セールスフォース部長が語る営業キャリア〜自ら創り出した機会と変化とは?〜

セールスフォース部長が語る営業キャリア〜自ら創り出した機会と変化とは?〜

Profile

広瀬佑貴 株式会社セールスフォース・ジャパン

BtoBマーケティング支援のベンチャー企業に入社し、テレマーケティング商材のアウトバウンド営業を経験後、MAツールの新規営業部隊に配属され活躍。2016年にセールスフォース・ジャパンに入社。国内シェアNo.1のMAツール「Account Engagement (旧 Pardot)」の営業活動を行い、現在は営業チームのマネジメントを行う。エムエム デジタルセールス・アカデミーの特別外部講師も務める。

目次

現在、セールスフォース・ジャパン(以後、セールスフォース)で部長として活躍される広瀬さん。就職氷河期の中、28歳でビジネスキャリアをスタートされ、一筋縄ではいかない経験をされてきました。今回は、営業活動で苦労された経験と克服方法、現在の仕事内容や今後の展望などについてお伺いしました。

アルバイトからスタートしたビジネスキャリア

―大学院ご卒業後、28歳でキャリアをスタートされたということですが、最初にベンチャーで営業職を選ばれた理由を教えてください。

学生時代は少し遠回りをしまして、27歳になる年に就職活動をスタートしました。当時は就職氷河期だったこともあり、まわりと比べて年齢のハンデもあるので大手企業は半ば諦めていて、実力主義で評価されるイメージのベンチャーが合っているだろうと考えていました。営業職については特段意識していたわけではないのですが、実力主義=営業というようなイメージはあったので、営業としてキャリアをスタートさせることに違和感はありませんでした。


―28歳で初めて社会に飛び込むのは簡単ではありませんよね。就職活動では苦労されたのでしょうか?

就職活動は一筋縄ではいきませんでした。実は前職のベンチャー企業では新卒採用で2回落ちるという経験をしています。1回目は最終面接で不採用になりました。その後、電話で頼み込んで人事部長をご紹介いただき再面接のチャンスを掴んだのですが、2回目の面接でも結果は不採用となります。

偶然にも、2回目の面接の帰りに3次面接の面接官だった役員の方と外でばったり会い、色々あってアルバイトからチャレンジする機会をいただきました。ただ、アルバイトとはいえ人事部の決定を覆す形での入社だったので、新卒として大事に育てられるという感じではなかったですし、年を重ねているわりには社会人経験もないわけですから、苦労がなかったと言えば嘘になります。

ちなみに、アルバイトとして入社した年度末の3月に正社員になれるかを判断されることになっていましたので、少しでも成果を出そうと必死でした。また、チャンスをくれた役員になんとか恩返しをしたいという強い気持ちもありました。


それなりに売れるがブレイクスルーしないことへの葛藤

―入社されてからは、営業としてどのように成果を上げたのでしょうか?

まず、入社後3カ月間は当時発足したばかりのマーケティング部のアシスタント業務で、主にSalesforce上のデータメンテナンスを行っていました。要は名寄せ作業です。それと平行して、当時はまだインサイドセールスという言葉はなかった時代ですが、アウトバウンドコールで自社サービスのアポ取りも行っていました。

その後、新サービスのテストマーケティング的な位置づけとして新規開拓営業のニーズが社内にあり、営業にチャレンジする機会をいただきました。別サービスの既存客へのクロスセル営業や、自らリストアップ〜コールドコールをして新規アポ取りも実施しました。

当時は「成果」=「定量的なもの」という単純な思考回路だったので、とにかくアピールをするこの上ないチャンスだと息巻いていました。しかし結果はダメダメで、半年間で受注できたのはたった1社でした。最終的には定性面も評価いただき、正社員として採用してもらえることにはなったのですが、こんなにも成果が出ないものかと、営業の難しさを痛感したのを覚えています。

一方で、この頃サポートいただいた先輩方は今振り返ってみても本当に優秀な方ばかりで、紆余曲折ありながらもこうした方々に教えをいただけたのは不幸中の幸いというか、本当に貴重な経験となりました。今でこそ営業研修の講師をさせていただくこともありますが、研修コンテンツの中にはこの頃学んだことも多く含まれております。


―その後、MAツールの新規法人営業に移られていますが大変さはありましたか?

