経済産業省では2018年5月に「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置し、ITシステムのあり方を中心に、企業がDX(=デジタルトランスフォーメーション)を実現していく上での現状の課題について『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』として報告書に取りまとめて公表しています。
この記事では経済産業省発表の「DXレポート」について、分かりやすく解説しています。なぜデジタルトランスフォーメーションをすすめていく必要があるのか、すすめないとどのような弊害がおこるのかについても解説していますので、ぜひ参考にしてください。
デジタルトランスフォーメーションをしっかりと理解しよう
デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)は、2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱されました。DTではなくDXと略すのは、英語圏では「trans」を「X」と略すことに由来しています。 デジタルトランスフォーメーションとは何かについて、経済産業省では以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
つまりは製品をデジタル化するといった取り組みではなく、「デジタルを使ってビジネスモデルに変革を起こすこと」と言えます。当然ビジネスとは企業や一般消費者に向けて行うものですので、企業内だけでなく社会全体に変革が起きることになります。
よくある誤解としては「デジタル化=デジタルトランスフォーメーション」というものです。環境の変化に適応するための手段としてデジタルのテクノロジーやツール、データを活用することがデジタルトランスフォーメーションの本質です、デジタル化はあくまで1つのステップにすぎません。この点については誤解がないようにしておきましょう。たとえばオンライン商談ツールやWeb会議を導入するといったことはデジタルトランスフォーメーションではありません。
デジタルトランスフォーメーションが進まないとどうなる?
経済産業省はデジタルトランスフォーメーションの推進についての具体的方策を盛り込んだガイドラインを発表するほど、デジタルトランスフォーメーションを積極的にすすめようとしています。これは、デジタルトランスフォーメーションが進まないことにより、日本企業全体が大きな損失をこうむることが予想されているからです。
2025年がタイムリミット「2025年の崖」
多くの経営者は、将来の成長、競争力強化のために、デジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出・柔軟に改変するデジタルトランスフォーメーションの必要性について理解しています。しかし、デジタルトランスフォーメーションが進まないのには社内に大きな課題が潜んでいるからです。
課題1:既存システムの複雑化・ブラックボックス化
ほとんどの企業ではすでに何らかのITシステムが導入されています。しかし、それらの多くは事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができず、また過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化 しています。既存のITシステムは、数十年単位で同じものをカスタマイズしながら使っていることも珍しくありません。
会社の中には「これはあの人にしか分からない」といったものが部署や業務を問わずあるものですが、それがシステムで起きているということです。長年同じシステムを使い、システムのブラックボックス化がすすむことでデータを活用しきれないだけでなく、新たな技術を導入しても効果が出にくくなってしまいます。
課題2:現場サイドの抵抗
デジタルトランスフォーメーションへのステップとして、既存のシステムを刷新し新たなシステムを導入する際には現場サイドからの抵抗が生まれやすいです。システムが新しくなることでブラックボックス化だけでなく業務の効率化にもつながるのなら、よいところだけのような気がするのにどうして現場の抵抗があるのかと疑問に思うかもしれません。これはひとことで言うと「仕事のやり方が変わるから」です。
新しいシステムを導入してもそれがまた20年後にブラックボックス化していては意味がありません。つまりはシステムの刷新と同時に業務自体の見直しも求められることになるのです。人は変化を好まないものです。慣れてきたやり方で続けていきたいと考える人は少なからずいます。そこで現場の抵抗や反発が起こり、デジタルトランスフォーメーションが進まないのです。
2つの課題が解決できないことは、単純にデジタルトランスフォーメーションが実現できないだけではありません。2025年以降は現在の3倍となる年に最大12兆円の経済損失が起こる可能性があると予想されています。これが「2025年の崖」です。
デジタルトランスフォーメーションがすすまないとなぜ経済損失が大きくなる?
システムのブラックボックス化の解消ができず、デジタルトランスフォーメーションへのステップが進まない場合は、データの活用ができず市場の変化に対応してビジネスモデルを柔軟・迅速に変更できなくなります。このことによりデジタル競争で敗れてしまうことで起きる経済損失がまず挙げられます。
次に、既存のシステムを使い続けることで維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上を占めるようになるとされています。これは、今は販売されていないような車をずっと長年乗り続けることと似ています。車が壊れても直すための部品はすでにありません。そのため、特注で新しく作る必要が出てきますよね。これがシステムで起きてしまうわけです。カスタマイズのために短期的な観点で新たなシステムを開発し、結果として、長期的に見れば保守費や運用費が高騰してしまうことで大きな経済損失が生まれます。
さらには属人化してしまった既存システムの運用者は、基本的には長年会社に勤務している方が担当しています。そのため運用者が退職、高年齢化し、既存のシステムが使えなくなる日が来ます。しかしそれを引き延ばせば引き延ばすほど、時はすでに遅しという状態になります。いざ、新しいシステムを導入しようとしても、人材の確保や育成ができていないため最先端の知識を持った人材はいません。2015年時点ではIT分野における人材は15万人不足していましたが、2025年には約43万人にまで膨れ上がるとされています。
デジタルトランスフォーメーションは先延ばしにすればするほど、長期的に見れば企業としての損失が大きくなります。デジタルトランスフォーメーションの実現のためには、既存システムのブラックボックス化の解消が急務なのです。