行できるSaaSプロダクト「MATCH ENCER」、Instagram運用の勝ちパターンを自動でアシストナビゲーションをするSaaSツール「moribus」を提供するAIQ株式会社。
今回インタビューをしたのは、同社にてマーケターとして活躍する吉岡さんです。

前職ではセールスだけではなくビジネスサイド全体を一人で行う、いわば「一人事業部」を経験。現在は、その強みを活かしセールス×マーケティングの視点で日々業務を遂行されています。

会社やお客様にとってより良いサービスを作るために、従来はそれぞれ独立していた各チームとの定例会議の開催を徹底するなど社内変革にも関わっています。
今回は吉岡さんに、セールスからマーケティング職へ至る経緯や組織運用、やりがいなどについてお話を伺いました。

約5万件のインフルエンサーデータを収集したSaaSを提供

──御社の事業内容と商材について教えてください。

SaaSのプロダクトとして、2021年9月からインフルエンサーマーケティングの支援ツールを提供しています。

もともと、私たちはインフルエンサーマーケティングの分野で、キャスティングからディレクションまでを一貫して支援していました。インスタグラムへの投稿のリーチ数を保証した、1回あたりの価格を提示しています。 その金額内でインフルエンサーへの報酬とディレクション費用を分配しています。

このSaaSツールが生まれたのは、我々がクライアントとインフルエンサーの間に入って御用聞きするよりも、お客様自身がインフルエンサーと直接つながることでより大きなメリットを得られると感じたためです。加えて、間に入る会社が少なければ少ないほど、無駄なコストを削減することもできます。
それにより、インフルエンサーは報酬を多く受け取れますし、クライアントは無駄な費用を払わなくて済みます。

「MATCH ENCER」は事業会社様が自分達でインフルエンサーを選定・ディレクションするためのツールで、現在約5万件のインフルエンサーデータが集まっています。このデータベースを、ご契約いただいている企業様は自由に閲覧でき、選定したインフルエンサーとダイレクトにつながることが可能です。

現在は、「高い影響力を持つ人に商品を使っていただき、その人が広告塔となって商品を訴求する手法」が増えています。その先には、高い効果を得られた投稿を自社サイトに掲載したり、インスタライブの出演を依頼したりするなどのインフルエンサーへの二次依頼があります。アンバサダー契約やコラボ商品の制作につながることも多くあります。このマーケティングの入り口部分を我々が支援しています。



──現在インフルエンサーデータが約5万件もあるとのことですが、どのような方法でリストを蓄積されたのでしょうか。

Instagram上の公開アカウントから投稿のデータを見て判断しています。投稿画像やテキストを画像解析や自然言語処理にかけることでデータが取れますので、その投稿者の特徴を類推できるのです。

写真に写っている物体や個数も検出できますし、使っているハッシュタグもチェックしています。そしてそのデータを元に画像とテキストから取得した情報を組み合わせ、解析するイメージです。この技術で、プロファイリングAIという特許も取得しています。

それらのデータを元に、我々がインフルエンサーに相応しいと考えられるアカウントをデータベース化しています。



──御社のサービスを使うことで、投稿がリーチした人たちのデータも収集できるのでしょうか。

はい。そうですね。「いいね」やリーチした人のデータまで収集できます。一度利用して終わりではなく、PR投稿の結果を振り返り、改善点を探し、また試行するというPDCAサイクルを回すところまでできますし、それが重要だと弊社は考えています。

一言でインフルエンサーマーケティングと言っても、Instagramだけで進めるのは難しいです。MATCH ENCERを導入することで、間違いなくより運用しやすくなります。



──サービスサイトを拝見したところ、カスタマーサクセスの観点でUI/UXが設計されていると思いましたが、その点いかがでしょうか?

UI/UXもそうですし、会社としても、チームとしてもカスタマーサクセスを行っております。例えば、オンボーディングの際にはキャスティングの注意点や投稿指示の依頼内容など、ダイレクトメッセージ(以下、DM)でやり取りする部分の、 細かいノウハウをクライアントに提供しています。

また各インフルエンサーには特色があります。そのため基本的にはその方のテイストで投稿してもらうのが良いと考えていますが、PR投稿ならではのアドバイスができると感じています。

例えば、女性用下着のPRで、カルーセルの1枚目に女性が服の上から商品を着用した写真、2枚目以降に商品の詳細画像を載せていたケースがありました。

この投稿の目的は、購買層である女性にその下着の良さを伝えることです。それにもかかわらず、Instagramの男性利用者層から想定外の「いいね」が集まってしまいました。

この投稿であれば、順番を変えて1枚目に商品写真を載せ、2枚目に着用イメージ画像を載せることで、届けたいターゲットにしっかりと届けられたと思います。

このように過去のデータを元に「この商材であればこういう投稿をしたほうがいい」とレコメンドしています。そして現在は、このノウハウもツールに盛り込むために機能アップデートを検討中です。



