今回は、ビッグデータ活用サービスやデジタルマーケティングサービスを手がける株式会社ブレインパッドの上村さんへインタビューを行いました。管理部で「Salesforce」の導入と運用を経験した後、現在の部署に異動した上村さん。「前職では営業を経験していたものの、マーケティングは素人」であった上村さんは、どのようにして営業プロセスの“見える化”を進めていったのでしょうか。
*現状のマーケティング活動概要と課題
■現在のマーケティング課題
――データベースのフル活用
――営業プロセスの構造化
――動機付けコンテンツの強化
*管理部で「Salesforce」の導入と運用を担当
――上村さんの業務内容について教えてください。
上村さん(以下、敬称略)
元々は管理部にいたのですが、今は営業推進部の中で主にリードナーチャリングとリードクオリフィケーションの活動を担当しています。具体的には、セミナー企画やイベント出展、メールマーケティングにインサイドセールス、といった範囲ですね。
――営業からマーケティングへのキャリアチェンジは多く聞きますが、管理部からというのは珍しいですね!詳しく今までのキャリアを教えてもらえますか?
上村
キャリアのスタートは人材系の会社での法人営業です。新規開拓中心でしたので、アウトバウンドコールからのテレアポや提案書作り、エリアリーダーとしてチームの目標達成に向けた計数管理などを経験しました。その後、社内異動にて新卒採用や人事総務などのバックオフィス業務も経験しました。当社に転職してからも管理部のマネジャーとして、約5年間バックオフィス業務を担当していました。まだ上場前で社員数も70人ほどでしたので、総務法務やIR、情シスなど一人何役もの役割を担当できました。
その中でも特に、「Salesforce」を活用した業務フローの整備では多くのことを学べました。「Salesforce」はいわばレゴブロックのようなもの。ExcelやAccessのようなイメージで使うことができ、販売システムや勤怠システム、備品管理システムなどを簡単に構築してカスタマイズすることができます。複雑な業務も業務フローを設計してシステム上に記録しながら進めることで、集計データから進捗状況がすぐわかるようになり、仕事が劇的に効率化されることを実感しました。
その後、もっと事業成長に密接にからむような仕事がしたいと上司同僚と話していた矢先に、当時の営業推進部長から「俺の部署に異動してこいよ」と話をいただきました。MAやインサイドセールスなど、前職では経験できなかった新しい営業やマーケティングの手法があることを知り、挑戦心が湧きました。そして実際に異動したのが2017年1月。異動当初は管理部の仕事も兼務で一部担当していましたが、今では完全に離れマーケティングに専念しています。今思うと上場会社の総務法務のマネジャーとマーケティングのマネジャーを兼務してた人なんて日本に1人じゃないかと思っています(笑)
*営業プロセスを“見える化”。導入事例など、マーケティングの武器を増やす
――異動当時の営業推進部は、どんな活動をしていたんですか?
上村
当時のナーチャリング活動としてはたまに実施するセミナーイベントと、不定期配信のメルマガくらいです。共催の打診があったりニュースがあったらやるという状態でした。プロセスも曖昧で、どのような経路でリードを得て何をすることで商談化させるのか、という設計がなく、なんとなくやって「商談が増えたらいいよね」といった調子でした。また、SFAのようなデータベースが使いこなせてなかったので、いったいどこで何が起きているのか定量的にわからない状態でした。
そこでまずは指標、つまりKPIを設けるとともにナーチャリングプロセスを“見える化”していきました。具体的には「Salesforce」に活動履歴を残し、リードの状態推移を毎週見られるようにしてインサイドセールスのメンバーと一緒に、どのような軸でリードを仕分けして架電するのか決めていきました。それによりリードの状態が把握できたため、ボトルネックがどこで何を強化したらよいのかがわかるようになりましたね。しばらくするとナーチャリング活動経由の商談が増えてきて、成果にもつながるようになりました。
――じゃあ元々、マーケティングの知識はお持ちだったのですね。
上村
いえ、実は営業推進部に異動した当初、「リードナーチャリング? いったい何のことですか?」という状態でした(笑)。しかし、ググって調べて本を読んで、無料セミナーに参加したりすることで基礎的なことはすぐキャッチアップしました。それに前職の営業時では、限られたリストをいかに育成し、受注につなげるのかを意識した活動を行っていましたので、それほど違和感はありませんでした。
――すごい!他にも、上村さんがマーケティングを通して上げた成果を教えてもらえますか
上村
リードタイムが半年程度かかるため、マーケティング経由の売り上げまではわからないですが、リードの獲得数が3.5倍になりました。現状、数字で見えるのはこれくらいですが、自分たちからリードを見つけて攻められるようになり、収益の種を蒔けたことは大きいです。あとは導入事例を外部ライターと協力して月1回のペースで制作するなど、マーケティングの武器を増やしたことも成果のひとつです。
――なるほど。マーケターとして自信につながったエピソードがあれば伺いたいです。
上村
自分のセミナーに来たお客さまから受注したことですね。来てくださったお客さまに自ら架電し、受注するところまで持っていきました。自分で講演したセミナーで興味を持っていただき、受注に至ったことで自分の届けたメッセージに共感いただけたのだと自信がつきましたね。
――今後に向けた課題はありますか?
