ロマンチズムとリアリティ
~新しいビジネスを軌道に乗せる~
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でも実際にこれをちゃんとマネタイズしていくプロセスになると、逆に究極のリアリズムが必要になってきます。
よくビジネスを立ち上げるプロセスを、0→1と、1→10みたいな感じで語る事がありますね。ゼロからある程度のところまで作り出すプロセスと、それを拡大していくプロセス。経営者のタイプも2つに分かれると言われる事があります。
最近個人的には、これをもう少し分解して、0→0.5、0.5→1.0、1.0→10の3つに分けて考えます。新しいビジネスは、ほとんどの場合ある個人の思い付きやひらめきから始まります。それを、ある程度の形までもっていくのが最初の0.5で、そしてそれを収益が出る(もしくは未来的に高い確率で出ると想定される)状態の最低パッケージまでもっていく0.5→1.0。そして実際にその収益を拡大していく、掛け算のプロセスの1→10
最初の0→0.5までのプロセスは、まさしく自由に発想して、理想を追求して、いろんな機能を足してみる。よい意味で予算とか期限とか考えずに発想した方がよいのではと思います。で、このあと0.5→1.0のところが一番バーが高く、多くのニュービジネスはここを超えられずに終了する事になるんだと思います。
この段階から、最初のプロセスと違う究極のリアリズムが必要になるのも、ここを超えられない一つの要因かと思います。最初のビジネスを発想した原点や一番重要な事だけ残して、よい意味でいろんなものをそぎ落としていく。ここで最初のプロセスの思考が残っていると、いろいろとまた足したくなりますね。でも多くの場合、ここは閉じて深めていった方が本当の強みになっていくと思います。でも自分たちで創造してきたものをシンプルにしていく過程は他者から見るより大変です。
選択して閉じたサービスやプロダクトの一つ一つのメニューや機能、単価や、新規獲得コスト、顧客満足度やリピート率、それぞれのバリューチェーンにかかるコストなどのパラメーターを微妙に調整して、最適解を探していく事になります。ここらへんが一番高速にPDCAを回していかなければならない時期ですね。
なぜならばこの1に辿り着くまでの期間は、ずっとキャッシュアウトが続く訳で、しかも最初の0→0.5プロセスに比べると、運営コストは何倍にもなっているケースが多いからです。またこの1を作るプロセスで、再現性のある形を作れるか、その市場定義でどこまでの成長性があるのかを見極めなければなりません。
ここがちゃんと考えられていないと、1が出来たと思い、次の1→10のプロセスに入っていった時に、サービスのクオリティが著しく下がったり、余計なコストが発生して成長するんだけど儲からない形になったりしますね。
よくあるのがトップや一部の属人的な人材の営業力やサービス提供力に頼った形の1、もしくはそのサービス・プロダクトの状態では、実は一部のターゲットだけにしか強みが発揮できない1だったりする場合ですね。
そして、その結果収益拡大する事が難しくなるパターンです。でもここはある程度はしょうがないと思います。とりあえず対外的にも1が出来ていると見せなければ、資金や人がついてこない事もあります。本当は、1でなくて0.8とか0.9とかくらいなんだけど、10に向かうプロセスをやりながら、そこを埋めていくというのがほとんどの場合の現実なのかも知れません。
おまけですけど、市場がある程度成熟してきて10→10もしくは9の状態もありますね。この場合はそもそも、撤退も含めて、その状態で何を目指すのかを明確にする事かと思います。ともかく収益なのか。その事業をしている事で生み出される知見やブランドなのか。
たまたまかもしれませんが、今うちの会社には、ちょうどこの4つのパターンの事業(もしくは準備中の事業)が存在しています。それぞれにおいての課題が違うので、全体としての会社の運営は大変と言えば、大変なのですが。そうしたいくつかの状態の事業を俯瞰してみる事でいろいろと解る事もあるかなと最近思います。
■萩原 張広 Profile
株式会社エムエム総研代表取締役CEO。株式会社リクルートにて法人営業、営業マネージャーとして7年のキャリアを経て、株式会社エムエム総研を設立。法人営業のコンサルティングサービスを大手IT企業やベンチャー企業に向けて多数提供。1998年、ニューヨークでの視察経験から日本でのBtoBマーケティングの必要性と可能性を感じ、業態をBtoBマーケティングエージェンシーとする。以降、数百件のマーケティングプロジェクトに関わる。