──実際にサービスをリリースした9月から現在までの営業活動や導入実績について教えてください。

サービスが9月に始まったばかりなこともあり、契約していただいている企業数はまだまだこれからといった状況ですが、非常に多くのお問合せをいただいております。またそれ以前のキャスティングを含めた案件は100~150社程度の実績があります。

現在は、過去にキャスティングも含めて発注していただいたお客様に対し「自社でインフルエンサーマーケティングを内製化できます」と、このSaaSの「MATCH ENCER」を提案し、導入いただくことも多くあります。提案先は過去の取り組みをもとに決めることが多く、自社のマーケティング活動はまだまだ領域を広げていける段階だと言えます。

ターゲットを明確にしながらも、サービスの露出方法や広告、LPの打ち出し方などはまだ試運転という状況です。とはいえ、プロダクトには自信があります。またある程度の傾向は見えてきたことで、リードさえ取れればあとはセールスがしっかり売れる状態にできつつあると感じています。

複数のプロダクトを一人で売れるように組織を変える

──組織体制について教えてください。

「MATCH ENCER」、「moribus」それぞれのプロダクトにチームがあり、セールス、カスタマーサクセスがそれぞれ在籍しています。

しかし、お客様にプロダクトを使っていただく中で、我々の提供価値を最大にできるのは、2つのプロダクトを同時に使っていただくことだとわかってきました。両方使うことで、クライアントのマーケティングはより成功へ近づくと確信しています。



──営業が分業化された組織だと、リードの量と質のバランスや、LTVの管理が難しいという話もありますが、苦労されている点はございますか?

マーケティングについては、いかにリードを創出するかが直近のKPIになっていて、インサイドセールスと相談しつつアポ数を最大化しようと調整しています。

ただ、会社全体としては、入ってきたリードに対して最終的な受注後の契約継続率や、LTVも含め全体で見る必要があると思います。本当は利益率や投資回収率まで見たいのですが、実際そこまでやるのはまだ難しいですね。そのような理由もあり、一旦マーケティングチームはアポ数を最大化するところにKPIを置いています。



──インサイドセールスとフィールドセールス、マーケティングでそれぞれどの程度コミュニケーションを取っていますか。

私が入るまで、そこがあまり取れていなかった印象ですね。マーケターはマーケティング業務に集中しなければいけない状況だったので、セールスと常にやりとりしながらプロセス全体を最適化するよう気を配る余裕がありませんでした。

私は当初セールスチームへの配属予定でしたが、マーケティングチームに配属となったのは、そのコミュニケーションの課題を解決するためでもあります。「セールスの気持ちをわかる人がマーケティングを担当した方が確かに良い」とシンプルに思いました。

その考えも踏まえて、今はセールスとマーケティングで、週1の定例を行うようにしています。話す内容は、マーケティングの現在の動きやリードのタイミング、ボリュームの予測など。インサイドセールスにはアポ率について尋ねます。
もちろん数値としては知っていますが、感覚値を知るためには直接話すのが最も効率的です。

マーケに入って初めてリード獲得の難しさに気が付いた

──セールスからマーケティングに入って苦労したことがあれば教えてください。

実際にマーケティングをやってみて、ターゲットのリードを取ることの難しさを実感しました。「リードを取るためのマーケティングとは、こんなにもやることが多いのか」と正直に思いましたね。

極端な話ですが、セールスの人はマーケティングほどリードの獲得施策について考えているわけではありません。自分がセールスだった時も「なぜ、もっと良いリードが取れないのだろう?」と感じはするものの、自身の領域外ということもあり深く考えることはできておりませんでした。

リードを取るためには、施策としてWeb広告の出稿なども見なければいけませんし、その広告の受け皿として準備が必要なコンテンツが沢山あります。コンテンツを量産しながら、それに合った広告を出し、そしてターゲットユーザーを集客しなければなりません。

それらの点と点が合致しないかぎり良いリードは作れないため、日々試行錯誤の繰り返しです。今は両方考える立場になったため、身をもって理解することが多くなりました。



──セールスを経験していて良かったことを教えてください。

前提として、セールスはクライアントと最も近い距離で話をする立場であるため、得られる情報が多いという利点があります。それをセールスからマーケティングへフィードバックし、施策化するとなると、時間がかかってしまいます。

そこでマーケティングとセールスを兼任すると、セールスとしてクライアントからいただいた情報や課題点を、即座にマーケティングとしてプロダクトに落とし込めるようになります。自分の手で施策化できるのです。どのような訴求方法をすればどのような人が集まるのかを、逆算して施策に落とし込むことは、時間短縮にはもちろん解像度を高めることにもつながると思います。

また、個人的にセールスには自信を持っているため、その土台を持ちながら他の領域にも挑戦できることは、私のキャリアにとっても大きな意味があると感じています。例えるなら「自分の切り札を使わずに戦っている」とも言えます。

切り札を使わず戦う分だけ、自分自身のスキルが高まっているのを実感しています。これからの時代は、一人でできることが多いほうが良いのは間違いないと思います。スキルを掛け合わせすることで、価値が高まるからです。もちろん、複数のスキルの中でも極めなければいけない点はありますが、自分の今後のキャリアを考えると、自分の専門から一歩外れたスキルを持つことは重要で、貴重な経験だと思います。