当時は月間「新規40アポ獲得、新規40訪問」というKPIが営業の標準的な指標だったので、さすがに1年くらい経つとそれなりの成果を上げられるようにはなってました。しかし、会社紹介、製品紹介、デモを同じクオリティでやっているのに“売れるときと売れないときがある”点ではもどかしさがあったのを覚えています。

・商談でお客様とすごく盛り上がったのに月末に失注になった
・お客様の課題とソリューションがFitしているのに決めてくれなかった
・なぜ失注になったのか分からない(ので、どこをどう改善したらいいかぶっちゃけ分からない)

これらは法人営業あるあるだと思いますが、私も画に書いたように同じ道をたどってきました。原因は至ってシンプルで、お客様の状況は様々であるにもかかわらず、パッケージングされたテンプレ営業しかできていなかったことです。

本来はお客様との会話を通じて問題から課題を読み取り、その課題を解決するための手段として製品・サービスを提案するのが営業の役割なのですが、それらがまるでできていませんでした。つまり売れた時はたまたまお客様の中でそれらの整理がされていただけに過ぎなかったということです。本当の意味でこれを理解できたのは営業をはじめて3年目くらいだったと思います。

安定して高い成果を出すために取り組んだ3つのこと

―高い成果を出すことや、顧客の課題を解決する本質的な提案力を身につけることに関してはどのように乗り越えましたか?

3つ取り組んだことがあります。1つ目は、商談で自分がしゃべる時間を極力少なくしたことです。今でも印象的な出来事ですが、当時もやもやしていたことを先輩に相談した際に返ってきたのが、

「デモするのを辞めてみたら?」
「ツールの価値は口頭でも十分伝えられるし、デモを辞めてお客様の悩みをいろいろと聞いてみては?」

というアドバイスでした。振り返ってみると、たしかにそれまでは一方的に自分がしゃべるばかりで、お客様のことはよく分かっていなかったなと……。商談時にお客様より自分が話す時間が多いことに気づきハッとしました。

ちなみにこの話には少しオチがありまして、とにかく最初は振り切って“聞く”ことに注力をしたのですが、話は沢山聞けるがまるで提案につながらないという状況によく陥ってました。3カ月くらい経ってようやく「なんでもかんでも聞けばいいってもんじゃない、重要なのは売るためのヒアリングである」と、少しずつバランスがとれるようになっていくのですが、ともあれこの気付きはブレイクスルーの1つのターニングポイントだったと思います。

2つ目は、商談後にお客様からフィードバックをもらう時間を設けたことです

5分前に商談を終わり、商談の最後に「本日の私の商談に対してフィードバックをして欲しい、良い点、悪い点を1つずつ教えて下さい」と商談相手のお客様に直接お願いをしていました。始めたキッカケは覚えていないのですが、若手営業っぽく見える20代しかこの取り組みはできないだろうと思って実施をしていたのを覚えています。

今でも鮮明に覚えているのは、

「営業としての熱意は良かった。ただ、もし広瀬さんがもっとうちの課題に対してヒアリングをしてくれて、それに対する解決策という形で製品を紹介してくれたら、もしかしたら今日この場で決めていたかもしれない」

というお客様からのフィードバックです。こうしたアドバイスをお客様からもらったことも、前述した1つ目の取り組みに振り切ることへつながっています。

3つ目は少し視点が変わり、受注率を上げるためにアポイントを決裁者に限定したことです

当時「新規40アポ獲得、新規40訪問」というKPIがあったことは前述のとおりですが、決裁者でないとなかなか商談が前に進まないことは経験を重ねるうちによく分かってきました。そこで、300名以下の企業は社長、もしくは営業部管轄の役員に絞ってアポをとることにしました。ただしアポ取りの難易度は高くなるため、同時にアポの目標件数は25件に下方修正することも宣言しました。

