The Modelを解説 〜SaaS/IT業界で導入が進む新しい営業プロセス〜

The Modelを解説 〜SaaS/IT業界で導入が進む新しい営業プロセス〜

目次

近年、マーケティングや営業分野における組織改革で「The Model」と呼ばれる仕組みを導入する企業が増えています。The Modelとは、マーケティングでの顧客集客から、インサイドセールスやフィールドセールスでのセールス活動、そしてカスタマーサクセスまでの工程を役割で分業化し、売り上げを最大化していく考え方を指します。本記事では、The Modelの概念や従来営業との違い、導入企業の実例などをご紹介していきます。

1. The Modelとは?

マーケティングや営業改革として、さまざまな企業でThe Modelの仕組みが注目されています。The Modelの仕組みとは一体何か、概念や、仕組みを取り入れることのメリットなどについてご紹介していきます。

1-1. The Modelの概念とは

The Modelとは、売り上げを拡大するのに適した営業プロセスモデル、のことを言います。元々は、セールスフォースドットコム社が活用していたモデルで同社が提唱した名称ですが、2019年に福田康隆氏が著者である書籍『THE MODEL』が刊行されたことにより、日本国内でも注目を集める営業プロセスモデルとなりました。

The Modelの特徴は2つ、1つは営業プロセスを4つの段階に分類し、役割を分け、各段階で数値の可視化を行い、効率を図る点です。そしてもう1つは、このモデルの最大のゴールは顧客満足度の向上であり、各部門の中でも特にカスタマーサクセス部門を追求している点にあります。実際に、セールスフォースドットコム社では、このモデルを「お客様の成功と共に売上拡大・成長する仕組み」とも呼び、自社に取り入れたことで、1999年の設立以来、継続的に高度な成長を維持しています。

2. 従来型営業との違いとは

従来型の営業は、顧客獲得から商談の実施、契約処理や顧客サポートなど全てのプロセスを、営業担当者1人で担う、といった「一気通貫型」と呼ばれる営業手法が一般的でした。それと比較し、営業プロセスの一連の活動を仕分けし、細分化する「分業型」と呼ばれる営業手法を取り入れているのが、The Modelの手法です。例えば、新規顧客獲得をメインに担う部門や、商談実施をメインとする部門、契約後の顧客サポートをメインとする部門など、役割やミッションによって仕分けするといったイメージです。

また、これまでは1つの案件を1人の担当者が担当することが通常であり、案件を引き継ぐといったケースは、担当者の退職時などの担当変更をせざるを得ない場合に限られることが一般的でした。しかし、The Modelの場合には、1つの案件でも他の部門間を跨ぎ、情報を連携して顧客対応を進めていく点にも違いがあります。

3. The Modelの仕組みが注目される背景とは

The Modelの営業モデルが企業の間で注目を浴びるようになった理由は、大きく分けて2つ挙げられます。

1つは、サブスクリプションやSaaSといった業界のビジネスが世界的に見ても拡大していることです。サブスクリプションとは、月額課金や定額制で契約するビジネスモデルであり、単発的な販売で終わりの売り切りモデルではなく、継続的に利用し続けてもらうことが重要視される仕組みです。そのため、部門間で密に連携し合うことで、顧客の満足度を上げるThe Modelの構造が向いているとされるようになりました。

2つ目に、営業が活用するデジタルツールが迅速に普及したことが影響していると言えます。MAツール(マーケティングオートメーション)、CRM(顧客管理ツール)などを営業現場に取り入れることで簡単に情報共有ができるようになり、部門間の連携がしやすくなった点も、The Modelに注目が集まっている要素とも言えるかもしれません。

4. The Modelを取り入れるメリットとは

The Modelの仕組みを取り入れることのメリットは、どういったことが挙げられるでしょうか。ここでは、「売り上げ」と「人材」への影響をポイントに、2点ご紹介していきます。

