• 2020/09/23
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交通機関のデジタルトランスフォーメーション(DX) MaaSについて詳しく解説します

  • マーキャリ 編集部
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目次

近年話題となっているデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)。デジタルトランスフォーメーションはひとことで言えば「デジタルを使って生活や働き方に変革を起こすこと」です。デジタルトランスフォーメーションは広い分野での概念ですが、交通や移動に限定した移動手段版デジタルトランスフォーメーションがMaaSだと言えます。


この記事ではMaaSについてさまざまな事例とともに詳しく解説しています。基礎的なところから解説していますので、知識がなくても問題ありません。ぜひ参考にしてください。  

MaaSとは

MaaSとは「Mobility as a service」の略称で、読み方はマースです。直訳すると「サービスとしての移動」となります。新しい概念のため世界共通の定義はありませんが、総務省の公式HPでは以下のように紹介されています。


「電車やバス、飛行機など複数の交通手段を乗り継いで移動する際、それらを跨いだ移動ルートは検索可能となりましたが、予約や運賃の支払いは、各事業者に対して個別に行う必要があります。このような仕組みを、手元のスマートフォン等から検索~予約~支払を一度に行えるように改めて、ユーザーの利便性を大幅に高めたり、また移動の効率化により都市部での交通渋滞や環境問題、地方での交通弱者対策などの問題の解決に役立たりしようとする考え方の上に立っているサービスがMaaSです。」


たとえば東京の自宅から京都の清水寺まで旅行で行くとしたら、自宅から最寄り駅までのバス、駅から新幹線が走る東京駅まで地下鉄とJR、東京駅から京都駅まで新幹線、京都駅からバスというようにさまざまな乗り継ぎが必要です。自宅から清水寺までの経路検索は可能ですが、各交通機関は、運営する会社が異なるため予約や運賃の支払いは別々に行わなければなりません。


経路検索から支払いに至るまでの移動に必要な行動を一括して行えるようにするサービスがMaaSです。また、MaaSは既存の公共交通機関だけでなく、カーシェアやシェアサイクルなども含んだ1つのサービスと考えるのが一般的です。

MaaSが注目される背景

MaaSはただ単純に「便利な世の中・時代になる」といった理由だけで注目されているわけではありません。すでに外国では実用化されているところもありますが、日本においてMaaSが注目される背景として以下のようなものがあります。 


▪都市と地方での交通課題のちがい

超高齢社会にある日本では、すでに人口減少が始まっています。しかし、東京をはじめとした都市部では人口が増加しています。これは就職や進学などで人口が都市部へ集まっているということ。都市部では通勤ラッシュや交通渋滞が問題となる一方で、地方では過疎化によりサービスの維持すら難しいという状況にあります。


▪MaaSは交通サービスを供給する側とサービスの受け手側のどちらにとっても変革を起こし、生活の仕方やまちづくりのあり方を変えうる可能性があること。  

MaaSが実現することによるメリット

MaaSが実現すれば、移動がこれまで以上に柔軟性を持った自由なものになります。


▪交通費精算がスムーズに

事故や天候などが理由で普段利用する経路で通勤ができなければ、すぐに別のルートを探しだして移動できるだけでなく、あらゆる交通手段が1つのサービスとなった乗り放題サービスになればいつもと異なる路線や交通手段を利用しても、新たな交通費の清算は必要なくなります。


▪高齢者の外出が便利に

日本では自動運転の車両はまだ未実装ですが、将来的には駅から離れたところに住んでいても自宅の前に乗り合いの自動運転車が来て駅まで運んでくれる、駅から目的地まで少し距離があるならタクシーで向かうというように、高齢者などの外出も便利になります。高齢者が外出しやすい環境になれば、健康増進だけでなく経済的な効果も期待できます。 また、涼しくて過ごしやすい時期にはシェアサイクルで出かけてみるといったこともスムーズに行えるようになるでしょう。


