はりこらむ　第19回「人の本質を理解し遊べる社長になる　～トイレ事件ショック！～」

　会社を始めて何年か経った頃、当時の広尾の本社オフィスで大きい方のトイレに入っていたら、若い男性社員たちの声が聞こえてきて「うちの社長つまんないよな、いつも安い居酒屋行って、仕事の話しかしないし！」と！　なんだか出づらくなって、みんながいなくなるまで呼吸を潜めて狭い小部屋でじっとしていたのを覚えています。

　たしか社員数が10人ほどの頃だと思いますが、確かにバブル崩壊後の暗い時代でもあり、業績もそんなに伸びていなく、とは言え事業を伸ばそうと会社を良くしようと、30代の若さもあって、営業に納品にみんなとのコミュニケーションに全力をつくしている頃でした。プライベート的には、結婚して子供が３人できて可愛い頃でしたから、土日は家族で公園いったりして結構良いパパしていた時期だと思います。

　なんだ俺がこんなに頑張っているのに（後で解りますが、私の場合は社長が一番頑張っていると自分で思ってる時ってだめですね！）、なんでそんな事言われなきゃならないんだと、ちょっとむっとした思いになりましたが、確かに当時の私は遊びが少なく、社員ともよく飲みに行ってましたが、話題は100％仕事の話で、お説教も結構してました。

　その頃リクルート時代の仲間の社長で、私より3年くらい早く広告制作会社を創って六本木で有名になっているHMさんという社長がいました。昔の仲間ということもあり、たまに飲んだりはしてましたが、彼と付き合うと不良になるのではと言う恐れもあって、最初はあまり深追いする付き合いはしていませんでした。でも、そういった遊びの部分も必要なのかな。。と「トイレショック」で思い始め、なんか弟子入りするつもりで彼を飲みに誘い、その後よく飲むようになりました。

　六本木の居酒屋で始まって、接待の要するお店に行って、最後はいつもの行きつけのバーにいって、下手すると朝までみたいな感じです。彼は、飲み屋の女性の相談にも真剣に乗るし、一方自分も本気で楽しんでいる。でも仲間との筋は通すし、嘘はつかない。人によって対応を変えない。またその社長は見かけもかっこよく、なんかワクワクする感じがあって、だんだん自分も楽しくなってしまい、ちょいちょい六本木で一緒に遊ぶようになりました。今も仲良くしています。ここでは書けませんが、いろんな貴重な体験をしましたね。
　
　そんな中で学びがあって、その頃の自分が仕事世界の眼鏡でしか他者を見ていない部分がある事に気づかされました。
人はもっと本質的な欲望や好き嫌いで生きているし、プライドもあり格好つけたい自分もいる、その頃の自分はそこを見ようとせず、優等生的な考えで本質的な人の見方が出来ていなかったと。自分も成り上がりでここまで来たのに、成長するプロセスで形式的・模範的なものの見方になっていた感じがします。そして見方を変えて他者を見ると、その人のプライベートも含めた環境とか狙っている事とか、困っている事が想像できるようになり、広い意味での相談にのったり、コミュニケーションの幅も広がって行きました。むしろ本来はこっちの方が自分らしいなと思い始めました。

　その後創った、うちの会社の人事制度の最初に「個人ビジョンと企業ビジョンの融合」というのがあります。本来人は個人としての幸せを求めて生きている訳で、その個人としての価値観においての幸せを実現するために、仕事があるんだと思います。そういった個人の価値観と会社の仕事がつながっていれば、自らの意志で人はみんな積極的に働く事になるんだと思います。

　経営者及びマネージャーの仕事は個人のそういったビジョンと会社事業のビジョンを結びつける事が重要です。その為にはまずは彼らを理解する事ですし、理解できるような考え、経験を持つ事が必要だと思います。そしてそれを実現するための情報や機会を与えることだと今は思っています。