4-1. 専門性を高めることにより利益を増大できる

The Modelの仕組みは、役割とミッションとで部門を細分化するため、より専門知識に特化したスキルを身につけることができます。専門性の高い人材を育成することで、より効率的に売り上げを増大できることにつながります。

これまで営業職は、売り上げを背負う部門でありながら、行う仕事内容は非常に多く兼務して進めていくことが通常だったために、オールマイティーに物事をこなせる能力を必要としていました。そのため、専門職としての扱いではなく、総合職的な位置付けでした。ジェネラリストとして活躍できる人材が育つ一方で、売り上げに特化したスキルに限り向上させる時間の確保が難しく、売り上げにつながらないといったデメリットが目立ちました。

The Modelは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの各部門で分業するだけでなく、さらに仕事内容で細分化し、必要となるスキルを高めることで、営業効率を最大化できるとしています。

4-2. 組織成長につながりやすい

The Modelの仕組みを取り入れることで、経営視点でのメリットも得られます。それは、社内の組織成長につながりやすくなるという点です。

The Modelの仕組みは、分業型のため、潜在顧客のリード情報、顕在化した顧客のリード情報を適宜共有し、連携しながら運用を進めていきます。時に、マーケティング部門とフィールドセールス部門で衝突することもあるでしょう。例えばマーケティング部門は、苦労して獲得した潜在リードを確実にクロージングして欲しいとフィールドセールスに求めるかもしれませんし、逆にフィールドセールス部門は、良質なリードをパスして欲しいというケースです。このようなケースは、各部門との距離感が遠く、お互いが持つ指標までは構っていられないというのが要因となり得ます。

この場合、The Modelのような分業制を敷いていると、各部門の間にいるインサイドセールス部門が間に入り、各部門の数値を把握し、施策を実行する潤滑油の役目を担うことにより衝突が緩和され、組織連携力も強くなります。

5. The Model導入中の企業例

The Modelの仕組みを導入し、飛躍的に成長した企業の取り組み内容やその効果についてここでご紹介します。

5-1. Sansan株式会社の事例



 出典:https://jp.sansan.com/introduction/

Sansan株式会社は、クラウド上での名刺管理を行えるサービスの提供、そして営業支援ソリューションを提供しています。市場でのデジタルニーズが高まったことから、人員増加が必要となり、それに伴い営業全体の根本的な見直しが必要とされ、The Modelが導入されました。

The Model導入により期待することは、再現性の高い営業プロセスを確立すること。

行ったことは、まずはThe Modelの分業型の仕組みを取り入れ、各部門でのKPIを提示し、各部門の役割を明確にしました。また顧客開拓からカスタマーサクセスまでの各部門の行動を分析し最適化を図っていきました。

その結果、顧客取引先リードの数がThe Model導入前に比べ3倍という凄まじい効果を生み出しました。

5-2. オリックス株式会社の事例



出典:https://www.orix.co.jp/grp/

オリックス株式会社は、多角的金融サービス業を展開する企業です。オリックス社は2005年からインサイドセールスチームを立ち上げ、The Modelの仕組みを体現しています。

オリックス社の課題は、1人当たりの担当顧客が膨大であり、また全国の各顧客を1人がフォローすることが困難にあるというポイントでした。

行ったことは、The Modelの分業性の仕組みを取り入れ、各部門の役割と行動を明確にしました。また、SFAを導入し、データの蓄積や分析を行えるようにし、部門間での情報共有が簡単に行えるようにしました。MAツールも導入し、リードのナーチャリングをインサイドセールスチームが丁寧にアプローチを行う仕組みを整えたことで、営業活動も効率化しました。

結果的に、デジタルツールを利用し行うリード対象数が6万から26万へと増加し、組織全体が生産性高く効率的に機能するようになりました。

2社の事例を紹介しましたが、先述の通りThe Modelに関しては、SaaS企業で広く採用され注目されている営業プロセスとなりますので、SaaS業界について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考に見てみてください。