▪データのオープン化による路線運営の効率化

MaaSの恩恵は、移動がこれまで以上に便利になることにとどまりません。MaaSの実現のためには、スマートフォンやデジタルインフラの整備といった技術的なものだけでなく、鉄道やバスの運行情報、タクシーの位置情報、道路の交通情報などの移動・交通に関する大規模なビッグデータをオープン化し、全体で整備・連携することが必要となります。


つまり、各交通機関の膨大なデータが1つに集約・オープン化されますので輸送サービスを提供する事業社間の競争は活発になりますし、データをマーケティングに活用すれば個人の傾向や好みに合わせたサービス提供が可能になると考えられます。たとえばバスの停留所の効率的な配置や、運行ダイヤの見直しもより需要に沿ったものにできるでしょう。


▪都市計画にも変化がおこる可能性が

たとえば鉄道の不採算路線を廃線にした際に、線路跡の敷地を自動運転車用の走行道路にして、公共交通の代替とするといった計画も可能性としては十分にあるでしょう。都市では交通渋滞や排出ガスの環境問題が、地方では交通手段の維持の可否が問題となっています。従来の公共交通機関に加わる形で、電気で動く小型自動車(コンパクト・モビリティ)が連携できれば都市と地方のどちらの問題の解決にも貢献できます。


▪SDGs(持続可能な開発目標)ともリンクする

SDGsとは、「Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標」のこと。SDGsは2015年 9月にニューヨーク国連本部において、193の加盟国の全会一致で採択された国際目標です。


内容としては「貧困をなくそう」「饑餓をゼロに」といったものに加え「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「住み続けられるまちづくりを」「気候変動に具体的な対策を」など計17の目標があります。17の目標(Goals)は2030 年までに達成することになっていて、17 のゴールにはそれぞれの下に、より具体的な169項目のターゲット(達成基準)があります。


MaaSは、SDGsのうちの1つ「持続可能な都市」という目標と合致しています。これは女性や子ども、障がい者、高齢者などを含んだすべての人々にとって安全で簡単に利用できる輸送システムや緑地、公共スペースのアクセスの提供を目指すものです。SDGsは国連で採択されたものですが、すでにビジネスの世界での「共通言語」になりつつあります。そして、これらのゴールを達成するために、個別の企業においても取り組みが広がってきています。SDGsの普及とともに、市場のニーズ、そして取引先からのニーズとして、SDGs への対応が求められるようになってきています。

MaaSの具体例

MaaSはすでに諸外国では実例として存在しています。MaaSとして最も有名な例は、フィンランドの首都ヘルシンキで実装されている「Whim(ウィム)」というスマートフォンアプリです。Whimは実証実験を終え、2016年から正式にサービスが開始されています。Whimはサブスクリプション型のサービスで、月額料金を支払うことで一定のサービスが使い放題という形式になっています。


Whimには毎月59.7ユーロ(約7,400円)、毎月249ユーロ(30,900円)毎月499ユーロ(約61,900円)、あるいは1回ごとの決済の3つの料金プランを選択し、それによって得られるポイントで、Whimが提示するいくつかの交通経路から最適なものを選択し、予約、乗車、決済まで一括して利用することができます。


基本となる59.7ユーロのコースでは電車、バス、路面電車、フェリーなど、ヘルシンキ市交通局の全交通機関が乗り放題で、タクシーは10ユーロ分までが利用できます。249ユーロのコースは、これに加えて週末のみレンタカーが乗り放題というもの。最上位の499ユーロのコースでは、タクシーも含めたヘルシンキのすべての交通手段が無制限に利用できます。なお、1回ごとの決済をするコースは定額制ではありませんが、それでも通常料金よりは割安になります。


Whimを使って利用できる交通手段には電車やバスだけではなく、民間タクシーやバイクシェア、個人の徒歩や自転車まで含まれています。予約や決済もアプリ内で完結するので、利用の際はアプリ画面を提示するだけです。


ヘルシンキではWhimがサービス開始をする前の交通利用状況は調査によると公共交通機関が48%、自家用車が40%、自転車が9%だったところ、サービス開始後は公共交通が74%と大きく伸ばしています。さらにはあまり利用がなかったタクシーが5%に増加し、自家用車の利用は20%に減少したようです。