ちなみに25件という数字は当て勘ではなく、自分の商談を振り返り、決裁者が相手だった商談の受注率を計算すれば、どれだけアポを取れば達成できるかは予測ができたので、ある程度の自信はありました。結果的にこの取組はうまくいき、40件のKPIを追いかける人よりも高い成果を出すことができました。もちろんたまたま上手くいったのかもしれませんが、現状に疑問を持ち改善のサイクルを回すことの大事さを学んだ経験となりました。

また、決裁者に限定をしたのは「営業力を上げる」という視点もありました。普段が手抜きということではもちろんありませんが、自分よりも遥かに経験の多い方と商談をするには相応の準備が必要ですし、決裁者は総じて忙しく1度の商談で失敗ができないプレッシャーもあります。そういった経験が営業力を鍛えるにはもってこいだと思っていたのもあります。


ベンチャーから大手外資ITへの新しいチャレンジ

―セールスフォースに転職されて、外資と日系との違いは感じましたか?

営業の数字へのコミットメントという点ではやはり並々ならぬ“すごさ”を感じましたが、営業のスタンスという点では本質的なところは一緒だと感じました。セールスフォースで当初配属されたSMB領域では、マンスリーマネジメントを行い、営業数字を各KPIに落とし、目標に対する件数を細かくブレイクダウンしチェックしていましたが、これも前職時代も変わらずに行っていたことだったので違和感はありませんでした。

また、前職でも営業としてSalesforceを利用していたこともあり、普段の営業活動にSFAがあることにも違和感はありませんでした。むしろここは積極的に好きというか、「あの商談なんだっけ?」みたいなシーンって営業はよくあると思うんですが、それを探したり思い出そうとするストレスって意外とあると思うんです。そういうストレスも積み重なるとパフォーマンスに影響すると思いますので、常に頭をクリアにしておくためにも「自分の記憶脳をクラウド上にもう1個作り、データを自由に取り出せる状態をキープする」ことは自分には合ってました。


―セールスフォースの営業組織における広瀬さんの役割について教えてください。

セールスフォースでは現在Account Engagement (旧 Pardot)営業本部という部門に属しており、同ツールの国内売上の最大化がミッションとなります。現在は同部門のマネージャーとして、主にエンタープライズの領域を見ています。

従来セールスフォースでは、お客様の従業員数と郵便番号でマトリックスを作り、そこに営業をアカウンティングさせるという体制をとってきましたが、昨今の製品の多様性、複雑化により営業1人がすべての製品のプロフェッショナルとして営業をしていくことが難しくなりました。そこで、2016年に立ち上がったのが「製品のスペシャリスト営業部門」で、私はAccount Engagement (旧 Pardot)の部門立ち上げメンバーとしてセールスフォースにジョインしました。

入社当時は国内でAccount Engagement (旧 Pardot)を売る体制が整っておらず、本当にゼロからのスタートだったので、営業同行はもちろんのこと、紹介資料の作成、デモ動画の作成、営業へのトレーニングなど、アカウント営業が案件を発掘し、売れるようになるための仕組み作りにはかなりの時間をかけました。

また、案件創出のためのセミナー企画、事例作成、ユーザー会の企画など、マーケやCSの業務もやりましたし、当時は国内で支援できるパートナーもほとんどいなかったので、協業パートナーの開拓といったアライアンス業務もやりました。さらには、目標予算はUSから落ちてくるので、達成するためのKPI策定、市場分析などストラテジー業務もやりました。要は、売れるために必要なことは優先順位をつけて片っ端から片付けていった感じです。

今でこそ部門の人数、社内の関係者、パートナー企業様も増え、これらのほとんどが分業で行える体制になりましたが、何も揃ってない環境に飛び込んだことで様々なことを経験できたのは運がよかったと思います。


高い成果をあげるためのマネジメント視点

―現在マネージャーという立場で特に意識していることはありますか?

