2024年には約1兆1,200億円へと拡大すると言われているSaaS市場。コロナの影響を受けて、デジタル化、業務効率化がさらに加速しているのはビジネスパーソンならば肌で感じていることでしょう。 今回は掲載社数が3,000社を超える、SaaSマーケティングプラットフォーム「BOXIL SaaS (ボクシル サース)」を運営するスマートキャンプ株式会社マーケティング本部長の佐々木皇太さんにご自身のキャリアからはじまり、SaaS業界の現況やSaaSでのキャリア構築のポイントについてお話しを伺ってきました。
インタビューは、マーキャリNEXT CAREER(転職エージェント)でデジタルセールス職への転職支援を行うキャリアアドバイザー正守が行いました。
佐々木皇太 スマートキャンプ株式会社マーケティング本部長/ADXL株式会社取締役
インターンでのメディア運営、Webテクノロジー系ベンチャー企業でのSaaS事業の立ち上げに携わり、その経験を生かしてスマートキャンプに参画、現在マーケティング本部長として「BOXIL SaaS」のグロース、チームメンバーのマネジメントを担う。
新卒2社目でマーケティング本部長へ、どのようにキャリアを確立したのか?
正守:佐々木さんは新卒時にWebテクノロジーのベンチャー企業(以後、A社)に入社されたと伺いました。その際はどのような業務をされていましたか?
佐々木:ちょうど入社したタイミングで「SaaS事業を立ち上げよう」という話が上がっていて、立ち上げ時にマーケティングを担当させていただきました。 展示会などのマーケティング活動から、マーケティングの枠を超えたインサイドセールス、フィールドセールスなどの営業を経験し、顧客が増えてきた段階では自分でカスタマーサクセス組織の立ち上げも行いました。 営業だけでは解決できない領域については、お客様から聞いた声を社内にフィードバックして「それに対応した機能を作ろう」と企画立案からディレクションまでやりましたね。
正守:多岐に渡る業務を体験されているのですね。そのように幅広くチャレンジする機会はどのように生まれたのでしょうか?
佐々木:スタートアップでしたので裁量が大きい分、メンバーの業務内容が確立しているわけではありませんでした。 私はそういった環境の中で、既存の業務だけではなく見つけた課題の解決策を考えて実際にアクションに移し、上手くいったものを会社のオフィシャルとして取り入れる。という動きをしていました。
例えば、営業職は既存のお客様を持ちながら、新規顧客も開拓しなければいけないので、受注すればするほど営業の効率が落ちていきます。そこでカスタマーサクセスという組織を導入し、どういうKPIを持つか、どれくらいで売上がプラスになるかなどを考えたわけです。 組織の課題を見つけたら、その解決策としての原型を主体的に作っていくこと。それでチャレンジする機会、キャリアアップする機会を作ってきたと言えますね。
正守:カスタマーサクセスについては、どのように出会ったのでしょうか。
佐々木:カスタマーサクセスという概念がまだ今ほど浸透していなかった頃、Web系企業の方から「新規の営業と既存の営業が別れている組織がある」といった話を聞きました。調べていくと、欧米で普及してきている「カスタマーサクセス」という職業にたどり着き、会社への導入を進めていきました。
正守: そのように新しいチャレンジを行う中で、成果を出すために、どのような努力をされてきたのですか?
佐々木:いかに「試行回数」や「行動量」を増やすかが共通して重要だと思っています。企画段階で止まっているものは、まだ効果測定すらできていないので、実行、トライしてみることを大切にしています。 失敗を恐れて施策を1個しかできない状態よりも、10個やって8個失敗して2個当たるほうがトータルでプラスになるので、いかに試行回数を稼ぐか、実行に移すかを大事にしていますね。
マーケティング本部長として確実に成果が還ってくるミッションを作る
正守:さまざまな経験を経て現在はマーケティング本部長になられたということですが、スマートキャンプでの業務について教えてください。
佐々木:スマートキャンプの中では大きく2つあります。1つはBOXILカンパニーの中のマーケティング本部で本部長を担当しています。もう1つは「BOXIL SaaS」以外の事業のマーケティング組織のサポートも行っています。
正守:BOXILカンパニーのマーケティング本部では、どのように取り組んでいるのでしょうか。
佐々木:実務もありますが、基本的にはメンバーが気持ちよく仕事できるように、戦略を明確に打ち出す業務をしています。実際に実務をやるメンバーが100頑張ったら、100以上の成果が還ってくるようなミッション作成や方針出しを心掛けています。
マーケティングの中でも特にWeb領域なので、組織の評価制度については基本的には定量です。メンバーが担当した施策でどれくらいリード獲得や売上が伸びたかを重視して評価しています。他にも施策の横展開や、他の事業部でも活かせるかどうかなども評価軸です。 今、組織は正社員だけでいうと10名弱で、事業が成長するとやはり人も足りなくなるので、事業規模に合わせて必要なポジションを都度採用する形でやっていますね。
SaaS企業のカギは「常に変化する顧客のニーズをいかにくみ取るか」
正守: SaaS企業の組織に共通した特徴はありますか?