フィンランドでは国を挙げてMaaSの支援・制作に取り組み、MaaSの実現に不可欠なデータのオープン化とデータのプラットフォームの開発・整備が行われています。従来はバス・タクシー・鉄道でバラバラだった輸送サービスに関する法律も一元化するなどといった規制緩和もすすんでいます。

MaaS実現への5ステップと日本の現状

MaaSの実現度合いは、0から4までの5段階のレベル分けで判定するのが一般的です。それぞれのレベルの内容を確認していきます。 

レベル0:統合なし

それぞれの移動主体が独立したままサービスを提供している段階です。現在のように異なる鉄道会社やバスなどもまじえた乗り換え案内がない状況です。 

レベル1:情報の統合

利用者が異なる交通手段の情報を一括で検索できる段階です。NAVITIMEやジョルダンなどの乗り換え案内がよく知られています。1つのサイトやアプリといったプラットフォームの中で所要時間や距離、運賃、経路を調べることができます。出発地と目的地を設定することで、その目的地に向かうためのさまざまな移動手段を取り込んだ経路案内や運賃などが分かる状態がレベル1です。日本ではすでにレベル1は達成しています。  

レベル2:予約・支払いの統合

経路や運賃といった交通案内だけでなく、1つのプラットフォーム上で発見・予約・支払いまでを完結できる段階がレベル2です。


日本では、都市部を中心に Suica や PASMO といった交通系 IC カードが活用されていて、複数の移動手段に対する運賃の支払いを一つのカードで対応できています。日本ではアプリケーション上での支払いはできていませんが、運営会社をまたいで一つのカードで様々な移動手段の支払いが可能という点で、レベル2の一部が実現されているという見方もあります。 

レベル3:サービス提供の統合

レベル3は、鉄道やバス、タクシーといった事業者が異なる移動サービスをひとつの運営主体が提供するサービスのように利用できる段階を指します。


たとえば鉄道やバスだけの単一の交通手段内だけでなく鉄道・バス・タクシー・レンタカーなどの複数の交通手段が毎月定額で乗り放題といったサブスクリプション型のサービスが実現できているのがレベル3です。東京では東京メトロと都営地下鉄・都営バス・都区内のJRがすべて乗り放題の1日乗車券「東京フリーきっぷ」というものがあります。アプリ内でチケットの購入をするわけではありませんが、レベル3に近い状態と言えます。  

レベル4:政策の統合

交通手段を提供する事業者だけでなく、国や自治体が政策や都市計画にMaaSの概念を組み込み、渋滞の解消や高齢者の移動を容易にするといった社会問題に取り組みながら交通サービスを整えていく段階がレベル4です。



日本は現在レベル1からレベル2に移行している段階と言えます。

日本でMaaSを実現するためには

日本においてはレベル2に移行するために必要な予約や決済の統合については、さまざまな企業が独自にプラットフォームの提供や企画の立案実行、実験を行っています。日本でMaaSを実現する上で重要となるのは、都市部とそれ以外の地域では移動手段に対するニーズが異なる点です。



都市部では交通系ICカードにチャージしたりモバイルSuicaなどのアプリを使ったりすることで切符を買い直す必要なく移動ができますので、一種の独自のサービスが完成しているとも言えます。しかし地方では赤字路線が多く公共交通の維持自体が困難になっている状況にあります。


そのような特殊な状況にある日本においてMaaSのレベル2である「予約や決算の統合」が出来ている段階へと移行したとしても、おそらく都市部では「より便利になった」という気はしないでしょうし、地方ではそもそも利用できる交通機関がないから意味がないといった状況になりかねません。たとえば、ある程度の都市部では交通機関だけでなく観光地の飲食店やホテルへの予約決済も1つのアプリ内で完結できるようになる、地方では乗り合いタクシーのような新規の移動手段を導入してそれを予約できる MaaSが適しているでしょう。

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