Windows 95が登場するインターネット黎明期から、いち早くWEBサイト制作にマーケティング手法を取り入れ、現在ではWEBコンサルティングも手掛ける株式会社東京ドアーズ。今回は同社代表取締役の村山哲治さんより、インターネットで手軽に情報を得ることができるこの時代、マーケターには何が必要なのか。自社のサービススタイルと併せて、お話を伺うことができました。
*現状のマーケティング活動概要と課題
■現在のマーケティング課題
――リード獲得からの対応力
――技術・ツールに頼りすぎるマーケティング
*インターネット黎明期のマーケティング
――村山社長の経歴と東京ドアーズ設立について教えてください。
村山さん(以下、敬称略)
私はもともと社員教育の会社で営業として、営業教育やマーケティングに携わりました。その後、社員教育の講師として独立しました。その際に知人から「これから来るインターネットの時代に向け、新たなビジネスを立ち上げてみてはどうか。」とアドバイスをもらい、WEB制作を行う会社を設立しました。当時はまだWEB制作を手掛ける会社も少なく、営業すると比較的容易に制作の依頼をいただくことができたため、そうした時代から数多くの経験を積むことができました。こうした経験から得た知識やノウハウをもとにWEB制作にとどまらず、WEBコンサルティングやWEBマーケティングへと事業領域を広げ、今にいたります。
――WEB制作にとどまらず、WEBマーケティングへと事業を広げるには何かきっかけがあったのですか。
村山
WEB事業を開始して間もなくのこと、あるお客様とのやり取りがきっかけでした。新聞の折り込み広告で見つけた大阪の煎餅屋さんなのですが、東京の新聞にまで広告を出しているのだからさぞかし広告費を使っているだろうと、さっそく電話営業をしてみました。「WEBサイトは30万円ぐらいで制作できるので、安いコストで全国に向けて広告宣伝を行えますよ」と提案したのですが、「新聞広告では費用対効果として〇%の注文が見込めるので掲載していますが、そのホームページというもので注文がどのくらい見込めるのですか?」と聞かれ、ドキッとしました。WEBサイトそのものを広告媒体として捉えたときの費用対効果をしっかりと意識しておられたのです。この瞬間、これからのネット時代に向けとりあえずWEBサイト立ち上げることがまだ主流だった時でしたが、WEB制作にもマーケティングの思想がないと、よりよいサービスは提供できないな、と早い段階で気付かされましたね。それがきっかけでマーケティングを活用し、宣伝効果を最大限にするためのWEB制作をあらゆる方向で考えるようになりました。
――WEBサイトの見栄えだけでなく、マーケティングを活用したWEB制作を進めることで、苦労することはありましたか。
村山
こ当時のWEB制作では成果を測る指標がなく、見栄えやデザインを重視する時代だったため、はじめはお客様のサイト担当者と意見があわなかったですね。デザインカンプを見せるとどうしてもデザインの話だけになってしまい、WEBマーケティングの視点や対応というものを理解してもらうのに時間がかかりました。
――WEBマーケティングを理解してもらうために、どのような対応をされたのですか。
村山
今では当たり前なのですが、徹底した顧客視点つまり“ペルソナ”の理解・設定から啓蒙しました。お客様とのやり取りの中で、コンテンツ内容について私たちが意見を出すと、「業界やうちの会社なりの考え方があるから」といってはねのけられてしまうことが多々ありました。そこで、具体的に設定した”ペルソナ”を登場させることで、お客様と共通の考え方を持てるように取り組みました。例えば、〇〇在住の○歳男性、医療機器メーカーに勤める“長久保さん”といった感じですね(笑)打合せでは常に“長久保さん”を登場させ、“長久保さん”を意識したデザインやコンテンツの検討をおこない、表示する細かい言葉選びに関しても「この言葉は“○歳の長久保さん”に理解できるかな?」といった感じで。そうやって顧客視点の発想を理解していただき、 “ペルソナ”を常に意識することで、WEB担当者のマインドも変わっていきました。
*基本に忠実に、そして継続が大切
――現在、御社ではどのようなマーケティング活動をおこなっていらっしゃいますか。
村山
お恥ずかしながら当社としては積極的にマーケティング活動をしていないのが現状です。以前は多くの社員で事業を運営していたのですが、社員が増えるごとに多くの制作案件を受注していかなければならないようになり、お客様とのつながりや関わりが徐々に希薄になってしまいました。WEB制作は作って終わりではなく、そこからがスタートであり、きっちりとフォローし、コンサルティングをしないと成果を生み出すことはできないと、私たちは考えます。そこで多くのスタッフを抱えて新規サイトをどんどん制作する体制からサイトの制作から運用までをワンストップのサービスを提供できる体制に大きく舵を切りました。きっちりマーケティング活動をおこなえば、より多くのリード獲得や受注を得ることはわかっているのですが、提供するサービスの品質の維持・向上のために、今は少数精鋭でひっそりと活動を展開しています(笑)。もちろん新規のご依頼も受けていますが、運用によって効果をあげたいという案件に絞って、事業をしていきたいというのが本音ですね。