一人事業部の経験は強みでもあり、課題でもある

──吉岡さんは挑戦する意欲が人一倍強いと感じますが、仕事の向き合い方について教えてください。

そうですね。前職で私はビジネスサイドを全て自分一人で担当して、1からプロダクトを作り上げました。プロダクトを提案するためのリードを取り、営業として提案をし、受注したらオンボーディングと継続利用をいただき、改善施策にまでつなげます。これを当時はすべて一人でやっていました。これは経験として非常に良かったなと思っています。

全部自分一人でやった時に分かることもありますので、「この手法でリードを取ると、こういう提案ができて、受注へつながり、解約もなかなかされづらい」といったところを全部自分で見ることができます。これはすごく良い経験でしたし、変化を常に求めることが重要だと思いました。



──なるほど、一人での体験は今だと貴重かもしれないですね。

そうですね。あとは、社内の人と話すことは良いことでもあり、リスクでもあることに気付きました。スタートアップは、事業やサービスに夢中になるため、一方向しか見えなくなりがちです。それは会社にコミットしているようで、外から見ると普通ではないと思われることが多いものです。

それに気づき、視野を広くもつためには、社外の人といつでも気軽に話せるコミュニティを作ることが大切だと感じました。社内の人と常に一緒にいればいいわけではありません。それでは、自らの視野を狭めることにもなってしまいます。



──ご自身の将来像や課題について教えてください。

私の課題点は、組織のマネジメントや組織形成の部分です。もっと真剣に取り組まなければいけないと率直に思います。

今までのキャリアでは、人のマネジメントをする機会があまりありませんでした。もちろん、「この仕事を進めてほしい」と言われたら、ある程度できる自信はあります。しかし、「○○さんとやって」「○○な組織を作ってあげるから、あとはよろしく」という具合に任された際に自信を持ってできるかと言われると、今のままでは難しいですね。

人を動かすことは難しいですし、巻き込む力が必要です。しかし、今はさまざまな会社がマネジメントに価値を置いているため、自分も合わせていく必要があると考えています。

弊社はまだ50人程度の会社のため、社内の多くの方とコミュニケーションを取らなければなりません。厳密には、誰かを管理するポジションにいるわけではありませんが、事業全体は見なければならないため、事業の管理をする点でも、マネジメントは課題ですね。



マーケティングのやりがいは「ハードルを飛び越えること」

──チャレンジすることの楽しさ、やりがいについて教えてください。

マーケティングにチャレンジすることの一番の楽しみは、複数あるハードルをクリアすることだと考えています。

特にBtoBを前提としたプロダクトは、契約までに長い検討時間と大きな金額が必要で、意思決定のためにクリアしなければならないハードルが沢山あります。たとえ担当者が導入したい気持ちになったとしても、その上長が許可を出し、会社としてOKを出されるまで契約書に押印はしていただけません。単純に一人だけを説得すれば良いわけではないのです。

「長い検討期間を経て、なおかつ会社全体の納得を得て、初めてお金になる」その道のりは険しいものですが、そこに関われる点において、マーケティングやセールスをやる価値があります。

今、BtoBのSaaSは大きな盛り上がりを見せています。ここでスキルや市場の認知を取ることができれば、今後絶対に戦いやすくなると思います。なぜなら、そのスキルを持った人材は、さまざまな企業で必要とされるはずだからです。

現状の盛り上がりはまだまだ続き、やがて当たり前になります。実際にベンチャー企業がどんどん設立されていることからも、もっと増えていくと思います。今はBtoBのSaaS企業を支援するためのSaaSもあります。業界が広がれば広がるほど生まれる新しい市場と、そのブームの渦中にいることは重要なことだと思います。



──最後に、新規事業のやりがいについて教えてください。

新規事業は、成功すればするほど周囲に人が集まってくることが楽しさややりがいにつながると思います。既存事業と違い、新規事業には答えがありません。わかりやすい答えがないからこそ探り探りで事業を進めていきます。進める中で得たヒントを活かし成功に近づくためには、力業が必要なシーンもあります。

それには多大なパワーが必要ですが、成功すれば会社へ大きなインパクトを与えられます。
そうすると、初めは1人や2人で始めていた新規事業に、どんどん人が集まってきます。前職で一人事業部をやった時も、最終的には7~8人に成長しました。その過程を試行錯誤し、自らの手で勝ち取っていくことは、わかりやすく面白いことだと思います。

そして、人が増えれば、できることも増えます。正直なところ、一人でやっている時は、すべて自分でカバーしなければならないため、いかに効率よくやるかを考えてしまいます。

ひとつひとつにあまり工数や時間を割けませんからね。しかし、事業が成功して人が増えると、手を付けられる領域も深度も、密度も増します。それが新規事業のやりがいにもつながるのではないでしょうか。



──わかりました。本日はありがとうございました。



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マーキャリ 編集部

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