6. The Modelの営業プロセス



The Modelでは、大きく4部門「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」のプロセスで分けるのがベストプラクティスモデル、と言われています。ここでは、4つの部門で明確にすべき数値、そして役割についてご紹介していきます。


6-1. マーケティング

  • マーケティングの役割:需要の創造/潜在顧客の獲得
  • 母数:来訪者数
  • 成功率:獲得率
  • 成功数:見込み客数

マーケティング部門はThe Modelのプロセスにおける最初の入り口部分にあたり、潜在顧客の集客や獲得をミッションとして行動します。マーケティング手法はオンライン上でのWeb問い合わせ、メールマーケティングでの獲得、またオフラインのセミナーでの獲得など、さまざまです。

ゴールとなる見込み顧客数を満たすことができれば、次のプロセスであるインサイドセールスの母数を確保できることになるため、最初の入り口に位置し、つなぎ役としての責任は重大です。

6-2. インサイドセールス

  • インサイドセールスの役割:案件の発掘/見込み客の育成
  • 母数:見込み客数
  • 成功率:案件化率
  • 成功数:案件数

インサイドセールス部門は、マーケティング部門が獲得する見込み顧客に対し、主に電話やメールなどの非対面での手法でアプローチしていきます。次の部門であるフィールドセールスに対しては、興味関心度合いが高い、または契約確度が高まっている「ホットリード」のみを受け渡します。それ以外は、リードの興味関心度合いが十分に高まる状態に育つまでインサイドセールス部門で長い時間をかけて丁寧にリードへのアプローチを行います。

万が一、案件化率が低い状態を維持するようであれば、マーケティング部門への相談を行い、質の高いリードの供給を依頼する調整役にもなります。インサイドセールス部門が自らのゴールを達成することができれば、フィールドセールスチームの母数とする案件数も満たせることになり、結果的に売り上げ貢献につながるため、The Modelの中でも非常に大事な役目だと言えます。

6-3. フィールドセールス

  • フィールドセールスの役割:商談管理/課題解決
  • 母数:案件数
  • 成功率:受注率
  • 成功数:受注数

フィールドセールス部門は、インサイドセールス部門が獲得する案件数に対し、商談を行い、クロージングをかける役割を担います。インサイドセールスは非対面の内勤営業であるのに対し、フィールドセールスは主には外勤での訪問をメインとしている職種でもあります。

インサイドセールスにより十分に育て上げられているリードに対する商談のため、比較的受注しやすい状況ですが、さらに受注率を上げるための分析が必要です。フィールドセールス個人としては、確実に受注するためのスキルを日々、磨き上げることが重要になるでしょう。

6-4. カスタマーサクセス

  • カスタマーサクセスの役割:活用支援/契約継続・追加
  • 母数:受注数
  • 成功率:契約更新率
  • 成功数:継続数

カスタマーサクセス部門は、フィールドセールス部門が受注した顧客に対し、どれだけ商品やサービスを活用し、顧客が満足した形で契約を維持し続けてくれるか、をミッションとして行動します。成約後、商品やサービスに満足し続けることができなければ解約の危機が訪れてしまいますので、それを防ぐためにも、サポートはもちろん、顧客に対し積極的な行動を行いながら更新率を上げていきます。

カスタマーサクセス部門はThe Modelの仕組みの最終部分に位置する部門ですが、この部門が更新率を上げない限り、各部門が常に新規顧客を獲得する必要が出てくるため、重要な位置付けであるとも言えます。

まとめ

The Modelの仕組みや概念について、本記事でご紹介しました。The Modelを導入することにより、営業組織の業務効率化、売り上げの増大、そして顧客満足に期待ができます。各部門がそれぞれの役割とミッションを完遂することで、顧客成功につながり、その成功が自社の利益へとつながるサイクルは、本来、会社全体が築くべき基本的なビジネスモデルでもあります。このThe Modelの概念と仕組みを理解することは、新しい営業開花への第一歩だと言えるでしょう。



マーキャリ 編集部

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