上村
直近の課題は動機付けコンテンツの強化です。「Rtoaster(アールトースター)」を使うとどんないいことがあるかが直感的にイメージでき、なぜ他の類似ツールではなくRtoasterなのかを明快に納得できるコンテンツ。これをプロダクトマーケティングの部署と連携して強化したいです。
そして長期的には営業以上に製品の活用に詳しくなり、お客さまの業務について具体的に相談に乗れるチームをつくりたいですね。当社の「Rtoaster(アールトースター)」はサブスクリプションのビジネスであり、お客さまに使い続けていただくことで収益があがります。お客さまが導入したあとに使いこなしてもらうところまでを見据え、情報提供ができるマーケティングチームになるよう努力していきます。
*マーケターとしての野望、ゴール
――マーケティング未経験ながら、営業プロセスの“見える化”を通して、リードの状態を把握している上村さん。今後のマーケターとしての夢や野望を聞かせてください。
上村
突拍子もない話ですが、ITツールを買いやすい世の中にしたいです。マーケティングでは「販売するために何をするか」など売る側の理論で設計しがちですが、マーケターが注力すべき視点は「販売支援」ではなく「購買支援」だと考えています。私は管理部にいたときは営業を受ける立場で、要するに「購買」する立場だったわけです。多くの営業が私のもとに来てさまざまな製品を説明してくれましたが、購買側のミッションを理解していない提案も多かったです。Webサイトや製品資料なども同様です。購買側に適切に選んでもらうためのコミュニケーションがほとんどできていないのです。
特にITツールについては購買側に不親切な情報提供が常態化しているように感じています。製品説明に「〇〇ができる」と書かれていても、詳しく問い合わせると「〇〇の一部はできるけど、〇〇はできません」とか、「できますけど、有償での個別開発です」ということが多くありました。
こういった情報の非対称性がある商材は他にもありますが、個人向けの業界だと法律で一定の情報開示が義務付けられてたりします。家電とか食品とか、品質表示のテンプレートがあるのです。これによって消費者が「製品の品質を正しく認識して、購入した後に不測の損失が起きにくい」仕組みができています。
ですがITツールにはこういった制度はありません。そもそも法人の購買者を保護するような法律はほとんどありません。でもだからこそ、購買側が自主的に合理的な意思決定ができる情報提供のあり方を模索しつつ、自社の売上も最大化できるようなマーケティングを追及したいと思っています。
*上村さんは、マーケターに求められるスキルやスタンスを、どのようにお考えですか?
――上村さんは、マーケターに求められるスキルやスタンスを、どのようにお考えですか?
上村
「相手視点」と「構造化スキル」ですね。まず必要不可欠なのは購買側の気持ちを理解することです。購買側が欲している情報を想像するチカラに長けている人は、マーケターに向いているのではないでしょうか。私は営業とバックオフィス、すなわち販売と購買の両面を経験してきました。購買側はさまざまな不安を抱えているのが実態。そういった心理を予測できることで、顧客に響くクリエイティブやキャンペーンを発想できるのだと思います。
それから、マーケティングを点ではなく構造で捉える能力も大切です。マーケターはいわば軍師のような立場にあり、事業活動を俯瞰的に見て、全体がどうなっているのか把握していなければなりません。また、今はMAやSFAなどの普及により多くのデータが取れるようになっているので、データを適切にハンドリングする力も求められるでしょう。
――最後に、マーケターを志す方へ、メッセージをお願いします。
上村
繰り返しになるのですが、私にとってマーケターの仕事は「購買側」の支援です。購買側がスムーズに知りたい情報を得てサービスを購入し、それを使ってハッピーになっていただくための導線作りです。購買側が主役で、それを支援をする黒子役のように思います。
でも一方で、マーケターの仕事はクリエイティブです。正解のない仕事です。自分の頭で考え抜いた先にリスクを取って、自分の仮説を施策に変えて世に問う自己表現活動です。そんな相反する要素を同居させた「開拓者マインドを持った黒子」が活躍する仕事ではないかと思っています。
――管理部出身という、マーケターには珍しいキャリアこそが「購買側の支援を大切にする」という上村さんの強みにつながっているのだと感じました。本日はありがとうございました!