――あえて積極的な活動をしないということですが、その中でも成果を生み出すために取り組んでいることはありますか。
村山
WEBマーケティングのコンサルティングをお客様と実践していくという場面になりますが、WEBサイトの運営でいえばまずは基本的なことをしっかりやることを念押ししています。例えばサイトの更新。WEBサイトが完成した時点で、力尽きて放置状態になるというケースが多いんです。売り上げや効果につなげたいならばきっちりと更新しするなど、本来の目的に向かって進むパッションを持続することが必要だと思います。20年来のお客様であるコーヒー販売を行うサイトの話ですが、メルマガがマーケティングツールになると早くから注目し、毎週水曜日にきっちりと10年以上発行していらっしゃいます。サイクルをきっちり確実に実行することで、着実にファンを増やし今では月商数百万円の成果を出すまでに成功しています。私たちもメルマガのプロトタイプの作成や、プロモーションなどさまざまなコンサルティングをしてきましたが、新しい技術やサービスを導入するだけでは、成果を生み出すことはできないということです。
*マーケターとしての野望、ゴール
――村山さんがマーケターとして大事にしていることは何でしょうか。
村山
現在の事業スタイルもそうなっていますが、自社のリード獲得よりもそうしたノウハウをお客様のデジタルマーケティングの実践にどう役立てていただくか。そこをとても強く意識しています。そのために、最新の動向やツールは検証しています。たとえば、ブログではどういう記事を書くことが検索順位を上げていくことにつながるか。早い段階から検証することで、お客様へ提供できるサービスにしていくことができるのです。この検証がおわれば、更新も大変なのでブログは閉じてしまいますが(笑)。より早く、より多くのものを吸収し、ワンストップでデジタルマーケティングのノウハウを提供しておきゃ客様のビジネスをよりよいものにし続けていきたいですね。
*これからマーケターを目指す方へ
――ちなみに、村山さんはたくさんの趣味をお持ちだと伺いましたが。
村山
そうですね。料理、街、バイク、蕎麦打ち、アイドル...いろんなものに興味があります。私は、マーケターとして、コンサルタントとして、いろんな見方や考え方を磨くためには日常のアナログ体験が必要であると考えています。私流にいうと、いい意味でミーハーになることですかね(笑)。たくさん興味を持つということはその分野のことを知るだけでなく、たくさんの人に出会うことにつながります。例えば、私はホンダのCB400Fという旧車のバイクに乗っています。バイク好きが集まるとそこにはコミュニティができ、そこに参加することでいろんな考え方を持つ人たちに出会えます。彼らと交流することでバイクを軸としたいろんな情報や価値観に触れることができるのです。ぜひ、いろんなことに興味を持ち、アナログな体験を増やすことをお勧めします。
――なるほど、ありがとうございます。ほかには何か必要なスキルなどありますでしょうか。
村山
スキルとは違うかもしれませんが、”人脈力”が必要だと思います。たとえば大手企業などは横のつながりも少なく、社内での人脈も限定的になりやすいと言われています。現在はデジタルマーケティングが注目されていますが、難しいのはMAの使い方よりも、社内の他部署とどう連携をとるかが重要であると思います。そのため、デジタルマーケティングをうまく進めるには、周りとの連携をうまくとれる”人脈力”が必要だと思います。また、ペルソナの気持ちに沿うための感性というスキルも必要です。机の前に座ったままネットで情報収集ばかりしているようではだめですね。物事に深く興味をもち、自らの力で情報を得ること。本を読み足を運び、肌で学ぶ、私たちふくめずっと楽しんで勉強していかなければよいマーケターにはなれないと思いますね。人の心を動かすということはBtoBもBtoCも一緒です。教科書的にやっていても成果はあがりません。理屈では計れないことも多く、磨かれた感性で対応できることもあると思っています。
――これからマーケターを目指す方へアドバイスお願いします。
村山
仕事とは違うところでPDCAをまわす習慣をつけてほしいですね。実生活の中で継続的に実践し、感性を磨いてほしいのです。たとえば私の場合は、植物を育てたりもします。いろんな状況によって予想通りにいったり、うまく育たなかったり、その時どう対応していくのかを日常で経験し、反省しながら学んでいます。また、娘のお弁当づくりも私にとっては日常でのPDCAですね。たまにはこんなメニューもいいだろうと、こちらが趣向を凝らしてみても『今日のはテンション下がったわぁ』という容赦ない反応であったり(笑)。サイトのKPIの検証と同じく想定通りにはいかないもので、そこにはやはり感性や感覚が必要なのだと思います。
――村山さん、本日はありがとうございました。