この記事では、企業の販売戦略を担う一般的なマーケティングではなく企業のブランディングや社会貢献として意味合いが強いソーシャルマーケティングについて詳しく解説しています。
通常のマーケティングって?
ソーシャルマーケティングと、通常のマーケティングの違いが理解しやすいように、まずは通常の販売戦略で行われるマーケティングについて簡単に確認しておきましょう。会社の中にマーケティング部門があったとしても「どういう仕事をしているのかよく分からない」と思っている方も多いのではないでしょうか。なんとなく、市場調査を行う仕事だと捉えているかもしれませんが、市場調査はマーケティング活動の一部に過ぎません。
マーケティングとは簡潔に述べるなら「販売戦略」を企画・実行して「売れる仕組みを作ること」。製品を売るにしろ、サービスを売るにしろ、企業が利益を上げていくためには「売れるものを作る」ことが最重要です。単純に良いものや、他より安いというだけでは、ヒットにはつながりません。ヒットにつなげるためにはニーズの把握が重要なのです。
マーケティングとは、「何を誰にどうやって売るか」の全てを包括する行動です。そのためニーズを掴むための市場調査や、商品の認知度を高めるための広報やPR活動もマーケティングの一部と言えます。
ソーシャルマーケティングとは
ソーシャルマーケティングは、マーケティング界の第一人者と呼ばれるフィリップ・コトラー氏が提唱したものです。コトラーはシカゴ大学で修士号を、MIT(マサチューセッツ工科大学)で博士号を取得。現在はノースウェスタン大学大学院(ケロッグスクール)の名誉教授です。
コトラーが提唱したソーシャルマーケティングは非営利組織のマーケティングとも呼ばれています。非営利組織とはNPOだけでなく病院などの医療機関、美術館や博物館といった文化施設、大学などの教育機関、オペラやバレエ、オーケストラなどのことを指します。コトラーが提唱する以前は、これらの団体にはマーケティングは不向きだと考えられていました。そのため各団体や機関はスポンサーや資金集めに非常に苦労することが少なくなかったのですが、現在ではこれらの非営利組織においてもマーケティングが確立され、多くの大学などが自身のマーケティング組織を持っています。
現代におけるソーシャルマーケティングは、非営利組織や団体だけでなく企業も行うもので、企業活動をより広く認知してもらうために行われています。売上や利益のためではなく、社会貢献や社会的な利益を重視した活動だということは頭に入れておいてください。もちろんソーシャルマーケティングの結果、周り周って利益につながるということはありますが、第一に社会貢献がある活動になります。
ソーシャルマーケティングとCRM
ソーシャルマーケティングが成功しても、企業の存在価値に必ずつながるわけではありません。そのため企業の営利活動と関連づけながら社会貢献を両立できるCRM(cause-related marketing)に注目が集まっています。CRMは自社が取り組む社会問題に関連のあるNGO法人と組んで「売上の〇〇%をNGO法人に寄付します」といったキャンペーンやプロジェクトを立ち上げる手法です。結果的に社会貢献だけでなく自社のプロモーションにつなげられるというメリットがあります。
ソーシャルマーケティングのメリット
ソーシャルマーケティングは、直接的には売上に貢献しないマーケティングです。もちろん社会的には大きな意義がある活動だと言えますが、企業としてはどのような効果があるのか見ていきましょう。
人材の確保
日本ではすでに人口減少が始まっています。そのため優秀な人材の確保は、どの企業においても重要な課題になります。ソーシャルマーケティングを積極的に行い、社会貢献度が高いことを一般にアピールできれば、企業の人気が向上し人材の確保がしやすくなるでしょう。
社員のモチベーションアップ
社会的な意義がある活動を企業に所属しているということが、従業員のモチベーション向上につながると予想できます。社会のために役に立っているという意識はパフォーマンスにも関わってくるでしょう。
他社との差別化
自社にしかつくり出せない商品やサービスというのは、意外なほど少ないものです。しかし、モノが良ければ売れる、たくさん広告を打てば売れるという時代ではないため、他社との差別化を図ることはどの企業にとっても重要なものになっています。
ソーシャルマーケティングには、取り組むことで、他社との差別化をアピールできるというメリットがあります。消費者からすれば値段や質がほとんど変わらないなら、企業イメージの良いものや社会の役に立つものを購入したいものです。他社との差別化を図るために、あえてソーシャルマーケティングを行う意義はあると言えるでしょう。
ソーシャルマーケティングは、一見、売名行為のように見えるかもしれません。しかしその行動自体は、社会的に貢献するものです。重要なのは、なぜソーシャルマーケティングを行うのか。社会のために行う活動を、なぜその企業が行う必然性があるのか。それが不十分であれば、ちぐはぐなソーシャルマーケティングになり、社会や従業員からのひんしゅくを買う事態にもつながりかねません。ソーシャルマーケティングを行う際には、その理由や意義も十分に考慮した上で取り組むべきだと言えるでしょう。