佐々木:共通した特徴で言うと、立ち上げの流れですね。コンサルティングを経て、お客様の課題を見つけて、ソリューションのシステム化を検討し、SaaSが立ち上がるという、一定のプロセスがあると思います。 そして、常に変化するお客様のニーズに対応する点です。 例えばiPhoneで言うと、当時ガラケーを使っていた人にとっては、iPhone3Gが出た時には「すごい!」と思ったはずです。
しかし、今の時代iPhone3Gを出しても「古い」「使えないな」と感じるんですよ。 お客様のニーズは便利になればなるほど高まっていくと思うので、それをいかに拾い上げ、仮説や実行に移せるかが大切ですよね。 実際にプロダクトに活かしたことをPRしてマーケティングにつなげ、その成功事例をセールスにも共有し、課題解決に行き着くためのイメージの共有ができている企業は、上手く事業が回っているなと思います。
スマートキャンプが感じるコロナ禍以降のSaaS市場の変化
正守:最近の動向についてですが、コロナがきっかけで御社の資料請求などに何か変化は起きていますか?
佐々木:かなり変化が起きています。もともとWeb会議システムは、遠方の方と相談するときに使う便利なもの、というイメージがありました。 しかし、現在は遠くにいようが近くにいようが、Web会議をして当たり前です。その「新常識」が生まれたのがちょうど1年前、2020年の3~5月で、そのタイミングでWeb会議システムの資料請求数が急に伸び、ニーズが広がりました(※)。
※ 「ボクシルマガジン」注目SaaSの月次動向を解説
https://boxil.jp/mag/a7259/
BtoB SaaS企業の資料請求が可能な「BOXIL SaaS」
出典:https://boxil.jp/
正守:Web会議システム以外でも資料請求の増加は見受けられますか?
佐々木:そうですね。その後のフェーズでいうと、初期段階では「離れていても最低限コミュニケーションが取れるツール」が最も重要で、一番ニーズが伸びていましたが、 さらに時間が経つと、コミュニケーションに関してよりも、もっと高度な情報共有についてのニーズが高まっていましたね。 例えば、テレワーク推奨であっても、バックオフィス(人事・経理・総務など)の人は、請求書の管理や契約書への捺印業務があるので出社しなければなりません。社内の特定の部門だけが、テレワークができない状況が生まれてしまっている。そこで、いかにその課題を解決するかが注目され、請求書発行や電子契約についてのニーズが高まりました。
正守:マーケティング関連のツールについてはいかがでしょうか。
佐々木:マーケティング関連のツールは一貫して伸びていると思います。BtoBでいえば、現在はオフラインのマーケティング自体が難しくなってきたので、過去にオフラインで獲得したリストをマーケティングオートメーションでナーチャリングすることや、Web上で新規顧客を獲得するための広告系ツールの導入が伸びていますね。
成長性だけではないSaaS業界の魅力
正守:わかりました。では次に、SaaS企業の現況、業界としての魅力について教えてください。
佐々木:政府主導な部分もありますが、今企業の生産性向上についてフォーカスが当たっている状態だと思います。 その現状を踏まえ、今まで非効率な業務をしていたところを効率化できるようになると、その先に働く人の「生活の幸せ」も実現できると思っています。 それを実現するためにSaaSは要で、生産性やデジタル化は避けて通れない領域ですので、それに携われるのは社会的な意味もやりがいも大きいと思います。
また実際SaaS企業の市場自体は今も伸び続けています。市場が伸びているところに入っていくと、事業が成長し続けていれば人もポジションも足りなくなるので、業界が伸びれば伸びる分、座れる椅子(ポジション)がどんどん増えていきます。 その結果、キャリアアップもしやすい環境が生まれますし、その椅子(ポジション)を増やす仕事もできるようになるので、自分の身近な人や一緒に働く人の幸せを実感しやすい業界かなと思います。
SaaS企業、BtoBマーケティング組織で評価される人材とは?
正守:今後SaaS企業に転職したいと考えている人に向けて、どのような人がSaaSで評価されるのかをお聞かせいただけますか。
佐々木:どちらかというとBtoBの営業・マーケティング組織で評価される人の特徴になりますが、他のマーケターと比べてコミュニケーション能力や1つのプロジェクトのマネージメントスキルは重要だと思います。 その理由は、例えばBtoCの事業体だと顧客の数や利用者が多いため、ビジネスモデル的にWebで完結しやすく、場合によっては周りを巻き込まなくても自分1人で成果を出せることも多いからです。 自分で企画してユーザーの声を聞き、良いコンテンツ作成・配信をし、1つ勝ち方を見つけたらあとは予算を投入するなどして、マーケティングの成果を出しやすいのです。
一方でBtoBマーケターは、集客やコンバージョンを取って終わりではありません。 リードが自社サービスのターゲットに合うかどうかや、実際の商談化率・受注率などはその先にいるセールス等によって成果が左右されるので、見た目上や数字上では効果が出ていても実は事業としてはあまり効果が出ていない状態に陥りがちです。 その際、関係部署全員を巻き込んで声を拾い上げて、定性情報をきちんと踏まえた上で次の施策に移していくためには、社内での信頼関係や広い意味でのプロジェクトマネジメントスキルが重要だと思います。