マネージャーの仕事は、「組織の成果」と「メンバーの成長」に責任を持つことだと考えています。成果だけ上げてもメンバーが育たなければ組織は強くなっていきませんし、逆にメンバーは成長しても成果を上げられなければ本末転倒です。マネージャーはこの両軸が達成できて初めて職務を全うしたと言えると考えています。

組織の成果という観点では、一過性のものではなく再現性も同時に求められます。場当たり的な対応ではなく、現状の問題から本質的な課題を読み取り、人・モノ・金をどこに投資すれば最もレバレッジが効くか、優先順位をつけて対応していくことを常に意識しています。

そして、その判断を間違わないためには、定期的にメンバーと会話をして現場の状況を把握したり、商談に参加してお客様の生の声を直接聞いたり、情報収集できるルートを沢山作っておくことも重要だと考えています。

この一環として実施しているのが、メンバーとのWeeklyの1on1です。仕事の話はもちろんですが、最近あったプライベートの話など、メンバーの状況に応じて内容は毎回アレンジしています。最近ではテレワークなので画面越しにはなってしまいますが、相手の顔を見て直接コミュニケーションすることで、疲れていないか?困りごとはないか?悩みはないか?自分が役に立てることはないか?色々な情報を得ることができます。

また、メンバーの成長という観点では、与えられた目標を達成できるようになるために必要なビジネススキルや営業スキルを教えることは当然として、メンバーの「ありたい像」「なりたい像」「目標」などを理解した上で、それらと紐付けながら具体的な次のステップや期待値を伝えるよう意識しています。メンバーからすれば働くことへの究極の動機は“自己実現”にあるわけですから、現在の仕事がそれにどうつながるか、時には一緒に考えてコミュニケーションするようにしています。この点でも、メンバーとの定期的な1on1は有効な手段と言えます。


―ありがとうございます。アルバイトからスタートしてMA黎明期の立役者として活躍される中で、仕組み作りや見直しで大きく飛躍されたのだと感じました。広瀬さんの今後の展望を教えてください。

まずは、日頃ご利用いただいている企業の皆様に心からお礼申し上げます。おかげさまでAccount Engagement (旧 Pardot)は国内で最も使われているマーケティングオートメーションツールとなりました。このようなポジションにセールスフォースがいるからこそ、国内のマーケティングオートメーション市場がより盛り上がるようリードしていく責務を負っているとも感じています。

課題に悩まれながらなかなかMAの利用に踏み出せていないお客様に、利用していただくきっかけを広げていくことはもちろんですが、MAで上手くいった事例を集合知としてシェアしていくことで、現在お使いの企業様がさらに成果を上げられるよう、競合他社も巻き込みながら業界を盛り上げていくなど、やるべきことはまだ沢山あると感じています。

自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ

―広瀬さんが思うデジタルセールスとして活躍する人の特徴があれば教えてください。

色々ありますが、1つ目は目の前のことに一生懸命になること。2つ目は他責にせず仕事を自分事と捉えられるスタンスでいること。3つ目は再現性を追求することかなと思います。どれもシンプルですが、結局こういったシンプルなことを実直にこなしていける人が活躍しているという印象です。


―最後に講師も務められているデジタルセールス・アカデミーで転職を目指す方にアドバイスをお願いします。

「自ら機会をつくり出し、機会によって自らを変えよ」という私の好きな言葉があります。デジタルセールス・アカデミーに入校し、新しい世界を切り開こうとしている皆さんは、すでに自ら機会を作り出している人だと思います。あとは、この機会によってどう自分を変えるかだけです。

せっかく掴んだ素晴らしい機会をよりよいものにしていくために、ぜひたくさんのことを吸収し学んでいただければと思います。皆さんがデジタルセールスとしてキャリアを歩きはじめ、いつか一緒に仕事ができることを楽しみにしています。


―ベンチャーでの営業活動経験や現職でのマネジメントなど貴重で濃密なお話を本日はありがとうございました!



クラウドサーカス
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マーキャリ 編集部

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