CRMやSFA、名刺管理ツールを開発・販売するキヤノンエスキース株式会社で 営業部マネージャーを務められている安川 俊大さんへインタビューを行いました。 マーケティング思考を持ち、戦略立案からお客様への営業活動まで幅広く活動されている安川さん。 長年営業に携わってきた立場から「マーケティング」について語っていただきました。
*現状のマーケティング活動概要と課題
*楽をするために頭を使った若手営業マン時代
――現在営業部でマネージャーをされているということですが、これまでもずっと営業をされていたんですか?
安川さん(以下、敬称略)
はい。新卒では金融業界で営業を務め、その後独立系のSIerに営業として入社しました。
その会社で新規事業の立ち上げに携わる機会があって、戦略から実行まで全てのPDCAを回すという経験をしました。
その後はSFAの導入コンサルを数年経験して、今に至ります。
――一介の営業マンだった頃はどういう思考でお仕事されていたのでしょうか。
安川
体を使いたくないから、頭を使っていましたね。 営業って昔からKKD…勘・経験・度胸みたいな、とにかく体を動かせとかお客さんと仲良くなれとか、頑張ってナンボみたいな世界じゃないですか。そういうのが大嫌いだったんです。だから、他の営業がそういう風に頑張っている間、「どう楽をしようか」というのをずっと考えていましたね。たとえば、「自分が得意なお客様はこういう傾向だな」とか「こういう質問をして、こう返ってきたらいける」とか、自分の中で判断軸を作って、追い続けるお客さんとすぐに手を引くお客さんとの切り分けを行っていました。
そのころ会社から教えられたような営業手法には、過去はそれで成功していたのかもしれないけれど、 今の現場にはそぐわない部分も多かったんです。言われたことを踏襲しているだけの営業が周りにたくさんいましたが、 私は、実際にお客さんと会っていく中で気づきを得て、自分なりのやり方を確立していきました。
*営業データは宝の山!組織的なデータ共有の文化が重要
――御社では、戦略立案をどのようなプロセスで行っているのですか。
安川
とてもオーソドックスなのですが、まず第一に、現状分析を大事にしています。お客様や外部環境、競合といった要素を総合的に把握しておかないと、戦略も何もないですからね。その上で、自社のリソースの把握をし、どこをターゲットにしていけばというのを考えて、実行していきます。
やはり製品を「売る」ことが一番大事なので、マーケティングプロセスを考える上で軸になるのは「セールス」のデータです。ちゃんと受注が出来るお客さんを特定した上で、その特定されたターゲットに対する集客を増やすというマーケティングプランを立てられれば…、簡単に言うと、決まるお客さんだけ集客すれば、効率がいいわけですよね。
この「決まるお客さん」が集客できていないのであれば、マーケティング予算をいくら掛けたとしても、売上の向上にはつながらず、下手をすると赤字が増えてしまう。そうならないようにするために、営業データを軸とした分析をするように心がけています。
問題は、自分の持っているデータを共有するという文化が営業にはあまりないことですね。うちの会社は、それでも結構その文化が浸透している方だと思いますが。
データを共有して組織的に活用することによって、本来であれば循環して自分の営業活動が楽になっていくはずなんだけれども、その循環を経験していないから共有することの重要性がわからない。
それに、下の人間は、自分のデータを出して、上司に「お前、これダメじゃん」「なんでこんなことしてるんだよ」と揚げ足を取られるのが嫌だから、データを出さないんです。揚げ足を取るためではなく、前向きにデータを使うという組織風土を育てていかなくてはいけないですよね。もしかしたら、事業に繋がるような重要なデータが眠っているかもしれないんだから。
*戦略に一貫性を持たせるためにも、マーケは営業を知るべき
――御社にはマーケティングの専門部署がないんですが、それは今お話しいただいたように営業部門でしっかりデータ分析した上で戦略立案をされているから必要ないということなんでしょうか。
安川
うちの場合は、営業主体で方針を決めた方が、費用対効果もいいマーケティング戦略が作れるというのがわかっているからですね。ただ、マーケティングの実行部隊はないので、外部に協力していただいています。自社に実行部隊を持つか、外部にお願いするか…と考えたときに、現状を考えると今は外注した方がいい。それで満足のいく結果を出していただいているので、今のところは考えていないです。
でも、もしマーケティング専門部署を設立するとしたら、営業部隊とマーケティング部隊の上に共通のリーダーがいて、そのリーダーが「売る」プロセス全体を管理してくれるような体制が理想なんじゃないでしょうか。ターゲットをしっかりと決めて、自分たちの何をどうやって売っていくかをしっかりとメンバーに落とし込み、マーケティングから営業まで常に一貫性を持つことが大事だと思います。
後は、マーケティング側の人間も、営業経験というか、現場感覚を身に付けておかなければいけないですね。例えば、マーケティング部門で気合の入った専門的な内容のホワイトペーパーを作ったとするじゃないですか。それを見て「こりゃいいぞ」と商談になったとして、それで実際の営業トークがお粗末だったら、それこそお話にならない。だから、営業経験がない人がマーケティング担当なのであれば、現場に同行して、自社の営業マンがどういう風に話しているか、どの程度できるのかというのを知った方がいいんです。
逆に、営業マンは本来「誰に何をどうやって売るのか」というのを考えてセールスをするんだから、マーケティングで考えるようなことを知らなければいけない。どちらかしか知らないというのは、実践では使い物にならないと思います。
――それ以外に、マーケティングに必要なスキルや知識についてはどうお考えですか?
安川
マーケティングのスキルっていうと大体フレームワークとかそういうことが挙げられますが、そんなのは後回しでいいと思います。先にフレームワークを知ってしまうと、それを使うこと自体が目的になってしまいますからね。そんなことよりも、「これはなんでお客様から支持されているんだろう」とか、そういうことに興味を持って物事を見られるようになることが大事だと思います。
そのために色々な人の話を聞いてみたり、聞くだけじゃ分からないから実際に自分も同じことをやってみたり、「自分はこう感じたけど、他の人はどう感じているんだろう」という風に好奇心を持って考える習慣をつける。単に頭の中で考えているばかりでは、マーケティング力なんて上がらないですよね。実行して、予想外の事態が起こって、原因を特定して、改善して…その繰り返しだと思います。営業もそうですけど。
――最後に…営業のお立場から、マーケティングというものをどう捉えていらっしゃいますか。
安川
難しいですね。人によって全然定義が違うので。 営業の立場から言うと、事業全体の「売る」というプロセスを全てマーケティングとして捉えてもいいんじゃない?と個人的には思います。商品開発からサポート、売るところまで全部マーケティング。最近のマーケティング部門はリードジェネレーションやリードナーチャリング、リードクオリフィケーションを担っているイメージですが、その前後プロセスも含めた全体最適で考えていかないと、売れるプロセスは作れないですよね。営業って英語ではセールス、つまり販売のことを示しているけど、漢字では「事業を営む」と書くじゃないですか。マーケティングって日本語訳がないって聞いたことありますが、実はマーケティングを日本語訳するなら「営業」かもな、と思います。
――なるほど。安川さん、本日はありがとうございました!